輝いている。
それから数時間後、本当の儀式が執り行われた。
それは、あの精巧な偽物より、何倍も美しい物だった。
あの光の玉の色はさらに鮮やかで、光はより力強い。
全ての光が1つに合わさり、蝋燭の芯にたどり着いた時、それは息をするのを忘れるほど、一瞬、眩く鮮やかな光を放った。
6色の灯が蝋燭にともる。
時折ゆらりと揺れながら、光の子を天へと飛ばす蝋燭の灯。
魔法や魔力は、それらを使えない人間にとっては憧れと同時に畏怖や脅威の対象となりうる。
しかし、純粋な魔力は、こんなにも美しい。
それだけではない。
正しい心を持った人々が正しく使う魔法、作り出す魔法は、とても力強く、あの光に負けないほど、輝いている。
俺はふと、儀式の直前に、ラタリーと交わした会話を思い出した。
「そう言えば、ユトリスにいる間に、浮遊馬車について少し調べた」
「……? どうしてです?」
突然の話題に、ラタリーは首を傾げる。
あの話をしたとき、どうもお前の顔が暗く、寂しそうに見えた。
思ったことをそのまま伝えると、彼女は首を傾げたまま、困ったような顔をした。
「そんなことは……」
「いや。ある」
「むう……」
ユトリスにいる間、レイラに何度か城下町へ連れ出された。
その時、魔道具の工房が集まる職人街に行った際、小さな資料館のようなものを見つけたのだ。
そこには魔道具の歴史についての資料がたくさんあり、その中に、あの浮遊馬車についての物があった。
それを見て、あの寂しそうな顔の正体が分かったのだ。
「浮遊馬車の開発には、ユトリス国王も関わっていたのだな」
「…………」
「思い出していたのだろう。両親のことを」
「…………ユウには、かないませんね」
少し寂しそうに、ラタリーが笑う。
浮遊馬車の開発に関わり、馬車が走る音を付け足した父親のことを思い出していた彼女。
その時には、もうすでに脅迫文のことも知っていただろう。
母親の後を、上手く引き継げるか。
そもそも儀式は、きちんと決行されるだろうか。
きっと、様々な不安が、彼女の中でない交ぜになっていたに違いない。
「悪かったな。気付いてやれなくて」
「そんな! ユウは何も悪くありません!」
俺の手を取って、彼女が首を横に振る。
その様子に、俺は少しだけ笑って、彼女の頭を撫でた。
「……だが、もう影は去った。真正面から立ち向かい、そして打ち勝ったお前を、お義父様もお義母様も、誇りに思っているはずだ」
「っ……!」
「大丈夫だ。絶対に上手くいく。だから、そんなに不安そうな顔をするな」
「……っはい……!」
「ユウ!」
広場の隅にある船でぼーっと灯を見ていると名前を呼ばれた。
そちらを向くと、儀式の衣装、魔道具、船はそのままで、こちらにやってくる彼女の姿。
急ぐことは無いと言っておいたのに。
呆れて苦笑しつつも、俺は乗っていた船を蹴り、その船に飛び乗った。
「町を見て回るか」
「はい!」
嬉しそうに頷く、最愛の妻。
魔法のかけられた船は、漕ぐ必要は無い。
天に昇る6色の光を背に、2人でゆっくりと、にぎわう町へ進んでいった。