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発明をする。

 ユトリスの城下町は森の中にあるため列車が通っていない。

 故に、国の外に出たり、また入ったりする時の主な手段は馬車になる。


 「魔法で空を飛ぶんじゃないのか」

 以前ユトリスへ行ったとき尋ねたのだが、

 「出来ないわけではありませんが、それを許すと魔法への対策が万全ではない、他国の要所への不法侵入だって可能になってしまうんです。なので、基本的に国境を跨ぐ魔法による飛行は、どの魔法国家でも禁止されているんですよ」

 「なるほど」

 

 馬車に乗って20分ほど経った。もう森に入ってようで、道路の舗装が消え、緑が増えてきている。

 「そう言えば、以前来たときも思ったが、ずいぶん安定した馬車だな」

 向かい合って座るラタリーに問いかける。

 山道という訳ではないが、森の中だ。

 落ちた枝や木の根などで、ガタガタと揺れたっておかしくないはずだが、とてもスムーズに走っている。

 「はい。浮いていますから」

 「そうなのか?」

 言うと、ラタリーは頷いた。

 「2、30cmほどですが、浮遊しています。車自体が大きな魔道具で、馬にも魔法が掛けられています。

 ユトリスは町がそれほど大きくないので、町中で使われていることは少ないですが、列車の駅や町外れの研究所なんかへ行くバス代わりの馬車がありますよ」

 「ほう」

 馬の蹄の音や、車輪が回る音は確かに聞こえてくるのに、浮いているとは不思議なものだ。

 そう言うと、ラタリーがくすくすとおかしそうに笑う。

 なんだ、どうした。

 「この浮遊馬車が開発されたのは今から10数年前なのですが、当初この音は無かったそうなんです」

 「では、何故今音が聞こえるんだ?」

 「それが、開発者たちがその馬車に試しに乗った時、今までずーっと音のする馬車に乗っていたので、違和感がすごかったんだそうです。振動も無いので、乗ってる気がしない、とか、進んでいるのか不安になる、とか、そう言う感想が上がったみたいで。

 それで、後からわざわざ音を付け足したんですよ」

 その説明を聞いて、俺は呆れた。

 付け足したということは、当然魔法の効果なのだろう。

 音を出すためだけに。

 まあ、自分がその立場ではないから、何とも言えないのだが……。

 俺が苦笑していると、ラタリーはでも、と人差し指を立てた。

 「結果的にはそれで良かったんです」

 「違和感が無くなったからか?」

 冗談半分でそう言うと、彼女も笑いながら首を横に振った。

 「いえいえ。危険を察知することが出来るようになったんです」

 「危険?」

 「はい。走るのはこんな森の中ですから、昼間でも薄暗く、夜になれば、街灯があっても暗いところは真っ暗です。そんな時に音もなく馬車が走っていて、急に通路へ人や動物が出てきてしまったら……」

 「事故が起こる……。なるほど。確かに町中ではやかましい騒音かもしれないが、ここでは必要なものだったのだな」

 「そうですね。……でも、最初はそこに考えが至らなかったんですよね。結果的に良くなった、と。何だかおかしいですよね」

 「だな。……だが誰も音がないことに違和感を感じなければ、もしかしたら事故が起こっていたかもしれない。偉大な開発者たちだな」

 「ふふふ。本当ですね」

 楽しそうにラタリーが笑う。

 こいつの話してくれる魔法の話はどれも面白いものばかりだ。

 ユトリスから持ってきたと言う、研究室の本棚に詰め込まれた本の内容も興味深い。

 ユトリスの城に着いたら少し書庫を見せて貰うかと考えていると、ラタリーが窓の外を見た。

 「……?」

 その横顔が。

 「おい、どうかしたか?」

 「え?」

 驚いたように少し見開かれた、外の木の葉と同じ色の瞳を持つ目が俺を見る。

 「いや、何だか暗い顔をしていたように見えてな」

 「……そんなことありませんよ。光の加減ではないですか?」

 また、ラタリーが外を見る。

 「そろそろですかね」

 彼女が言う。

 もう、あの違和感は無かった。

 横顔が、少し寂しそうに見えた、あの感じは。

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