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決定する。

 朝7時。朝食の時間。

 先週、公務兼旅行先のローラントから妻と共に帰国し、少し長く滞在していた兄二人も先日帰ってきた。

 夏とは言え、まだ朝は涼しい。

 久しぶりに家族が揃った静かな朝。

 の、はずなのだが。

 「…………」

 「……おい」

 「は、はい!」

 ビクッと肩を振るわせて、妻のラタリーがこちらを向いた。

 先ほどから、隣でそわそわと落ち着かなげにしていたのだ。

 「何かあるのか」

 「あ。えーっと……」

 忙しなく指を絡ませながら、困ったように俯く。

 様子がおかしいことに気が付いたのか、両親も兄もラタリーの方を見た。

 顔を上げた彼女はテーブルに着く全員をぐるっと見渡した後、父ーー国王の方を見る。

 ゆっくりと口を開いた。

 「あの、国王」

 「なんだい?」

 「その、来月の頭から1ヶ月、ユトリスに帰らせていただきたいのですが……」

 よろしいでしょうか。とか細い声が宙に浮いて消えた。

 ものすごい勢いで、向かいに座っていた兄二人が俺の方に頭を向ける。

 「ユウ! お前何をした!」

 「は!?」

 「嫁が実家に帰る理由なんてお前以外に考えられるか! さっさと吐け! そして謝れ!」

 「俺は何もしていない!」

 部屋が一気に騒がしくなる。

 女好きの遊び人として有名な兄二人は、ラタリーの事も気に入っているようだった。

 城に仕える立場の者や母以外の女が珍しいというのもあるのかもしれない。

 さっさと身を固めればいいものを。こっちはいつか手を出されるんじゃないかとヒヤヒヤしているんだ。

 あまり近づかないようにとは、言い聞かせているが……。

 まだ何かギャーギャーと言ってくる二人に言い返そうとした時、強く腕を捕まれた。

 見ると、ラタリーが慌てた様子で兄たちと俺を交互に見ている。

 「ち、違います! 違うんです!」

 ブンブンと左右に首を振る。

 部屋がふっと静かになった。兄二人も、さすがにこの辺は弁えているらしい。

 「何かあるのかい? ラタリー」

 父が穏やかに問いかけると、ラタリーは一つ頷いた。

 「は、はい。再来月の中頃、連盟の祭事が行われるんです。それの準備のために、向こうに戻らなければならなくて」

 「連盟の祭事?」

 俺が首を傾げると、ラタリーはまたはいと頷く。

 「皆さん知っている通り、魔法国家にはテレストのような大国はほとんど無く、小国ばかりです。なので、どの国も『魔法国家連盟』に加盟して、助け合いながら生きています。その連盟の会合を兼ねた祭事が、再来月行われるんです」

 ラタリーの言葉に、皆なるほどと頷いた。

 魔法国家連盟の祭事、か。


 軍隊の数や大きさで力の優劣がはっきりと決まる軍事国家では『五大国』という有事の際に指揮を執る国は決まっているが、明確な連盟や連合は存在しない。

 大きな国が大きな影響力を持つが故だ。

 だが、最近はこの体制も疑問視され始めた。

 理由は、西の軍事国家ジグイスの侵攻だ。

 領土面積や財政の面ではそれほどでもなかったジグイスが、突如として巨大な軍隊を引き連れ、世界の人々を恐怖に陥れた。

 戦争が終わり、ジグイスは事実上解体されたものの、人々の傷が完全に癒えたとも言い難い。

 現在、世界は緩やかに、しかし確かに、変化の時を迎えている。

 だが、今この段階で世界を巻き込んだ大きな組織を発足させれば、『共助』の意識はもちろんだが、厳しく『監視』されるという一種の圧力を生んでしまう。

 新たな重荷を抱えつつ未来の平和へ舵を取るか、不安定だが重荷の無いまま進めるか。

 問題というのは、大きくなればなるほど、関わる人の数が多くなればなるほど、すべてが納得する答えを出すことは出来なくなる。

 上手く答えの出せず、ひどく歯がゆい。

 

 「ユウ。おいユウ!」

 「!」

 はっと我に返ると、先ほどまでラタリーに向けられていた視線が自分の方へ回ってきていた。

 隣では妻が心配そうにこちらを見ている。

 「お前、また世界だの国だのの事考えてただろ。相変わらず固いな」

 向かいでは、兄が呆れたようにため息を吐いた。

 「ぐっ……」

 そっちが軽すぎるんだ。とは言わないでおく。

 今はその話をしてるんじゃない。

 「それで、どうするんですか。国王」

 しばらくの間は公務や行事の予定も無いし、止められることなど無いと思うが、一応確認として問いかける。

 案の定、父は穏やかに笑って頷いた。

 「もちろん良いとも。しっかりと、自分の責務を果たしてきなさい」

 「はい!」

 頑張りますと返事をしたラタリーを見て、皆これで一件落着と食事に戻ろうと、した、その時。

 「そうだ」

 父の隣で話を聞いていた母が口を開いた。

 「ユウ、あなたも一緒にユトリスへ行きなさい」

 「……は?」

 「……え?」

 「ああ、それは良い。出来るなら、続けてその祭事も見学させて貰いなさい」

 と言う父の言葉に、俺と妻はきょとんと顔を見合わせた。

 

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