即興小説
「――冷静に考えましょう齋藤さん。こんなテーマ出来ると思ってるんですか!?」
「やれば出来る!そうだろ!?」
「答えになってないですよ!はあ…」
本当にこの人アドバイザーなのか…?僕はさっきまで震えていた携帯をにらんだ。
実は僕は今度小説の新人賞とやらに応募しようと思っている。ちょっと小説に興味があるのだ。まあ凄いものではなく、募集要項が送る住所、またはメールアドレスしか書いてないという適当っぷりのところのだけど。
でも、とりあえず書かなきゃならない。だから友人にテーマとかを教えてくれるアドバイザーを頼んだのだが…
「あのですね、大体“有名な夜”ってなんですか!意味不明ですよ!」
「突飛な方が編集者が見てくれるんだ!行ける、問題ない!」
「問題しか無いですよっ!有名な夜って言われても何も思いつきません!」
「いや、分かるだろ?適当で良いんだ!有名な絵とか良いんだよ!」
「そんなもの無いっ!」
「あるだろ、ゴッホとかできっと!」
「無いわっ!」
この人、本当に何なんだ!
「それに、必須要素に至っては“奴の小指”?意味不明にも程がある!奴って誰だよ!」
「奴は奴だ!例えば俺だ!」
「あんたかよっ!…というかそこまでは良いけど小指は!?小指って何!」
「…彼女?」
「何でもじもじしながら言ってんの!?どこにその要素があった!」
「いや、君はもしかしてあの鎖女の方が…」
「そこで富樫を出すの!?ジャンプに最近出てなくて心配だけども!」
「ねー…で、そろそろ時間切れだよ」
「…え?時間切れ?」
そういえばどこかで何かアラーム音が聞こえるような…
「じゃあ、またね!」
「え、ちょっと、待ってくれ…」
そう言おうとして…意識が遠退いた。
「…はっ」
顔が痛い。キーボードに突っ伏して寝てしまっていたようだ。
「…原稿は大丈夫か?」
そう思ってパソコン画面を見る。さっきまで書いていたのだけど…良かった、ちゃんと保存されてた。
それにしてもさっきの夢…なんか懐かしいな。確か高校生の頃の時の事か。
アドバイザーじゃなくて友人だったし、あんな突飛なテーマじゃなかったけど二人で話し合って…楽しかったな。ずっと夜中まで…あ。
「あれが俺にとっての“有名な夜中”なのかな…はは」
さて、原稿を書かないと。溜まってるのがたくさんあるんだ。…今ならデビューした時みたいに楽しくかける気がする。
今や作業ゲーと化した小説を書きながら、僕はそんなことを思った。