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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
97/132

ラブコメって、新キャラ=新ヒロインだよね


  ◆◆◆


 ……それは、そう、もう六年も前になる。忘れもしない、十一歳の誕生日。その日はパパが早く帰ってきて、ママもご馳走を沢山作っていた。そして、大好きな伯父さんも来る予定だった。だけど―――

「パパー!」

 私ははしゃいでしまって、帰ってきたパパに抱きつこうとした。するとパパは、私を受け止めようと、私の肩を両手で掴んだ―――はずだった。

「わっ……!」

 だけど、パパはとてつもない勢いで吹っ飛ばされ、壁に激突してしまった。

「パパ……っ!」

 そのとき私は、嬉しさのあまり、とんでもないスピードで飛びかかってしまったのだと思った。だから、私は慌てながらも、パパの両手のひらから血が出ていることを不審に思った。

「どうしたの!?」

「はは……ちょっと受け止め損なっただけさ」

 だからパパも、物音を聞いて駆けつけたママに、笑って答えていた。だけど―――

「大丈夫……?」

「ああ、大丈夫だよ」

 心配して駆け寄ったとき、伸びてきたパパの手が、更に赤く染まって、

「痛っ……!」

 パパが苦痛の表情を浮かべて、

「えっ……?」

 私の視界も紅に覆われて……そこでやっと、私も、パパも、ママも、その異常さに気づいた。

「み、みや……」

 パパが、私の名前を呼んだ。けど、その声は震えていた。―――何かに、怯えるように。

「ど、どうしたの……?」

 ママが、パパと私を見つけている。だけど、その目が私と合った途端、声にならない悲鳴を上げる。

「パパ……ママ……」

 私は一歩、二人に近づこうとした。

「ひっ……!」

「やっ……!」

 でも、私が動いたら、二人は竦みあがって後退ろうとする。それはまるで、大好きな二人に拒絶されたようで。幼い私の心は、それだけで既に、崩壊寸前までに追い詰められていた。

「パパ……、ママ……、助けて……」

 私は、必死に二人へ呼びかける。だけど、返って来たのは悲鳴だけ。

「パパァ……」

 普段はとても頼もしいパパが、いつもと違って、とても情けなく見えた。

「ママァ……」

 優しくて元気が取り柄のママは、今はただ、怖がるだけで何も出来ない人に見えた。

 突然、訳の分からない事態に追いやられて。その上、実の両親には拒絶され。そのとき、私の心は、完全に崩壊した。

「あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 泣き声を上げた。すると今度は、両親の悲鳴が耳を突き刺してくる。なので、私はそれを掻き消すように、更に泣き続けたのだった。



  ◇


 ……どれだけの時間が経ったのか。一時間かもしれないし、三時間かもしれない。もしかしたら、数分も経っていないのかもしれない。私は泣き疲れて、体育座りの状態で蹲っていた。これなら、両親の姿を見ることもなく、耳も塞ぎやすくて一石二鳥だ。尤も、周囲の音は何一つ分からないのでまり意味ないが。

「……ゃ」

 だけど、不意に、誰かの声が聞こえてきた。

「……みや」

 それは、私の名前を呼んでいた。

「……みやっ!」

 そして、その声には聞き覚えがあった。けれども、男の声だから、ママのものではない。かと言って、パパとも違う。だけど、よく知ってる人の声。

「美也……っ!」

 ゆっくりと、顔を上げた。するとそこには―――

「美也っ、大丈夫か……!?」

 世界中で大好きな三人―――パパとママ、その他にいるもう一人である伯父さんが、私の目の前にいた。伯父さんは顔中血だらけで、私のことを抱きしめていた。だけど、私はその体温を感じることさえ出来なかった。まるで何かが、伯父さんと私を隔てているみたいに。

「無事みたいだな……よかった」

 血まみれで、明らかに大丈夫じゃなさそうな伯父さんが、私のことを心配してた。そう思ったら、突然視界が歪んだ。

 それが涙のせいだと認識したのは、私が泣き声を上げて、伯父さんに抱きついたときだった。



  ◇


 ……目が覚めると、私は和室で寝ていた。和室と言っても、自宅のではない。だけど、見覚えはある。これは確か―――

「美也、起きたかい?」

 すると、襖が開いて、伯父さんが入ってきた。伯父さんは顔に絆創膏をいくつも張っていて、それが私に、あの出来事は事実なんだと教えてくれた。

「美也、誕生日だっただろう? もう日付は変わっちゃったけど、ほら、プレゼント」

 そう言って、伯父さんは私に何かを握らせた。手を開いて確かめてみると、それは、金色の金属片に紐をつけたストラップだった。金属片が弧状になっていて、お月様みたいな形だった。

「この前出張先で見つけたんだ。美也、もうすぐ携帯を持つって言ってたから、ストラップにしてもらおうと思ってね」

 そのとき、伯父さんの見せた笑顔が、今でも印象に残っている。



  ◇◇◇


 ……それから六年が経って、私は高校生になっていた。


「伯父さんっ! どうして起こしてくれなかったの!?」

「起こしたけど、起きなかったのは美也でしょ」

 私は、朝食を作っている伯父さんに文句を言いながら、寝癖のついた髪を梳かしてリボンを結んでいた。ショートへアだから結わなくてもいいんだけど、私の数少ないおしゃれで、身だしなみでもあるから、これだけは欠かさない。

「ほら、早く食べなさい」

「いただきます!」

 私は素早く食卓に着いて手を合わせると、箸を掴んで茶碗のご飯を口に放り込んだ。どんなに遅れそうでも朝食は必ず食べる。食べないくらいなら遅刻しろ。それが伯父さんの教えだ。

「遅れそうだからって、転んだり、間違えて力を使ったりしないように」

「わわっうぇう(訳:分かってる)!」

 力っていうのは、六年前、突如として私に目覚めた超能力(?)のこと。あの後私は、極度のゲーム脳が高じてゲーム会社に就職した伯父さんの指導(といっても、半ば実験に近かったような気が……)によって、その力をきちんと制御できるようになっていた。普通は相談したってまともに取り合わないだろうし、逆に信じてもらえたら、それはそれで怖がるはずなのに……伯父さんの(ゲーム脳の)お陰で、私は普通の生活を送れている。

「ご馳走様!」

 私は茶碗をテーブルに叩きつけるように置くと、鞄を掴んで玄関へ駆け出す。いつもはお茶碗を流しに置いていくけど、今日は急いでいるから見逃してもらおう。

「いってらっしゃい」

 背後から聞こえる伯父さんの声に、私は振り返って、大きく答えた。

「行って来ます!」

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