これが二丁目?
◇
縄文寺が、すらすらと問題を解いていく。
「ほら、次の問題も同じようにやってみて」
そして、笑顔で紗佐をほうを向いた。
「~~~……」
しかし、紗佐は唸っていた。かれこれ、三十分はこうしている。
「駄目だな。これ以上やっても意味が無い」
戸沢が、諦めたように言った。
「諦めは禁物。多少は効率が悪くても、気長に見守るのも指導者としての役目」
「教師にでもなったつもりかい?」
「これからなる予定。ほら、続けるよ」
「うぅ~~~……」
そして、勉強会は続いていく。
……数分後。
「ぜぇ……、ぜぇ……、ぜぇ……。勉強は……、進んでるか……?」
狼が、息を切らしながら歩いてきた。
「あ、狼。解放されたんだ」
「とんだ災難だったな、うるっち」
「まったくだ……」
狼は息を整えると、紗佐のほうをちらりと見やって……、
「全然、見たいだな……」
「はぅっ!」
少し泣かせる。
「だったら何とかしたら?」
「へいへい」
狼が、縄文寺と席を替わった。
「と言う訳で、みっちりいくぞ」
「ひっ!」
思わず後退ろうとする紗佐を、
「逃がさないから」
縄文寺が押さえつけた。
ここからは、地獄の第二幕だ。
◇
紗佐は、途中で詰まりながらも、問題を解いていった。
「よし、こんだけ出来りゃあ何とかなるだろ」
狼は、安堵の息を吐いた。
「ふぅ~……」
紗佐も、思わず息を吐く。
「ご苦労様」
縄文寺が、それを労う。
「皆さ~ん。お夕飯、よかったら食べていって下さい」
優が、店の奥から現れた。手には大きな盆が二つほど。
「へぇ~。料理も出来るんだ」
「当たり前だ」
氷室の感嘆の声も、狼に一蹴された。一応居酒屋をやっているのだから、料理ができるのは当然だろう。
出された料理は、和食だった。白米、焼き魚、味噌汁、御浸し、肉じゃが、どれも質素だが、豪勢に見えるように盛り付けてある。そして何より、量が多い……。
「いいのかよ? 最近不景気だろ?」
「大丈夫です。売り上げは好調ですから」
「それじゃあ遠慮なくいただきます」
縄文寺は、箸を取っておかずに手をつける。
「皆さんも、どうぞお上がりになってください」
そう言われて、各々箸を取る。
「ん~ん。やっぱり、お優さんの料理は最高だね」
「ほんとだ。めっちゃうめえ」
「お、おいしい……」
そして各々が、料理を絶賛する。
「お店の食材横領して作ったものですが」
「自分の店のもんを流用して何が悪い」
「それもそうなんですが」
いやいや、横領はまずいだろ。と思う一同であった。
食事は進み、話も盛んに行われた。―――その内容は主に、狼に関することだったが。
「うるっちはあんま良い印象持たれてないな。なんせ、みんなの前で人の首を絞めたから」
「狼、死なない程度に抑えてくださいね」
優が優しく微笑みかける。
「当たり前だ」
「いやいや、おかしいでしょ」
氷室が突っ込む。
「いいんだよ氷室。この親子は感覚がずれてる。今に始まったことじゃないよ」
縄文寺がそう告げる。
「やけに詳しいじゃん」
「そりゃね。狼とは幼馴染だし」
「「えーーっ!」」
氷室と紗佐が、思わず声を上げた。
「あれ? 言ってなかったけ?」
「言ってねえよ」
狼が答える。
「あっ。あたしのおかず盗らないでよ!」
「知るか」
狼は、そ知らぬ顔で食事を続ける。
「ったく……。折角の焼き魚が……」
「ほんの数グラム程度だろ」
「その数グラムがどんだけ大切なことか!」
「まあまあ、私のお魚あげますから」
「チャットみたいに台詞を箇条書きするの、やめてくれ……」
まったくだ。これではナレーターの存在意義が失われてしまう。作者の手抜きも、いい加減にして欲しいものだ。