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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
R―巡らせる。ナイツ
83/132

他人の家庭事情を書くのって、思った以上に難しくて困る

「お兄様……」

 残された天は、兄の背中を、呆然と眺めていた。

「大丈夫?」

 闇代が心配そうに、天に駆け寄ってきた。だが彼女は、闇代が傍にいることにさえ気づかないでいる。

「ったく、……追いかけてくる」

 見かねた狼は、一片の後を追って走り出す。

「そいつのこと、頼んだぞ」

 そして彼は去り際に、闇代と優にそう言い残して行った。

「天ちゃん、しっかりして」

 闇代は天の手を取ると、引っ張って立ち上がらせようとする。だが身長が足らず、体勢が安定しないためか、完全に立たせることが出来ない。結果、中腰のような状態で止まってしまう。

「どうしよう、お優さん?」

 困り果てて、闇代は優に意見を求めた。

「そうですねえ~。こういうときは、こうすれば……」

 優はそう言って、徐に天の鼻を摘まんだ。

「……ふぐっ!」

 口をぽかんと開けていたにも拘らず息が出来なくなったのか、空気を求めるように苦しみだした。

「はぁっ……はぁっ……」

 優が鼻から手を離すと、天は荒い息を整えようとする。そして落ち着いてくると、辺りを見回した。

「あ、あの、えっと……」

「大丈夫?」

 戸惑っている様子の天の顔を覗き込む闇代。

「は、はい……。それで、この状態は……?」

 今の自分の体勢(闇代に手を引っ張られて中腰)を見て、遠慮がちに闇代に尋ねる天。対して闇代は、目を逸らしながらこう言った。

「と、とにかく、立ったら?」

「は、はい……」

 天は立ち上がり、そのまま、気まずそうに黙ってしまう。

「あの、ええと……」

 気まずいのは闇代も同じらしく、うまく言葉を紡げないでいた。

「お、お優さん……!」

 優に助けを求めるが、優は既に姿を消していた。何故逃げたのだろうか?

(うぅ……早く戻ってきて、狼きゅ~ん)

 愛しの彼の帰還を、心の底から望む闇代であった。



 ……その頃、一片を追った狼はというと。

「おい、ちょっと待てよ」

 今にもどこかへ消えてしまいそうな一片の背中に、狼の声が掛けられる。

「……何ダ?」

 一片は振り返ると、いかにも機嫌が悪いといった感じの声で問うた。

「何妹放ってふけようとしてんだよ」

「……別に」

 珍しく曖昧な返答。狼は更に切り込む。

「俺は一人っ子だけど、妹ってのは兄がちゃんと守るものじゃないのか?」

「知らん」

 このままだと埒が明かない気がしたので、別の角度から攻めてみることに。

「お前、闇代とは仲良くしたいんだよな?」

「……まあ、いがみ合うのは不本意でない」

 実はもうすぐ誕生日な闇代のため、プレゼントを密かに用意してたりするという話があるくらいだから、そのはずだ。情報源については、企業秘密により明かせないが。

「だったら、妹とも仲良くしろよ」

 確かにそうだ。確執のある他人と仲良くする気があるのなら、妹とも仲良くすればいい、というのが一般論(それ以前に常識)だと思う。

「……それとこれとは、話が違う」

「どう違うんだ?」

「それは……その」

 感情論に正論とか理屈とか持ち込まれると、ここまで嫌らしく見えるのかと思う。そのくらいに、一片はうろたえていた。

「……場所を変えていいか?」

「ああ」

 それでも、議論に応じる気はあるようだった。



 仕方がないので、公園(説明するまでもなく、闇代と一片が戦った場所)まで来て、ベンチに並んで腰掛け話すことにした。この場所を選んだのは、何か意味があってのことか、或いはただの偶然か。

「……よく、分からんのダ」

 夏の日差しに焼かれていると、一片がぽつりと、そう漏らした。

「あれが考えていることも、俺がするべきことも、何も」

 狼は茶々を入れたりせず、黙って聞いている。さすがにここでふざけたりはしないか。

「飾闇代は、先祖からの宿敵。しかし、それを除けば個人的な恨みがあるわけでもない。けれども、あいつは違う。俺の存在意義を揺るがす存在であった。あれのせいで、俺は惨めな思いをしていたと言っても過言ではない。事実、あいつも俺と同じであれば、こうはなっていない」

 闇代とは、家と家がどうたらを抜きにすれば、別に何かある間柄でもない。闇代のほうには母親の敵という恨みがあるのだろうが、一片のほうには負い目があるだけで、他に特筆するようなことはない。しかし、妹である天に対しては、十分な恨み、というか妬みがあった。

「無論、あれに悪気がないのは分かっている。この問題は、俺たち兄妹の意思が及ばぬことなのダ。張り合ったところで無意味なのは明白。それでも、プライドが許さないんダ」

 いかに、生まれた環境が全ての根源だとしても。それで、簡単に割り切れるものではないのだろう。だからこそ、うまく接することが出来ず、空回りをしてしまう。

「いうまでもなく、俺は別にあいつを殺そうとは思っていなかった。ああすれば、さすがに諦めると思ったからダ。しかしあいつは、それさえも、俺に殺されることさえもよしとした。ただでさえわだかまりがあるというのに、あんな態度をとられては、どうすればいいかなど、分かるはずもない」

 あんな狂気じみた(と、少なくとも彼は思っている)発言をされれば、誰だって対応に困るだろう。ヤンデレ恐ろしや……。

「……言い訳をさせてもらえるなら、ざっとこんな感じになるな」

 一片の話が終わったところで、狼が口を開いた。

「まあ、お前たちの複雑なお家事情は知らんけど。俺が見た限りだと、別に大したことはないと思うぜ。だってお前、戻る気はないんだろ?」

「ああ」

「だったら、戻れない理由とか、どう接すればいいか分からんとか、ちゃんと話せよ。それで万事解決だろ? 無駄に決闘とかせんでもいいだろうに」

 一片は暫く黙っていたが、

「……分かった」

 とだけ言ったのだった。

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