表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
R―巡らせる。ナイツ
76/132

いいえ、シスターは妹です


  ◇


 ……三人が『虹化粧』に着いた頃。


「ただいま、っと」

 店の戸を開き、狼が中へ入ってくる。

「ほら、お前も入れよ」

 そして、後方に控える天を招き入れた。

「失礼します」

 天は恐る恐るといった感じで店に入ると、周囲を見回して、首を傾げる。

「あの、ここはどういった場所なのでしょうか……?」

「ん? 普通に居酒屋だ」

「居酒屋……?」

 どうやら天には、居酒屋というものが分からないようだ。

「おっさん達が酒飲む場所」

「なるほど。これが噂に聞く酒場という奴ですか」

 まあ間違ってはいないが、それだと何か別のものに聞こえてくる気がする。狼は苦笑ながら、住居部分と繋がっている通路に首を突っ込んだ。

「おーい一片、いるんだろ? いるならちょっとこっち来い。いなくてもこっち来い」

「……何ダ?」

 すると奥から、一片がやって来る。通路から顔を出し、直後、硬直した。

「お兄様!」

 兄の姿を見るなり、天は一片の元へ駆け寄った。

「お兄様、こんな所にいらしたのですか? どうして何も連絡して下さらなかったのですか? とても心配しました。いえ、それより今すぐ帰りましょう。家の者達も、お兄様の身を案じております。ですから―――」

「黙れ」

 そんな妹の声を、一片は(一片だけに)一言で遮った。

「え……」

 思わぬ拒絶に、硬直してしまう天。しかし一片はそれ以上何も言わず、奥へと引っ込んでしまった。天はただ、呆然と立ち尽くすことしかできないでいた。


「ったく、あいつもほんとに酷いよな」

 狼は店のカウンターにて、天に出すお茶を淹れていた。しかしその天は、未だに心ここにあらずと言った様子で、狼の言葉も届いていない。

 因みに、先程狼が一片を追いかけたのだが、彼は自室に篭っていて、呼びかけても応答がないので放置しているのが現状だ。

「ほら、茶でも飲んで元気出せや」

 湯飲みに淹れたお茶を差し出すが、やはり天は呆けていて気づかない。兄に拒絶されたのが、そんなにショックだったのだろうか。

「闇代、起こしてやれ」

「らじゃ」

 闇代は人差し指を天に向けると、

「はぁっ!」

 その指で、彼女の胸を突付いた。

「ひゃぅっ!」

 不意を突かれた天は、可愛らしい声を漏らしながら飛び上がった。そして闇代に、抗議の眼差しを向ける。

「ひ、酷いです……。む、胸を、いきなり触るなんて……」

 しかし闇代は、突付いたときの格好のままで、わなわなと震えていた。

「狼君……」

「何だよ?」

「わたし、ちょっと後悔しちゃった……」

「はあっ?」

 闇代は天の胸を指差し、

「これ、詰め物じゃなかった……」

「いや、普通はそうだろ」

 寧ろ、普段から胸に詰め物をしている学生がいたら、そのほうが怖い。

「だって、どう見ても十代なんだよ……? 一片君の妹なら、わたしより年下なんだよ……? それなのに、この大きさが本物だなんて、ありえない……?」

「いくら自分が皆無だからって、それは言いすぎじゃないか?」

「か、皆無じゃないもんっ……! ちょっとはあるし、まだまだこれから成長するもん!」

「あるとすれば胸筋だな。育つ可能性があるのも」

 まあ、彼女くらいの身体能力なら、いくら霊術の補助があっても、多少の筋肉は必要なはずだから、あっても不思議ではない。胸筋があるとどう変わるのかは知らないが。

「そ、そんなぁ……」

「大体、お前なんか小六とあんまり体格変わんないだろ? せいぜい中学生くらい。それよりも、」

 狼は天に向き直り、来客用の湯飲みを勧める。

「茶が入ったぞ。茶菓子は煎餅しかないが、よかったら飲め」

「……はい」

 天も先程のことは忘れたいのか、大人しく湯飲みに口をつける。だが途中でふと思い出したように一言。

「もしかしてお兄様は、私に魅力がないから家を出て行かれたのでしょうか……?」

「……いや、その理由だったらあいつに幻滅してるところだが」

 妹に魅力がないから家出とか、残念にも程がある。どんなシスコンだ。

「ですが、お兄様は私が来ても鬱陶しそうでした。勿論、それだけの理由ではないはずですが……やはり私にも責任があるのでしょうか?」

「いや、あいつが家出た理由なんか知らんし。そんな話されても困る」

 暫しの沈黙。その間、天は手にした湯飲みを震わし、思いつめたように俯いていた。やがてこの静けさに耐えかねたのか、狼が再び口を開いた。

「もし、あいつのことで悩んでるなら、相談に乗ってもいい」

「本当、ですか……?」

 天が、ゆっくりと顔を上げる。

「ああ。ただし、そうするためにも詳しいことを聞かせろ。さっき言ったように、俺はあいつの考えてることなんてまったく分からないからな。少しでも情報が欲しい」

 そんな狼の袖を、闇代が掴んで引っ張る。

(何だよ?)

 闇代に耳打ちすると、彼女も小声で返して来た。

(どうして協力するの?)

(一片の弱みを握って、からかうためさ)

(……それこそ酷くない?)

(知るか。普段あいつは優と一緒に、俺がお前に襲われるところを見て遊んでるんだ。少しくらい反撃したって罰は当たらないだろ)

 動機が不純だと思うのだが……。てか、あれは見て遊んでるわけではなく、ただ面倒だから放置しているだけだと思うが。

「……分かりました。協力してくださると仰るのなら、出来る限りお話します」

 しかし天はそんなことも露知らず、狼達に話し出してしまった。

「私とお兄様は、昔から比べられて育ってきました」

「比べられて?」

「はい。どちらが退魔師の家業を継ぐに相応しいのか、比べられていました。うちだけではありません。退魔師や除霊師の家ではよくあることです」

「そうなのか?」

 狼は現役除霊師の闇代に問いかける。

「どうなんだろう? わたしは一人っ子だし、そもそも飾の家では兄弟で継ぐことになっていたから」

「兄弟で……?」

「うん。パパの一つ前、おじいちゃん達の世代までは兄弟で一緒に継いでいたんだって。といっても、おじいちゃん達はわたしが生まれるよりずっと前に死んじゃってて、直接会ったり聞いたりしたことはないんだけど」

「なるほど……兄弟で継ぐという手がありましたか」

「あー、何か一人で盛り上がってるみたいだけど、説明を続けてもらっていいか?」

 いや、ほっとけば解決しそうなんだから、いくら嫌がらせしたいからって、無理に聞こうとするなよ。

「す、すいません……。それでええと、私たち退魔師の左脇からは、金属の鎖が生えているんです」

 そう言って、天は左手に乗せた金属片を見せた。それは五芳星の形をしており、鈍い銀色の輝きを放っている。その頂点の一つから同じ材質の鎖が伸び、彼女の袖の内へと続いている。前に闇代が見せた右の五芳星(ライトペンタクル)と似ている。

「これは左の五芳星(レフトペンタクル)といって、退魔師の固有装備である霊銃を構成します。ですが……」

「で、何だ?」

 口篭った天に、続きを促す狼。天は躊躇いがちに続けた。

「お兄様には、これがなかったんです」

「ないって、それがか?」

「はい。退魔師の血を引くなら持っていて当然のはずなのに、お兄様にはこれがなかったんです。そのせいか、お兄様は幼い頃から蔑まれることが多くて……」

 それは、彼のコンプレックスでもある。周囲(というか家族)から浴びせられる失望の視線に、彼の心は大きく歪んでいたのだ。

「何か聞いた気がするが……なら、それが家出の原因じゃないのか?」

「大元の原因は、多分それです。ですが、最近のお兄様は私より強くなられたんです」

 それは、あの武器を手にしたからだろう。闇代や優と互角に渡り合える武器があったからこそ、才能の差を越えられたのだ。

「なのにお兄様は、飾の次期当主討伐から帰って直ぐ、家を出て行かれました。聞けば討伐は失敗に終わったとか。ですが、彼らを仕留められたことは数えるほどしかありません。ただ任務に失敗したことだけがきっかけだとは思えないんです」

「……それって」

 恐らく、闇代との戦いの後、彼女に言われたことが関係しているのではないかと思う狼。彼は闇代に、自分のしたことに責任が持てないなら退魔師を止めろと言われた。また、優からも、言い訳はするなと言われた。彼が家を出たのは、それに対する一種の答えなのではないか? ……自らの過ちと、向き合い続けるための、行動なのではないか、と。

「まあいいや」

 狼はそんな思考を抱えたまま、立ち上がる。

「そっちの事情と考えは分かった。後はこっちで何とかしてみる」

 そして、奥のほうへと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ