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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
R―巡らせる。ナイツ
75/132

シスターって尼さんよね?


  ◇


 ……軽く休憩を取った後、彼らは自宅である『虹化粧』へと戻る。その道中にて。


「そういえば、銀行に行かなければならないんでした。今から寄ってくるので、二人は先に帰っててください」

 優は鍵を狼に渡すと、二人と別れて銀行へ向かった。そして当然、狼と闇代が二人っきりになる。

「何か、こうなるのって久しぶりだね」

「そうか?」

 いつも一緒にいる気がするのだが。

「確かにいつも一緒だけど、二人っきりになるは久しぶりだよ。学校も休みだから、一緒に登校することもなくなってるし」

「そうかもな」

 そんな何気ない会話をしながら、並んで歩く二人。ここだけなら、とても微笑ましいのだが。

「狼君……」

「何だよ?」

 闇代が立ち止まったので、狼も足を止める。すると闇代は突然、狼に飛び掛った。

「って、またか!?」

 時々起こる、闇代があれな感じになる現象。力ずくで狼を押し倒し、うにゃうにゃして来ようとするのだ。今までの狼なら飛び掛られた時点で倒れこんでいただろうが、普通に立っている辺り、特訓の成果が出ているのかもしれない(しかし回避が間に合っていない。油断したか?)。などと言っている間にも、闇代は鼻息を荒くしながら、上目遣いで狼を見上げる。

「狼君の匂いを嗅いでると、我慢できなくなってくるの……」

「そんなに匂うか?」

 まあ、運動した後なので、仕方ないかもしれない。汗まみれだろうし。

「というわけで、今から、読者の皆様にはお見せできないこと、しよ?」

「何なんだ見せられないことって!? しかも読者って何だっ!?」

「気にしない、気にしない。それより、お楽しみだよぉ~」

「暴走もいい加減にしろ!」

 闇代の頭に拳を叩きつける狼。……容赦ないな。

「ひあっ!」

 目を回しつつ、狼から離れていく闇代。バランスを崩し、ぺたんと地面に倒れ込んでしまう。

「大丈夫か?」

 そんな彼女に手を差し伸べる狼。自分で殴っておいてそれはないと思ったが、場合が場合なので許す。

「……ありがと」

 闇代は狼の手を掴んで立ち上がると、服についた砂埃を払う。

「正気に戻ったか?」

「うん、お陰さまで」

 さすがタフガール。気にした様子もない。

「ちょっと強く殴りすぎだと思うけど」

 そうでもないのか……。狼はばつが悪そうに目を逸らして、言った。

「いいから、とっとと帰るぞ」

「はーい」

 そうして、再び歩き出す二人。

「あの……」

 しかしすぐに、後ろから呼び止められた。

「ん?」

 振り返れば、そこには少女が立っていた。黒くて艶のある、腰の辺りまで伸ばした髪と、端正な顔立ちが特徴的な、しかしどこの漫画や小説にも一人はいそうなタイプだ。学生服を着ているので十代なのだろうが、そうとは思えないくらいに背が高く、出るべきところが出ていて引っ込むところは引っ込むなど、体格はそこそこ(年齢を考慮すれば結構)いいほう。そんな少女が、その綺麗な顔を困惑に染めながら、狼たちに声を掛けたのだ。

「道を、お尋ねしたいのですが……あっ!」

 少女の視線が狼から闇代へ移ったとき、表情は困惑から驚愕へと変わる。

「あなたは……!」

 対する闇代のほうも、少女の顔を見て驚く。

「知り合いか?」

 一人アウェーな感じの狼が呑気に尋ねる。

「……一片天。一片家の当主で、一片君の妹だよ」

「あいつ、妹がいたんか……」

 いや、そっちじゃないでしょ。突っ込みどころはそこではなくて、何でそんな奴がここにいるのかということだ。

「何故、あなたがここに……?」

 ほら、先に向こうが聞いてしまったではないか。

「何故って、ここに住んでるからだよ」

「住んでいる? 確か、飾の家は虹ヶ丘の方だったと記憶していますが?」

 虹ヶ丘というのは、Y市の隅っこにある地域だ。こことはほぼ正反対の場所にある。

「今はこの狼君と一緒に暮らしてるの。結婚を前提にね」

「お前と結婚なんかしねえし前提にもしてねえよ!」

「そうですか。飾の家を捨てて一般人に嫁いでくれるのであれば、こちらとしても好都合です」

「人の話を聞けっての!」

 狼の言葉は聞き入れられなかったものの、天は納得したようだ。

「じゃあ今度はこっちが聞くけど、何であなたがここにいるの? 除霊でもしに来たの? だったら邪魔するけど」

 今まで特筆しなかったが、闇代はちゃんとこの町の霊たちと対話し、色々面倒を見ている。彼女にとって、この町の霊はこの町の人と同じくらいに大切なのだ。それが書かれていないのは、単に作者の怠慢である。

「いえ、今日は除霊に来たのではありません」

「じゃあ何?」

 にしても、この二人の間にピリピリとした空気が広がっていて、かなり居心地が悪い。

「お兄様を、連れ戻しに来ました」

「お兄様って、一片君……?」

「ってことになるよな」

 しかし、連れ戻しに来たというのは、どういうことだろうか。

「まあいいや。あいつの居場所なら分かるから、ついて来いよ」

「本当ですか!?」

「嘘ついてどうするんだよ?」

「そこの除霊師と結託して、私を陥れるとか?」

「しねえから。俺は別に、お前に個人的な恨みがあるわけでもないし」

「ですが、婚約されているのでは?」

「いやだからしてないって」

 本当に聞いていなかったようだ。

「俺は霊がどうとかの話には係わらないようにしてるから、お前をどうこうする気もねえよ。あいつの妹なら尚更な」

 そう言う狼に、天は首を傾げる。闇代と暮らしている彼は、てっきり除霊師の味方だと思っていたらしい。しかし、退魔師である自分に協力したり、兄に対しても嫌悪感を示さないなどから、狼がどういう立場なのか分からないのかもしれない。

「さ、来るならついて来い。茶くらいは出してやるから」

 ともかく、見つけた手がかりをふいにすることは出来ないようで、天は黙って狼たちについていった。

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