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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
Q―知らされる。ナイツ
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面倒なので一纏め


 ……別の場所では。


「『ラボ』、潰れたのね」

 色んな意味で雰囲気のあるバーにて、これまた色んな意味でのオーラを纏う女性、咲葉が呟いた。

「まあ、今回の目的はこちらの戦力確保と、向こうの戦力を殺ぐものだったんだけど、見事なまでに裏目に出たね」

 それに答えるのは、彼女の隣に座る、兄の郁葉。グラスのカクテルを飲み干すと、続けた。

「とにかく、向こうの戦力を少しでも削りたいけど、下手すると今回みたいに塩を送る形になっちゃうからね」

「でも、結局『あれ』を使うんでしょ? 『あれ』の前なら何をやっても無駄じゃない?」

「『あれ』も数千年単位でのブランクがあるからね。それに、呼び寄せるのには時間が掛かるから、その間に結束力を高められると面倒だ」

 店員がいないので、自分で別のグラスにウィスキーを注ぐ郁葉。セルフサービスなのかここは。

「それに、あの魔女も怖い。あれが何をしでかすか、分かったもんじゃないからね」

「だけど、あの魔女も大したことないでしょ? 『あれ』は最強なんだから」

「あの魔女の恐ろしさは、あれ単体じゃない。あれの周りだよ」

「?」

 首を傾げる咲葉。郁葉は注いだ酒に口をつけると、彼女に説明する。

「『あれ』が最強と呼ばれる所以は、その絶対的な破壊力だ。対してあの魔女は、人を惹きつけ、仲間にする素質がある。無意識のうちに、強力な味方を増やしている。しかも結束力を上げて、個々のシナジーを高めるんだ。辿りつけない(むげん)に、無限級数(際限ない足し算)で追いついてくる。一人一人が1でも、それを無限回足す方法をあいつは知っているからだ。それはとても厄介だよ。連携を断って、戦力を殺ぐのは必要。―――だけど、下手すれば却って団結してしまう。今回みたく、アクシデントを利用してどんどん強くなってしまう。匙加減が難しい相手なのさ」

 仲間との結束で強敵を打破する能力に、逆境ピンチチャンスに変える素質。確かに強力だ。

「大丈夫よ。『あれ』は最強。あんな馬鹿に負けたりしないわ」

「そのためにも、色々しないとなんだよね」

 それにしても、彼らの言う『あれ』とは、一体どんな存在なのだろうか?



  ◇


 ……翌日。


「あっ……」

 紗佐は学校の入り口にて、校内に入っていく狼を見かける。

(えっと……どうしよう?)

 声を掛けるべきか迷っていると、向こうの方が気づいてしまった。

「よう、上沼か」

「こ、向坂君……おはよう」

「ああ、おはよう」

 会話が途切れ、居心地の悪い沈黙が流れる。と言っても、朝の昇降口でいつまでも突っ立っていられるはずもなく。

「おっはよーうるっち、あぁんど紗佐ちゃんっ!」

 二人の後ろから、氷室が大きな声を出しつつやって来る。そして二人の肩を叩くと、妙に高いテンションで続ける。

「いっやーもうすぐ夏休みだねぇ! やっぱ夏といえば海だよねぇ! というわけで海へ旅行に行こうと思うのだけど勿論賛成してくれるよねうるっちと紗佐ちゃんも!」

「どうでもいいが、とりあえずその寝癖だけは直せよ」

 氷室の髪は、態とやっているのかと思えるくらいに跳ねている。いや、爆発している。この、気が狂ったんじゃないかと錯覚させるヘアスタイルを見れば、誰もがそう言うだろう。

「いやーもうすぐ夏休みだと思うとテンション五割り増しで髪型に気を使えないって言うかねぇ! 細かいことは気にすんなってのぉ!」

「駄目だ、まともな会話が成立しない……」

 呆れる狼を見て、紗佐は少し安堵した。

(やっぱり、向坂君は向坂君だ)

 たとえ特殊な生まれ方をしていても、異形の血が流れようとも、目の前にいる彼が、普通の少年と何ら変らないと、いつもの彼と同じなのだと、今はっきり確認できた。

「ん? 俺の顔に何かついてるか?」

 彼女の視線に気づいたのか、狼がそう問うて来る。

「え、えっと、そういうわけじゃなくて―――」

「なぁに二人だけの世界作ってんだよぉ! あっ、もしかしてうるっち、闇代ちゃんだけでなく紗佐ちゃんにまで手を出したなぁ!?」

「寝言は寝て言え」

 ただ騒がしいだけの日常。だが、昨日のことを考えれば、それがどれだけ素晴らしいのか分かる。

 そうこうしていると、昇降口のほうから闇代の声が聞こえてくる。

「狼きゅーん! 早くおいでよー!」

「分かったからちょっと待ってろ!」

「この裏切りものぉー! 薄情ものぉー!」

「お前はお前で少し黙れ」

 日常はなおも騒々しさを増していくが、それさえも心地よく感じる。そんな自分の心情に驚きながらも、こんな日常が続けばと、紗佐は願う。

「あ、あの、こんなところで騒いだらみんなの迷惑に……」

 願いながらも、とりあえずこの騒ぎだけは収めなければと思う、紗佐であった。

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