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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
Q―知らされる。ナイツ
69/132

一通り終わったので帰還するね

  ◇


 ……幾らかの時が流れた。それは、実際には数分だったかもしれない。けれどわたしには、それがとても長く、数時間くらいに思えた。

「もう動けるの?」

「なんとかな」

 狼君は、わたしより強い熱を浴びたはずなのに、割と早く回復した。あの時、ちゃんと威力の調整ができていたみたいで良かった。

「ほら、ちゃんと立てるし、歩ける」

 ふらふらで、覚束ない足取りだけど、確かにちゃんと一人で歩けていた。体中にはまだ火傷の跡が残っているけど、それ以外は問題ないみたい。

「まったく、派手にやってくれたもんダ」

「あっ、一片君」

「何だ、お前もいたのか」

「お前達がいい雰囲気でな、声を掛けられなかったんダ」

 ずっと黙って見ていたのだろうか。だとしたら少し恥ずかしいかも……。

「それから、これも」

 一片君の手には、さっき切り落とした狼君の武器があった。

「それ、回収してくれたんだ」

「生憎と暇だったものでな」

 もしかして、怒ってる?

「俺も、あの熱を防ぐのには相当苦労したんダゾ」

「それは……ごめん」

 ちょっと考えなしでした……。そういえば、目が覚めたときには、霊刀は右の五芳星(ライトペンタクル)に戻っていたけど、御鎖那はどうなったんだろうか。あれから、わたしの中に微かに残っていたママの気配も消えてるし、使えなくなっているかもしれない。大切なママとの繋がりだから、残っててくれるといいんだけど……。後で確かめてみよう。それより今は―――

「それで、紗佐ちゃんと上風ちゃんは?」

「そういえば、あいつらはどうなったんだっ……!?」

 狼君も、あの子達が気になっていたみたい。狼君らしいけど、ちょっとやきもち。

「安心しろ。俺がしっかり守っておいた」

 部屋の外で、壁にもたれかかるように眠っている二人を見つけた。呼吸もしっかりしているし、気を失っているだけみたいだ。

「さてと、後は大人組みと合流せねばな」

「大人組み?」

 そっか。狼君はお優さんたちがいること、知らないんだ。

「お優さんも、狼君を探しに来てるの。ていうか、わたし達もそれについて来たんだけど、途中で手分けすることになって、今は別行動中なの」

「そうか……」

 狼君が、少し沈んでいる。お優さんに迷惑掛けて、落ち込んでるのかな?

「とにかく、お優さんのところに行こうよ。ね?」

 紗佐ちゃんと上風ちゃんをわたしと一片君で抱えて、お優さんのいそうな方向へ歩き出す。本当は狼君に肩を貸してあげたいけど、二人を放って置く訳にも行かないから、少し我慢。



  ◇


 ……その頃、優達は。


「にしても、派手にやっちゃったよね……」

 舞奈は、辺りの惨状を見て呟いた。その部屋にあった、機器という機器、容器という容器が、見事なまでに粉砕されている。パソコンもディスプレイが破壊され、本体からはハードディスクが引き摺りだされていて、それも粉々になっていた。何らかの資料と思しき書類も、最早復元不能なくらいに切り裂かれていて、それらの上に、ここにいたと思われる人々が屍のように倒れこんでいる。

「いいんじゃない? そのままにしとくと、またすぐここに居ついちゃうでしょ?」

「それにしたって、やりすぎじゃないかな……?」

 確かに、強盗ですらここまではやらないだろうというくらいの荒らしっぷりだ。

「こういうのは、やりすぎてるくらいで丁度いいの」

「そういうものかな……?」

 言いながら、手にした刀で近くの机を両断している優に突っ込むのは、止めたほうがいいと思う。危ないから。

「ふぅ……。通信機器や身分証の類は破壊したし、装置も粉々だから、これで多分大丈夫だと思うんだけど……」

 そして、壊し忘れがないか指差し確認。

「よし、大体こんなものかしらね」

「だけど、向こうも本拠地にバックアップを置いているだろうし、ここを潰しても意味ないと思うよ?」

「あっ……」

 何やら、重大なことを見落としていた模様。骨折り損の何とやらか?

「ま、いっか」

「いいのっ!?」

「だって、私じゃどうしようもないし」

 そうこうしている内に、闇代たちがやって来た。

「……狼」

 ボロボロになりながらも、しっかりと歩いている狼の姿を見て、ほっとした様子の優。だが、対する狼の反応は冷ややかだった。

「おい、これは……?」

「ああこれ? 一応対策」

 なんかノリが軽いが、見た目はまんま大量殺戮の後だぞ。いきなりこれを見て、平常でいられるほうがおかしい。

「私はちゃんと止めたんだよ? だけど、お優さんったら後先考えずにこんなにしちゃって……」

 舞奈が釈明するが、誰も彼女の話を聞いていない。

「とにかく、ここを出ましょう。話はその後。ああ、心配しなくてもいいわ。この人達、気絶してるだけだから。命に別状ないわよ。命『には』だけど」

 そうして彼らは、この薄気味悪い施設から抜け出したのだった。

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