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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
Q―知らされる。ナイツ
65/132

因縁と思いと衝動と、まあつまりは絶体絶命?


 ……その頃。


「どうなってるの……?」

 モニターに映し出される光景に、戸惑いを隠しきれない女性。突然の闖入者達が、怪物の動きを止めていたのだ。彼女もさすがに、この展開は想定していなかった模様。

「それはですね」

 そして背後からの声に、女性は反射的に振り返る。

「私がその二人を引き入れました。あの子達なら、狼を止められるはずですから」

 そこには、刀を構えた優と、

「久しぶり、初崎さん。できれば二度と会いたくなかったけど」

 二丁のエアガンを向ける舞奈の姿があった。二人を見て、初崎と呼ばれた女性は不敵な笑みを浮かべる。

「あら、あなた達だったの。十六年前と同じように、私たちの邪魔をしに来たっての?」

「そうですね。でもそれより、何故あなたに『この件に関する記憶』があるのか、とても気になっていますが」

「当然じゃない。あの時、あなたに記憶を消されたけど、本部にちゃんとバックアップが保管してあったからよ」

「記憶の保存、ですか。本当にあなた達は、人とは思えないほど狂った技術をお持ちのようで」

「褒め言葉と受け取っておくわ」

 話を聞くに、彼らには何らかの因縁がある様子。それも、尋常ではない内容の。

「また私を止めに来た? 無駄よ。だって、あなた達はお人好しだもの。どんなに憎い相手でも、最後には殺せない。だから前も、私の記憶と施設のデータを消して、それでよしとしたんでしょ? でも、意味が無いの。本部には幾らでもバックアップがあるのだから」

「ええ、そこが私の悪いところです。だから、あの子に辛い思いをさせてしまう。あなたみたいな人は、人間ですらないと、いえ、生物と呼ぶのにすら吐き気を催すくらいだというのに」

 苦虫を噛み潰したような表情で、刀を握る手に力を込める優。それを見て、初崎は愉快そうに笑った。

「あはっ、よく分かってるじゃない。なんなら、今ここで私を殺してみる? 無理でしょ? 馬鹿ねえ、殺せば早いのに」

「生憎と、あなた達みたく命を粗末にしてないもので」

「粗末? 失礼ね。私たちは、命の可能性を模索しているだけよ。まあ、その過程で多くの犠牲が生じるのは仕方のないことだけど」

「仕方がない、ですって?」

 優の、刀を持つ手が震えている。それは怒りのためか、若しくは別の衝動か。

「もういいよ、お優さん」

 そんな優の肩を、舞奈が叩いた。

「こんなの相手に説教しても、時間が無駄なだけ。やっぱりこういう手合いには、言って聞かせるよりしばいたほうが効果的だよ」

 宥めるように言われて、優はようやく落ち着きを取り戻す。

「とにかく、今回は徹底的に懲らしめてあげます。例え記憶が戻ろうと、二度と同じことが出来ないように」

「そうだね。もうこんな悲劇を、繰り返すわけにはいかない」

 舞奈は片方のエアガンを上に向け、引き金を引いた。乾いた音と共に、天井に小さな穴が開く。

「一応、威嚇射撃はしたから」

 そして、今度はそれを初崎に向け、躊躇うことなく引き金を引いた。


  ◇


「狼君っ!」

 闇代は怪物の懐に飛び込むと、厚く盛り上がった腹筋に強烈な蹴りを叩き込む。

「……っ!」

 しかし、鉄の扉をも破る彼女の蹴りも、虚しく跳ね返されてしまう。反動を利用して距離を取ると、闇代は左手を掲げる。

「少し痛いかもだけど、我慢して」

 宙を舞う刀の一方が、背後から怪物に向かって突き進んでいく。だが―――

「え……」

 突如現れた紐状の何かに、刀が絡め取られてしまう。よく見れば、その先端にはV字の金属片が取り付けてあった。

「あれって、狼君の、武器……?」

 そちらに気を取られている間に、また別の武器が闇代に向かって飛来する。闇代はそれをぎりぎり躱すが、それは急に方向転換して、彼女の右腕に纏わりついた。

「ぐっ……!」

 まだ痺れの抜け切らない腕を締め付けられ、苦痛に表情を歪める闇代。けれども、それで終わりではなかった。

 またも別の武器が、一度に三つも襲い掛かってきた。闇代はそれを躱しきれず、左腕と胴体を縛られてしまった。もう一本の霊刀で切断しようとするが、それも最後の一つに絡め取られてしまう。

 五本の細長い武器は、いずれも怪物の後方、辛うじて残ったズボンの辺りから伸びているようだ。その様はまるで、おおかみが長い尻尾を、幾つも生やしたようだった。例えるなら、狐の妖怪、九尾だろうか。

「飾闇代……!」

 一片はそう呼びかけるも、紗佐と上風を守らなければならないためにその場を動けず、また彼の銃も、この怪物には効かないだろう。早い話が、何もできないのだ。

「狼、君……!」

 三本の尻尾に持ち上げられ、宙に浮いている状態の闇代。徐々に、怪物のほうへと寄せられていく。そして怪物と向かい合う形になると、彼女の両脇に、捕らえられていた二本の霊刀が突き立てられた。彼女の武器で、闇代に止めを刺すつもりなのだろうか。

「っ!」

 最早これまで。そうとでも言うかのように、闇代は、静かに両目を閉じた。

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