手抜きとか言わないで。演出と言って。
◇
……季節は夏。先日の大きな事件も、徐々に忘れられている頃。時刻は夕方。近隣の学校は既に放課となっている。無論、狼の通う私立証耶麻学園も例外ではない。
「ったく、今日も疲れたぜ」
溜息混じりに帰途についているのは、言うまでもなく我らが主人公、狼である。
「まあ、闇代ちゃん、今日も飛ばしてたからね」
その隣を歩くのは、彼の幼馴染である縄文寺上風である。今更な気もするが、割と出番が少ないので念のため。
「迷惑なことこの上ないからな、まったく」
まあ、何があったのかは推して知るべし。というか説明が面倒臭い。
「だ、だけど、闇代ちゃんにも悪気があったわけじゃないかと……」
更にその隣を歩くのは、上沼紗佐である。何で彼女も一緒なのかとか、それも面倒なので語らない。というかご都合主義だ。面倒なことは全部後付でよし。後付最高。完先はよくない。
「悪気がないから余計に性質が悪い」
「それもそうね」
上風の適当な相槌に、狼は何だか不機嫌そうだった。
「で、でも、今日は闇代ちゃん、別行動を取らせてくれたわけだし……」
「別行動なんて、あいつに許可を求めるもんじゃないだろ」
彼女が来てからというもの、狼は学校でも家でも、通学途中でも闇代と一緒にいる。彼女がくっついてきて離れないのだ。しかし今日は闇代とは別々に帰っている。珍しいこともあるもんだ。これもご都合主義。
「今日はどうするこれから? 最近うちにカラオケ設備が入ったから、試しに歌ってく?」
「遠慮しとく」
「あ、そっか。狼って昔っから歌とか駄目だもんね。音痴だから」
「え、そうなの?」
「余計なことは言わんでいい」
狼の意外な弱点発見。いや、欠点というべきか。
「別に音痴でも生きてけるから、問題ないんだよ」
「でも、こうやってカラオケ誘われたときに困るわよ」
「困ったって、治せないんだから仕方ない」
つまり、治そうと苦戦してうまくいかず、結局諦めたパターンか。作者も大体そんな感じだぞ。
「大体、お前の家は下手な忍者屋敷より面倒だから入りたくない」
「失礼ね。侵入者対策が厳重なだけでしょ」
「天井からギロチンは侵入者も死ぬと思うが」
なんと恐ろしい……。最早それは忍者屋敷どころか恐怖の館だ。それか殺人屋敷。
「てなわけで、俺は帰る」
「折角の別行動なのに?」
「うっ」
「ってわけで、二人とも今日はうちに寄ってって」
紗佐と狼の手を取り、強引に引っ張っていく上風。そんな彼女に、二人は引っ張られるだけだった。




