おまけ③―紗佐と一片のその後(こっちは差し障りのない内容です)
……その頃、一片はと言うと。
「来てくれてありがとうございます」
「呼ばれたから来たまでダ」
紗佐の家にお呼ばれしていた。手料理を振舞ってくれるそうな。
「それと、敬語はやめろ。あのお人好しみたく、誰にでもその口調というわけではないのダロウ?」
「は、はい……」
「あと、あまり緊張しないでほしい。招かれたほうとしては、気軽に迎えてもらいたいものダ」
「で、できる限り」
一片、少し注文が多い。紗佐が俯いてしまったではないか。確かに敬語は、キャラも被るのでやめてほしいが。
「それにしても、変わった奴ダナ」
「えっ?」
突然放たれた一片の言葉に、紗佐は顔を上げる。
「お前はまだ、霊の存在を信じれていないのダロ?」
一片の問いは、彼らが争っていた根本的な原因についてだ。霊が視える者同士の意見の相違。霊が視えない者には到底理解できないであろう、血生臭い争い。
「はい……」
正直な回答。
「なら何故、そんな得体の知れない俺を家に招いた?」
一片の問いに、紗佐は戸惑った。だがしかし、一片が視線をまっすぐ向けてくるので、はぐらかすわけにはいかず。暫しの逡巡の後に、紗佐はこう答えた。
「えっと、理由とかは特になくて……。ただ、来て欲しくって……。ごめんなさい……」
「何故謝る?」
「いえ、あの……。ごめんなさい……」
「謝罪の理由を尋ねたのダガ」
「ごめんなさい……」
この紗佐の謝罪は、暫く続いたそうだ。
◇
……その日の夜。
「はぁ~……」
自室の布団に横たわる紗佐。寝巻きに着替え就寝モードだ。
「やっぱり、うまくいかないなぁ……」
昼間のことを思い出し、またもや溜息。
「ふぅ……」
枕を抱え、それに顔を埋める。そして、意識を思考に委ね始めた。
思い出すのは、あの日の朗らか女刑事と、その言葉。関わるなら、覚悟をしろと言われたこと。
「でも、私は……」
紗佐に、その覚悟はなかった。無論、一般人である彼女が、訳も分からないことに覚悟など出来るはずもない。だから誰も紗佐を責めたりしないのだが、彼女自身はそうでないらしい。
「だめだな、私」
考えれば考えれるほど脳内はネガティブになっていく。そんな思いから逃れるように、紗佐は頭を左右に振った。
「とにかく、明日から頑張ろう」
最後は前向きになって、紗佐はようやく眠気を感じ始めた。
(今日はもう……寝よ)
まどろみの中、紗佐は薄ぼんやりと思い出す。
得体の知らない力を持つ、自称退魔師の少年。何故彼を家に招いたのか。その結論が出る前に、彼女の意識は途絶えた。




