色々荒れた役員会議?
◇
この日の放課後、『クインテット・ナイツ』の会議が各クラスで行われた。一年生はこれが最初だ。
「ってことなんだが、一年生は役員を決めるらしい」
向坂が紙を指で摘まんで示した。役員を書き込む用紙だ。
「役員は会長、書記、会計、戦闘、情報の五つだ。そんで、俺らをそれぞれの役員に割り振るんだ」
「はいはーい、情報と戦闘って何するんですかー?」
氷室が元気よく手を上げて質問した。
「お前なぁ、先生の話くらいちゃんと聞け」
「その手の話は耳から耳へ抜けてくから」
その言葉に向坂は溜息を吐くと、説明を始めた。
「情報は生徒から情報を聞き出したり、うわさなんかの真偽を確かめたりする役職だ。人柄や性格、人脈が問われる役職だな」
「んじゃあ俺それ。この学校は同じ中学出身の奴が多いし」
それを聞いた向坂は、用紙の情報の欄に氷室の名前を書いた。
「そんでさ、戦闘って具体的に何すんの?」
「戦闘はまあ、一言で言うと軍隊を一人に纏めたようなものだ。クラス内で何かあったらそいつが力ずくで解決する」
「だったらあんたがやれよ。そういうの得意だろ?」
氷室が言ったのは、つい先ほどのこと。向坂が生徒を一人、殺しかけた件だ。
「俺には無理だ。俺がやったら毎日死人が出る」
向坂は、しれっと言い放った。
「だったらあたしがやるよ」
縄文寺が言った。向坂は戦闘の欄に縄文寺の名前を書いた。
「後は会計と書記と会長だな」
「会長は僕がやろう」
戸沢が立候補した。
「却下だ」
だが、向坂が一蹴する。
「何故だ? 僕は少なくとも、君よりは会長に相応しいと自負しているのだが」
戸沢が、他者を見下すような視線で向坂に言い放つ。一方の向坂は気にした風も無く、
「お前には無理だ」
とだけ答えた。
「何だと……?」
「おい、上沼。お前は会長やりたくないか?」
向坂は不意に、紗佐に話を振る。
「えっ、えっと、……私は……、いいです。書記にします」
急に名前を呼ばれた紗佐は、おずおずと答えた。
「そうか……」
向坂は書記の欄に紗佐の名前を書いた。
「じゃあさ、残った俺とお前のどっちが会長に相応しいか、選挙でもしようぜ」
「ふっ」
向坂の提案に、戸沢は鼻で笑った。
「そんなことしたら、確実に僕が会長になる。君はそれでいいのか? 僕が会長をやるのは嫌なんだろ?」
戸沢の目に、ありったけの侮蔑と僅かの哀れみが篭った(ような気がした)。
「お前が心配することじゃねえ。それより、選挙するのか? しないのか?」
向坂は、自信たっぷりに聞き返した。
「いいだろう。僕ら以外の二人以上が支持した方が会長だ」
その様子を見て、戸沢は多少訝ったが、自分の自信のほうが勝ると踏んだのか、その提案に乗った。
「だそうだ。それじゃあ、俺が会長のほうがいいと思う奴は手を上げろ」
「いいんじゃない? あんたは指図するほうが色々都合がいいし」
縄文寺が手を上げた。
「俺も。うるっち結構面白そうだし」
氷室も手を上げた。
「だとよ。これで決定だな」
向坂は、会長の欄に自分の名前を書いた。
「何故だ……?」
戸沢が、ぽつりと呟いた。
「当然だ。相手を見下しまくってて、誰が支持する? 強気で自信家で志が立派なのはいいことだが、多少は人に信頼されるように努めろ。後氷室、変な仇名をつけるな」
そして、残った会計の欄に戸沢の名前を書いた。
「これで、終わりだな。今日はもう解散だ。用紙は俺が出しとく」
そう言って向坂は帰った。
「あたしらも帰るか」
「そだな」
縄文寺と氷室も帰った。
本日の会議は、終了となった。