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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
M―視える。ナイツ
35/132

三色同順


 ……翌日の土曜日。


「~♪」

 鼻歌を歌いながら店のテーブルを拭いている優。少年によって壊された店も、既に殆ど修復されている。

「いらっしゃい。でもまだ開店前ですよ」

 入り口から誰かが入って来て、優はそちらへ顔を上げる。

「あら、どうしたんですか?」

 その人物の姿を認めた優は、目線で席に着くよう促す。

「もしかして、人生相談とかですか?」

 調理用のカウンターに入り、なにやら色々と用意している模様。

「下宿ですか? 学生さんは部屋と共用風呂、三食付で家賃ただの好条件ですよ。残り一人なので、出来る限りお早めに」

 何だそのボランティア精神はと突っ込みたくなったが、今は止めておこう。

「そうですか。なら、そういうことで」

 どうやら、一発で決まったようだ。



 ……その頃、狼と闇代は。


「もう帰るのか?」

「うん。ていうか、駅まで見送りに来てくれたのに、今更そんなこと訊くの?」

 二人は『虹化粧』から一番近い駅にいた。これから帰る闇代を、狼が見送りに来ているのだ。

「それもそうだな」

 二人の歩みは、改札口の手前で止まった。改札といっても、ここは無人駅なので切符がなくともホームまで入れるのだが。

「ほんとにここまででいいのか?」

「うん。だって、電車の時間、まだあるし。それに、あんまり一緒にいると別れるの辛いから」

 振り向き、狼と向かい合う闇代。そして、目一杯の笑顔を彼に向ける。

「よく考えると、まともに顔をあわせてたのって、ほんの一日くらいなんだよね」

「そういやそうだよな」

 とてもそうとは思えないが。

「それだけ、狼君との時間が新鮮だったってことなのかな?」

「さあな。けれど、俺もそんな気がしないでもない」

「狼君……」

 直後、闇代が狼の胸に飛び込んできた。

「お、おい……!」

「―――すぐに」

 戸惑う狼の耳に、闇代の声が届く。

「すぐに、また逢えるから。だから、それまで待ってて」

 顔を上げ、狼を見つめる。

「今は戻らないとだけど、また狼君に逢いに来るから。―――大好きな、狼君の元へ」

 そっと狼から離れる闇代。そのまま、目も合わせずにホームへと駆けていく。

「……」

 狼は、闇代を乗せた電車が駅を出るまで、ずっとそこに佇んでいた。



  ◇



 ……休日を挟んだ月曜日。


「で、それでおしまいと?」

 氷室が問うた。

「ああ。んで、闇代の奴はもう帰った」

 対する狼は、興味が無さそうに返した。

 狼は先程まで、先日の出来事の顛末(闇代との別れは除く)を皆に話していた。それが終わるといつものように、気怠そうに頬杖をついていた。

「だが、この前のニュースではただの突風だと報道されていたが?」

 戸沢が言った。非科学的な考えが嫌いな彼は、そういった話は可能な限り否定したいのだろう。まあもっとも、それなら話に加わらなければいいのだが、そこには突っ込まないで欲しい。

「そんなもん、あいつが警察とマスコミに根回ししたからに決まってんだろうが」

 謎の超常現象が起こったと発表するより、自然災害としたほうが事態の収拾もつけやすい。警察のそんな理由もあったのだろうと思われる。だとしても、警察に根回しできるとはどんな人物なのだろうか、優は。政治家か、その手の人物にコネがあるのか。……考えても、分かりそうに無いので話に戻ろう。

「まあそれはそれでいいとして。で、結局どうなったん?」

「何がだよ?」

「闇代ちゃん。帰る前に何もなかったのかなと思ってさ」

「何も無い」

 氷室の問いに、間髪入れず答える狼。そんな彼の様子に、氷室は食い下がる。

「何もないなんてことはないでしょ?」

「ないったらない」

「またまたぁ~」

「ないもんはない」

「ほんとは何かあったんじゃないの?」

「しつこい!」

 怒鳴られる。

「もう終わった話だ。もういいだろ?」

 とは言うものの、実際に何もなかったわけではない。しかしまあ、隠したい気持ちも分からなくないが。

「それよか、上沼の奴はどうしたんだ?」

 紗佐は、自分の席で呆けていた。狼達の会話に耳を傾けるでもなく、ただ無為に時間を過ごしているように見える。

「さあ。あたしも気になってたんだけど、話しかけても無反応なのよね」

「そうか」

 やはり彼女も、今回の件で色々とショックを受けているのだろうか。単に眠くてぼんやりしているようにも見えるが。


 そうこうしている内に、チャイムが鳴った。

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