集結
「先生。一ついいですか?」
眼鏡を掛けた、戸沢という生徒が声を上げた。
「何だ?」
「この中に、三人ほど場違いな生徒がいるのですが」
戸沢は、眼鏡を直しながら、しれっと言い放った。
(うんうん。私って場違いだよね)
心の中で頷く紗佐。もっとも、戸沢の指している『場違いな生徒』とは、紗佐のことではないのだが。
「言い忘れていた。うちのクラスは俺の一存だけで選んでる」
「つまり、先生は彼らが適任だと?」
戸沢が、まさかと言ったような顔で言った。
「当然だ」
今度は、春山がしれっと言った。
「自分ならともかく、他人にケチ付けるな。お前ら、とりあえず前に出ろ」
その言葉で、立ち上がった全員が前に出た。
「よし。そんじゃあ、一人ずつ自己紹介しろ」
すると、氷室が自ら一歩前に出る。
「俺は氷室流幅。変な名前だから、ひながって呼んでくれ。出身中学は一箕田中学で、出身小学は空無駄小。よろしくな」
にこやかな笑顔での自己紹介。それなりに好感が持てるタイプのようだ。
次は戸沢が前に出た。
「僕は戸沢背理夫です。僕は他のメンバーとは違って、このクラスの秩序を守るために学園生活を費やすつもりです。以上」
何とも、コメントしがたい内容であった。
「傲慢そのものだな」
向坂が、わざと周囲に聞こえる声で呟いた。
「何?」
「俺は向坂狼。以上」
「「短!」」
向坂以外の、全員が突っ込んだ。
「ま、別にいいんだけどね……。あたしは縄文寺上風。これでも一応武道全般出来るから、ナメて掛かると痛い目見るよ」
縄文寺の自己紹介が終わり、残りは一人となった。
「あっ、あの……。私は……、上沼紗佐って言います……。その、……よ、よろしくお願いします……!」
ぎこちない自己紹介で終わった挨拶。
これが、このクラスの『クインテット・ナイツ』誕生の瞬間だ。
「ちょいと待ってくれよ」
一人の生徒が、立ち上がった。金髪リーゼントの、何とも古風で典型的な不良少年だ。
「何だ? 不満でもあるのか?」
春山が、欠伸をしながら問うた。
「そんな訳の分からない連中の言う事なんか、聞いていられるかよ」
その生徒はゆっくりと歩き出すと、
「特に、お前みたいな偉そうな奴にはな」
向坂の前で立ち止まった。
「そうか。それなら、思い知らせてやろうか」
向坂は、右手を前に突き出すと、手を開いた。
「あんた、まさか……」
縄文寺が、何かを察したように呟いた。
「『刈り取る命』、」
それを振り下げると、
「サイズ!」
真横に振りぬいた。向坂の手先から何かが飛び出して、目の前の生徒の首に飛び掛る。
「うぐっ!」
そしてその生徒の首に纏わりつき、首を締め付ける。
「さてと、今この状況でも同じ事が言えるのか?」
今、向坂の右手から細いロープのような物が伸びている。それが生徒の首に纏わりつき、二、三周している。そしてその先に、小さな鎌のような物が取り付けてあった。その刃が、生徒の首に引っかかっている。
「驚いたな……。まさかそれを持ってるとは」
春山が呟いた。僅かに声が震えている。
「知ってんの?」
氷室が尋ねる。
「当たり前だ。こいつは、この学校に伝わる武器の一つ『刈り取る命』サイズ。各学年の最優秀『クインテット・ナイツ』にのみ与えられる称号みたいな物だ。それを、新入生が持ってるなんてな……」
「そんな物騒なもん持たせてんのかよこの学校」
「俺だって、実際に使う奴なんか初めて見たぞ」
そうこうしている内に、生徒の顔が青ざめていった。血の巡りが悪くなっているのだろう。
「そろそろ観念しないと死ぬぞ」
一方の向坂は、武器を引く手の力を強めていった。
「いい加減にしたらどう?」
縄文寺が向坂に囁いた。
「ま、それもそうだな」
向坂が手首を捻ると、首に纏わりついていた武器が外れた。
「次は死んでも知らねぇぞ」
そして、武器を仕舞った。
この日を切っ掛けに、向坂はクラスで最も恐れられる存在となった。そして、
(こ、向坂君って、……怖い)
紗佐にも恐怖を植えつけたのであった。