今する話かな?
……その頃、狼達は。
「ここら辺でいいだろう」
狼は適当な所に闇代を下ろした。闇代はその場にしゃがみ込むと、欠伸を一つ。
「ふぁ~……。ちょっと眠い……」
闇代の瞼は半開きになっている。
「まだ六時だっての」
「だって眠いんだもん」
「そうか」
狼もその隣にしゃがみ込む。それから暫し沈黙。お互いに、まったく話そうとしない。と思ったら、闇代が口を開いた。
「……狼君のお父さんって、どうしてるの?」
やや遠慮がちに放たれたのは、狼の父親についての問いだった。何故このタイミングで?
「いない」
対する狼の返答は、ひどく素っ気無いものだった。
「え……?」
その答えは、何となく予想がついていた。それでも、咄嗟に出たのはそんな言葉だけだった。
「俺は物心ついた時からあいつの、優の子供だったんだ。でも、あいつが俺の親って訳じゃない。あいつに育てられているだけなんだ」
自分の言葉が足りないことに気付いたのか、少し補足する狼。
「そう、なんだ……」
そう返す闇代の声は、やや沈んでいた。
「気にすんな。俺にとってはそれが普通だ。今更両親とかが現れても、困るだけさ」
「だけど、わたし……」
「いいんだよ。あいつが、優がいるからな」
狼は、少し照れくさそうに、そう言った。
「……うん」
闇代は、それに頷いた。
……そして優達は。
優達は、近くの公園にやって来ていた。無論、戦いの続きを行うためだ。
「ここなら、人は来ませんね」
もう子供も帰ったようだ。まだ明るいというのに。
「そうダナ」
少年は再び銃を優に向けた。
「そうやってすぐに銃を向けるの、慎んだほうがいいですよ?」
「余計なお世話ダ」
答えるや否や、発砲する少年。優はそれを左手で防ぐ。
「ずっと気になっていたんですが、そっちの刀は使わないんですか?」
少年は銃を乱射するが、それを優は悉く躱していく。そんな中での会話。
「それなら、何故そっちはいつまで経っても攻撃しない?」
「ん~、そうですね」
優は顎に指を当てて考える。
「馬鹿め」
少年はその隙を見逃さなかった。優の足を狙って銃を放つ。しかし、
「えい♪」
「なっ……」
何と優は、あろうことかそれを蹴り返したのだ。銃から放たれた弾を。その弾は、少年目掛けて飛んでいく。
「くっ……!」
あまりのことに反応が遅れ、少年はそれを躱し損ねた。右足に命中する。
「やっぱり、手段がないからでしょうか。それに、銃相手に接近戦ができるほどの技量はありませんし」
「よく言うな……」
少年は恨めしそうに呟いた。優が今までに行ったのは、銃弾の回避と防御、それからそれを蹴り返すという芸当。常人にはまず無理なことばかりである。
「あとその銃弾、それとあなたの周囲は何か得体の知れない気配で覆われているようですし。銃弾はまだ弱いほうでしたけど」
「……貴様、何者ダ?」
少年の鋭い眼光を、持ち前の笑顔で受け流す優。
「居酒屋経営の暇人ですよ」
「真面目に答えろ……!」
少年は声を荒らげた。さっきからおちょくられているような状態なのだから、そうなるのも無理ない。
「本当です。何か暇だからお店でも始めようと思って開いた居酒屋を切り盛りしつつ、知り合いの子を預かって育てている単なる物好きですよ」
「何故俺が、そんな人間に勝てないんダ!?」
銃が闇雲に乱射されるが、まともに狙ってすらいないそれは、動いていない優にでさえ当たらない。
「それはやはり、あなたの認識に誤りがあるからではないでしょうか?」
優は右手を空に掲げると、大きく叫ぶ。
「恐れ戦き、自戒せよ」
すると後方の空から―――この方角は確か『虹化粧』がある辺り―――何かが飛来してきた。
「それはそうと、武装している相手に丸腰というのは色々と不都合ですから」
その物体が右手に収まると、優はそれを軽く振り下ろした。
「このくらい、大目に見てくださいね」
構えられたのは、一振りの刀。鈍い光を放つ、古びた日本刀だ。
「……っ!」
少年も、銃を構えなおす。
「さてと、久々に暴れるとしますか」




