上沼紗佐の受難①
◇◇◇
上沼紗佐は、緊張していた。今日は五月一日。『クインテット・ナイツ』のメンバーを発表する日だ。
彼女のクラスは女子が少ない。彼女はそれ故に、肩身の狭い思いをしていた。それだけでなく、この学校にいるだけで常に危険(戸に挟んだ黒板消しの罠と、床にばら撒かれた画鋲の数々)に晒されていた。
さて、何故彼女がこの学校にいるかというと……。
(うぅ~。馬鹿バカ馬鹿。公立入試の日に新型インフルエンザにかかった私の馬鹿~)
ということらしい。
「今から、『クインテット・ナイツ』のメンバーを発表する。これに選ばれると、三年間このクラスを纏めていくことになる。部活はできるが、両立は難しいぞ。どうしてもできない奴は俺に申し出ろ。理由によっては認めてやる」
担任教師の春山が、面倒臭そうに告げる。
「まず、氷室」
「はい」
名前を呼ばれた生徒が立ち上がる。黒のロン毛の男子生徒だ。不良には見えないものの、とても素行のいい生徒とは思えない。
「戸沢」
「はい」
次に呼ばれたのは、眼鏡を掛けた男子生徒だ。第一印象は、絵に描いたような優等生。あくまで、見た目はだが。
「縄文寺」
「はい」
次は女子生徒だ。ベリーショートの、やや荒々しい雰囲気を放っている生徒。こちらも素行がいいようには見えないが、悪い人ではなさそうだ。
「向坂」
「……」
無言で立ち上がったのは、異様な雰囲気の男子生徒。制服のボタンは開け放たれ、シャツもだらしなく垂れている。見た目だけで言えば、素行の悪い生徒に思える。
「最後に、上沼」
(へ……?)
紗佐は、はっとして立ち上がった。
「は、はい!」
紗佐は、ボブより少し長いショートヘアに整った顔立ちを持つ、大よそ美少女と呼べるであろう生徒だ。
「これで全員だ。三年間、頼んだぞ」
しかしこの声は、紗佐には届かなかった。なぜなら、
(な、何で私、こんなことに……?)
既にパニック状態になっているからだ。




