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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
M―視える。ナイツ
17/132

こんな夕食嫌だ/こんな再会嫌だ

 ……その日の夕方。行く当てのない闇代は、『虹化粧』に泊まることに。


「これ、すっごくおいしい」

 闇代は煮物を口に放り込むと、感嘆の声を上げた。

「そう言って頂けると、こちらとしても嬉しいです」

 優は微笑みながらそう返す。

「もしかしたら、パパのよりもおいしいかも」

「お父さんも料理がお上手なんですか?」

「うん、ちょっぴり悔しいけど……。でも、いいものは素直に褒めたいから」

 そう言いながらも、闇代は次のおかずに手をつけていた。

「大好きなんですね、お父さんのこと」

「うん。今度紹介するね」

「楽しみにしてます」

「あっ、それならこの件が終わったら来て貰おうかな。積もる話もあるし」

「積もる話、ですか?」

「うん。狼君とのこと」

「は?」

 突然名前を呼ばれ、狼は箸を止めた。

「色々お礼して貰わないと」

 狼はすぐに分かった。闇代の言う『お礼』とは、ルビを振るなら『私刑』となるやつだと。

「何でそんなことを……」

「だって、見られたし」

 闇代の笑顔に、青筋が浮かんでいる。どうやら、先程のハプニングを根に持っているらしい。

「いや、見えたのかは分からんが」

「見たんでしょ?」

「視界がぼやけてて、ナース服の白だったのか下着のそれだったのか、よく分からんだ」

「言い逃れするの? 色も合ってるし」

「合ってんのかよ」

「狼」

 優の声は、珍しくドスの効いていた。

「女の子のスカートの中を覗いたんですから、それ相応の責任は取って然るべきだと思いますよ」

 こちらは満面の笑み。しかし、先程の闇代のそれと同じように、却って不気味だ。

「だから、見たかどうかは」

「関係ありません」


 結局狼は、週末に地獄を見ることになる。……のだが、それを語るのはまた別の話。


  ◇


 ……一方、紗佐はというと。


「はぁ~、驚いちゃったな」

 一人でぶつぶつ呟く、危ない人予備軍となっていた。人通りの多い路地だったら、予備軍ではなく一軍であっただろう。

「幽霊って、本当にいたんだ」

 ふと紗佐は、後ろを振り返った。

「私の後ろに、幽霊がいたり、しないよね……」

 背筋が震えを感じ、紗佐は表情が暗くなる。

「誰もいないぞ」

「本当!? 良かった~」

 と言ってから、血の気が引いていくのを紗佐は感じた。はて、自分は一体誰と話をしているのだろうかと。

「いたら俺が殺している」

 『殺す』という単語に、再び震える紗佐。出来れば、ここで更に振り返りたくはない。だがここで振り返らなければ、今度は怖くて動けなくなる。恐る恐る振り返ると、そこには―――

「何ダ、お前ダッタノカ」

 そこにいたのは、昨日の少年。

「な、何だ……」

 ほっとする紗佐。

「何ダとは何ダ」

「す、すいません……」

 いやいや、少年も何だと言ってるんだから、お互い様だろ。……そういう問題でもないか。

「まあいいが」

 そこでふと、先程の言葉が気になった。止せばいいのに。

「あ、あの、『殺す』、って……?」

 紗佐はこう見えて、結構耳聡い。記憶力や理解力をそれに変換して生まれてきたんじゃないかと思うほどだ。その弊害は特に勉強とか勉強とか勉強とか。

「ああ。俺は、退魔師ダカラナ。霊は、殺す」

 退魔師? はて、どこかで聞いたことがあるような言葉だ。紗佐は記憶の中を探る。生憎と記憶の検索は苦手だが、今日聞いたばかりなので、それはすぐに見つかった。

「もしかして、闇代ちゃんが言ってた……」

「闇代? 飾闇代か? あいつの居所を、知っているのか?」

「あっ……!」

 つい口を滑らせてしまったようだ。

「知っているんダナ?」

「ひっ……!」

 少年の気迫に、怯える紗佐。いるかどうか分からない幽霊よりも、目の前にいるこの少年のほうが余程怖い。

「案内しろ。今すぐにダ」

「は、はい……」

 目に涙を溜めながら、何とかそう答えた。そんな彼女を、誰が責めれようか。

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