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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
M―視える。ナイツ
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何この喧嘩は?

 狼は一息吐くと、優が入れたお茶を啜った。

「大体の事情は分かった。要はそいつを止めて、霊を暴走させなければ、今回の件も解決する、と」

「無理だよ……。だって、わたしもまったく歯が立たなかったんだから」

 闇代は、俯きながら、消え入りそうな声で言った。

「そんなに強いの?」

 縄文寺が尋ねる。

「うん……。わたしの力が、まったく通用しないんだもん」

「力?」

「うん。除霊師や退魔師には、戦闘用の力が備わっているの。それが、あいつにはまったく効かないの」

「力、か……。まあ、こいつのは大したことないんだろうけどな」

「そんなことないもん!」

 闇代は頬を膨らませながら反論する。

「狼君みたいに意地悪で性根の腐った人には分からないかもだけど、こっちの業界では『暴れん坊乙女』の異名だってあるんだから」

「単なるじゃじゃ馬娘じゃないか」

「八代将軍のほうだもん!」

 徳川吉宗か。

「とにかく、わたしよりも弱っちい狼君じゃあ、あいつは倒せないの!」

「言っとくけどな、俺だって武道全般出来るんだぞ。お前みたいなチビに『弱っちい』とか言われたくないっての」

 狼は何故かそんなことを言い出した。

「わたしは柔道の世界チャンピオンを気絶させたもん」

「嘘吐け」

「ほんとだもん!」

 闇代は涙ぐんでいた。信じてもらえないのが、余程悔しいのだろうか。

「わたしのママは、何も力がないのに、身体能力だけで戦い抜いてきたんだもん」

「それはお前の話じゃないだろ」

「パパは、ママより強いって、言ってくれたもん……」

 闇代の表情は徐々に沈んでいる。虚勢を張る元気もないのだろう。

「虚勢じゃないもん!」

 おっと、聞こえていたらしい。

「そんなに信じられないなら……、その目で確かめてよ」

 上目遣いの闇代の目は、悔しさが滲み出ていた。本人が聞いたら怒るだろうが、小さな子供が拗ねているようにも見える。

「分かった。表に出ろ」

 それを聞くなり、闇代は外に飛び出していった。

「ちょっと、あんたまさか、女の子に暴力振るうつもりなの?」

 縄文寺が狼の腕を掴んだ。

「あいつがそう言うんだ。仕方ないだろ」

 狼はそれを振り切って、外に出た。



  ◇


 ……人通りの多い所では他人の迷惑になるとのことで、近くの公園ですることに。


「まったく、ほんとにやる気なのね……」

 縄文寺が嘆息するが、当の二人は本気のようだ。

「いつでもいいよ。来て」

 闇代は重心を落として、両手を垂れ下げながら構える。

「ああ」

 狼は右手を真横に突き出すと、

「『疾風の雷花』」

 それを後ろへ反らし、

「アレグロ!」

 投球の要領で、何かを投げ飛ばす。

「……遅いよ」

 が、既に闇代の姿は掻き消えている。

「なっ……!」

 狼は咄嗟に前へ飛び出し、そのまま前転する。刹那、彼の背中を闇代の足が掠める。……闇代が、彼の背後から回し蹴りを放ったのだ。

 彼女が次の行動に移る前に、その左側から何かが飛来する。

「ぐっ!」

 闇代の姿が再び掻き消え、少し離れた所に現れる。一方の狼は体勢を立て直し、闇代を正面から見据える。

「遅いんじゃなかったのか?」

 闇代は左肩を押さえ、何でもない風に見つめ返す。

「でも狼君も、背中に一発、受けてるよね……?」

「問題ない」

 狼は平然と答えるが、実際は背中に痛みを感じていた。……掠っただけでも、十分なダメージを負っているらしい。

「……それにしても。まさか、こんなにも早く捕らえられるなんて」

「アレグロは、音速で相手を貫くからな。代わりに殺傷力が低いが」

 狼は、矢尻のようなものを示していった。狼の通う学校に伝わる、例の武器の一つ『疾風の雷花』アレグロだ。

「ふーん……。そんなに凄い武器があるんだね」

「別に、望んだわけじゃないけどな」

 そう言う狼は、どこか儚げで。

「でも―――」

 闇代は肩から手を離すと、

「負けないよ」

 再び疾走を始めた。

 狼は再び、前方に武器を放つ。……放ったはずだが、

「どこ狙ってるの?」

「!」

 それは弧を描いて、背後から狼の背中を、腹を、抉っていった。傷口から血が噴出し、彼の体を紅に染めていく。

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