コスプレキャンペーン、始めました?
◇
……『虹化粧』に辿り着く。
「おいババア」
勢いよく扉を開けた狼を、
「お帰りなさ~い」
出迎える優は、何故かメイド服姿だ。
「あいつはどうした?」
そしてそれをスルーする狼。
「何か突っ込んでくださいよぉ~」
そんな彼の態度に、残念そうな表情を浮かべる優。
「昨日のあいつはどうした?」
狼は、それに関しては無視を決め込んだようだ。
「あの子なら、一緒にコスプレ中ですよ」
それを悟り、諦め顔の優。住居部分へと繋がる、暖簾の掛かった通路の入り口を指差して答えた。
「そうか」
「着替えが終わったら、直ぐにでも来ると思いますよ?」
「おかえり~」
と言った直後、その通路から件の少女が姿を現した。風呂にでも入ったのかやや湿り気のある金髪をツインテールにし、思った以上に小柄なその体躯を真っ白なナース服に身を包んでいる。そんな格好にもかかわらず、平然と初対面の人間を向かい入れるその精神には、思わず感服してしまう。
にしても、ナース服で『おかえり』とは、どういうことなのだろうか。
◇
「そんなことがあったんですか」
一同は『虹化粧』の住宅部分の居間に集まった。勿論、件の少女もだ。そして先程まで、狼が優に事情を説明していた。
「どうでもいいから、せめて来客中は着替えてくれ」
狼もさすがに見かねたようで、泣きそうな声で頼むが、
「駄目ですよぉ~。お客さんに見せないとコスプレの意味がないじゃないですか」
優は先程のメイド服に猫耳を追加していた。ちゃんと尻尾もついている。
「そうだよねぇ~」
少女のほうも完全に乗り気だ。
「で、そいつは何なんだよ?」
狼は諦めて、本題に戻った。それに対し少女は居住まいを正すと、
「飾、闇代です」
頭を下げて、自分の名を告げた。
「ここから少し山間のほうにある、虹ヶ丘町に住んでいて、家は除霊師をしています」
「除霊師?」
狼は少女の、金髪頭の天辺から、整えられた眉毛、くりくりと愛らしい目、綺麗な桜色の唇、ナース服に覆われた起伏の少ない(というか皆無の)胸へと視線を巡らせ、
「全然見えないな」
下手すると小学生だろ、と続けようとしたのだが、
「悪かったね!」
彼女の声で遮られてしまった。
「で、そのちびっ子除霊師さんが、何で道端で倒れてたんだよ?」
闇代は何か言いたげだったが、文句よりも説明を優先させたようだ。
「こっち絡みの件で色々あって、力尽きて倒れたの」
「こっち絡みってのは、除霊師云々か?」
「そうだよ。……狼君は信じてないみたいだけど」
いや寧ろ、信じていないのは戸沢のほうだ。
「霊の暴走と、あと退魔師が好き勝手してるって聞いたから来てみたんだけどね」
「除霊師と退魔師って、何が違うんだよ?」
「除霊師は『霊から害悪を取り除く』のが仕事で、退魔師は『霊を魔として退ける』のが目的」
「よく分からん」
というか、他の人達が置いてけぼりになっている気が……。
「とにかく、退魔師は除霊師の敵なの。しかもそいつ、町中の霊を集めて悪霊にしてたんだよ。そうやって、自分達の行いを正当化して、効率よく除霊してるの理性が飛んで元に戻らなくなってるから、こっちも除霊するしかないし」
「それで、暴れるだけ暴れて、挙句返り討ちに遭ってくたばったのか?」
「くたばったとか言わないで」
「事実だろ?」
頷くしかない闇代。とても不服そうだ。