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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
132/132

大体いつもこんな感じですよね


  ◇



 ……更に数分後。


「もぅ……いきなり抓らなくてもいいじゃない」

「いや、ほんとすまん……」

 赤くなった頬を擦る闇代に、狼は申し訳なさそうに頭を下げる。先程、寝ぼけていた狼は、一緒に同じ布団で寝ていた闇代を見て、彼女が勝手に自分の布団に入ってきたのだと勘違いをした。そして思わず、彼女のほっぺを抓ってしまったのだ。まあ、蹴られなかっただけマシだと思うが。

「大体、何で同じ布団で寝かせてたんだよ?」

「まあ、なんて言うか、なんとなくね」

 狼に問われて、顔を背けているのは優。珍しく後悔しているみたいだ。

「にしても、我が子ながらつまんないわね。女の子と同衾してたんだから、もっと可愛い反応するか、けだものになるかしなさいよ。あ、獣って言っても、獣人化じゃないわよ」

 違った。期待外れでがっかりしていただけだった。しかも相変わらず、保護者に似つかわしくないことを言ってるし。

「そうだよ。もうわたしは狼君専用なんだから、狼君の好きなようにしていいんだからね。っていうか寧ろ滅茶苦茶にして」

「だっ、駄目だよそんなのっ! そんな羨まし―――破廉恥なこと、してもいいのは私だけなんだからねっ!」

「誰も破廉恥なことだなんて言っていないけどな」

「え、えっと……と、とにかく、駄目なものは駄目なのっ!」

 ああ、なんかまた、いつものようなドタバタ状態に……。

「それはともかくとして」

 そんな彼らの声を、優が遮った。

「そろそろ、お互いの事情を話し合ったほうがいいんじゃないかしら?」

 言われて、狼と闇代、そして美也が顔を見合わせた。確かにまだ狼たちは、相手の内情をちゃんと知らないでいた。ここは一度、ちゃんと話しておく必要があるだろう。



  ◇



 ……彼らは一時間ほど掛けて、互いの事情を打ち明けた。狼は獣人化と魔術のこと、闇代は除霊師としてのこと、美也は自身の能力やそれによる過去、彼女の『聖剣』のこと、ついでに優や一片についても話された。そして残すは、『原始の聖剣使い』を倒したあの一撃のことだけだった。

「それで、結局あれはなんだったの?」

 最初に疑問を投げかけたのは美也だった。彼女の言う『あれ』とは、言うまでもなく、最後に現れた光の塊である。確かに、あれは一体なんだったのか。

「ん? ああ、なんか不思議な感じだったよな」

「うん。なんだが、狼君と一つになったみたいだった」

 そう語るのは、実際にあの現象を引き起こした張本人達二名。彼ら自身も、何が起こったのかよく分かっていないみたいだった。

「そっか。それについても話さないとね」

 すると、優がポツリと呟いた。その様子からして、あの現象について、何か知っているのだろうか?

「その反応を見るに、あれはお前が仕組んだのかよ?」

「ううん、違うわ。っていうか、あれはそもそも仕組んで起こせるものじゃないし」

 狼に問われて、優は首を横に振って否定した。それを聞いた狼と闇代は、不思議そうに顔を見合わせる。

 優は少し間を空けて、説明を始めた。

「まず、あの現象の名前だけど。前にあれと似たようなものを使っていた人は、『ソウル・コネクト』って呼んでたわ」

「ソウル……」

「コネクト……?」

 闇代と狼が声を漏らす。彼らにも何か思うことがあったのかも知れないが、優は気にせずそのまま続けた。

「具体的な定義はないわ。というより、定義出来るほど使える人がいないのよ。今までに使えたのは二組で、私が自分の目で見たのは一組だけ。使ったのはどっちも特殊な人達で、現象自体もかなり違ってたから、まともな共通点を見つけることも出来なかったの。ただ、それを使った人に言わせれば、『ソウル・コネクト』は愛の証らしいわ」

「愛の……証?」

 なんか、唐突に変なフレーズが出てきたけど。

「そ。まず、『ソウル・コネクト』は一人では使えない。誰かと一緒にいないと駄目なの。そして、自分と強い絆を持った相手じゃないといけない。とりあえず、それが数少ない共通点で、愛の証たる由縁よ」

「なるほど―――だから、わたしと狼君なんだ」

 その説明で、闇代は納得したらしい。そして頬を緩ませ、にやにやしながら、こう言った。

「やっぱり、あのキスが狼君の愛の証だったんだね」

「「え……?」」

 あ、まずい、爆弾投下しちゃったかも……。

「キスって、何のこと……?」

「狼君ね、わたしにキスしてくれたの。……きゃっ!」

 嬉しそうに、両手を頬に当てながら身悶えする闇代。すると美也は、まるで天使を思わせるような優しい笑顔を浮かべて、狼のほうを向いた。

「狼君……今の話、ほんと?」

「え、えっと……不本意ながら」

 その微笑みに不気味な迫力を感じながらも、肯定する狼。

「あら、思った以上にやることやってるのね」

 優はそんな感想を述べているが、問いかけた美也は硬直してしまって、さっきから動かない。そうやって、微妙な空気が辺りを覆いだしていたのだが、それを破ったのは意外にも美也本人だった。

「そうだ……私もっ! 私も狼君とちゅーすればいいんだ!」

「は……?」

 言うや否や、美也は狼に駆け寄り、彼の両肩をがっしりと掴んで、こう迫ったのだ。

「狼君、今すぐ私とちゅーしよっ!そしてそのまま既成事実を作りに行こっ!」

「駄目ぇーーー!」

 狼が答えるよりも早く、闇代がすっ飛んできた。そのまま二人の間に割り入らん勢いで掴みかかると、美也の両手を叩き落とす。

「狼君はわたしと結婚するんだから、そんなの絶対駄目!」

「おいこらちょっと待てやお前ら」

 遅まきながら突っ込む狼だったが、彼女たちは既にヒートアップしてしまっていて、その程度では止まらなかった。

「何言ってるの? 私のほうが狼君と付き合いが長いし、彼のこと、沢山知ってるんだからね!」

「わたしだって、狼君のことなら何でも知ってるもん!」

「じゃあ、狼君の誕生日と、血液型と、中二の学年末テストの成績、分かる?」

「五月二十九日生まれのA型Rh+で、成績は国語72点、数学89点、社会75点、理科82点、英語91点、音楽62点、保健体育54点、美術30点、技術家庭科79点だよ!」

 なるほど、芸術系の教科は軒並み点数が低いのか。……っていうか、なんでそんなに詳しく知ってるんだ? 聞いてきたってことは、美也もそれを把握しているのか?

「因みに三年の総合成績は国語3、数学5、社会4、理科4、英語5、音楽3、体育3、美術2、技術家庭科4だよ」

「そ、そんな、私も知らない三年生のときの成績まで……!」

 どうして、まるで見てきたみたいにすらすらと出てくるのだろうか。まさか、家捜しをして成績表を手に入れたのか?

「他にも、五歳のときにしたおねしょの回数とか、トイレットペーパーの三角折が嫌いで見かけると元に戻してることとか、コンビニのポイントカードを作ったけど全然行かなくて未だに10ポイントしか溜まってないこととか、全部知ってるんだからね!」

「お前は俺のストーカーか!?」

 五歳のときにしたおねしょの回数とか、本人も覚えてないと思うが。

「くっ……まさか、新参者がそこまで出来るとは」

「ふっふっふっ。これで、狼君のお嫁さんはわたしで決まりだね」

「決まってねぇよ!」

「それはどうでもいいけど。闇代ちゃん、ちょっと」

 その会話を聞いてか、優が闇代に呼びかけた。

「もしかして、狼の記憶を持ってない?」

「う~んと……確か、『ソウル・コネクト』? をしたときに、狼君の記憶が流れ込んできたの」

 その話を耳にして、優は納得したように頷く。

「やっぱり。『ソウル・コネクト』って、名前の通り、魂を繋ぐ技みたいだから。そのくらい出来ても不思議じゃないわ」

「じゃ、じゃあ、私は闇代ちゃんに、狼君デレ度だけじゃなくて、狼君知識量でも負けてるってこと……?」

 なんと悲しきかな。ぽっと出に男を取られ、取り返そうにも、唯一のアドバンテージは消滅。がっくりと頭を垂れるしかない美也だった。……っていうか、狼君知識量って何? 狼に関する知識の量?

「で、結局どうなんだよ?」

「何がよ?」

 ようやく女性陣が落ち着いてきたので、狼が優に問いかけた。しかし優は澄ました顔で問い返している。

「その、『ソウル・コネクト』とかいうの。やっぱり、それ見越して変なこと言ってたのか?」

 変なこと―――つまりは、『愛の力』とか言ってたことか。しかし、優は首を振って否定する。

「言ったでしょ? あれは定義すらまともに出来てないの。そんな訳の分からないもの、狙って使えるようにするだなんて、いくらなんでも無理よ。実際私だって、あんたたちの周りに白い光が漂ってるのが見えて、初めて思い出したくらいなんだから」

 まあ、その割には二人をくっつけようとしていたけどな。やっぱり、面白がっていただけだろうか。

「それじゃあ、細かいお話も終わったことだし、わたしは狼君と大人の階段上ってくるね」

「だ、駄目っ!」

 闇代が狼の右腕をがしっと掴むと、美也が慌てて彼の左手を掴んで引き止めた。

「もぅ、わたしのほうが狼君知識量が多いんだから、狼君はわたしのものなの。だから、潔く諦めて」

「嫌っ! それに、たとえ狼君知識量で勝てなくても、体で誘惑するからいいもん!」

「いや、とりあえず離せよ二人とも」

 そう言って、狼の胴体に自分の体(特に胸)を押し付ける美也。だが、狼は顔を顰めているだけで、効果はない様子。

「くっ……狼君はロリの道に落ちちゃっていたんだった! けど、私が狼君を、真っ当な性癖に連れ戻すから!」

「いや、色々間違ってるだろ」

「安心して。私そのうちボンッキュッボンになって、狼君をメロメロにするから」

 うん、まあ、自主規制しなくていいならもう何も言うことないや(諦め)。

「っていうかお前ら、ほんといい加減離してくれよ」

「「嫌っ!」」

 息ぴったり。完全なユニゾン。なんか、既視感があるんだけど……。

「「だって、狼君が大好きなんだもん!」」

「いいから―――はーなーせー!」

 両腕をがっちりホールドする少女二人を、必死に振り払おうとする狼。何気に美也は告白しているのに、速攻でスルーされてるし。

「まったく、若いっていいわね……」

「見てないで何とかしてくれよ!」

 狼争奪戦が徐々に激化していき、狼はなんだか形容し難い状態に陥っていく。しかし、それを見ている優や一片も、彼を助ける気配は皆無。そんな、いつもの日常が、もう既に戻りだしているのだった。

これで「クインテット。ナイツ」本編は終了です。最後まで読んで下さって、嬉しい限りです。そのうち日常編も再開するつもりなので、そのときにでも会いましょう。では、今回はこの辺で。

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