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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
131/132

おはようのちゅー……ならぬ、おはようのつねり


「がっ……!」

 白い光が弾けて、霧散し、朝霧が晴れていくように消えていく。体を拘束していた触手もなくなり、自由になった『原始の聖剣使い』は、重力に引かれてゆっくりと落下していった。

「うるふ、くん……」

「やみ、よ……」

 光柱が消滅し、その後に残ったのは、上空に漂う二人の男女。抱き合う彼ら、狼と闇代は互いの体を引き寄せながら、『原始の聖剣使い』のように、地上へと落ちていく。

「んっ……」

「うっ……」

 しかし、その途中で紅色の膜が張られ、彼らを包み込むようにして受け止めた。そしてそのまま、二人を包んだまま緩やかな速度で降りてくる。それが地上付近まで降りた辺りで、優がそこに歩いてきた。

「……ふぅ。まったく、最後まで手の掛かる子達ね」

 優が両手を差し出すと、その上に、膜に覆われた狼たちが乗っかる。赤色の膜が破れると、その中から狼と闇代が姿を現した。二人は身を寄せ合いながら、穏やかに眠っているようだった。

「……おい」

「あら、瞳君じゃない」

 事態が収束したと思ったのか、一片が優に寄って来た。その表情には、安堵と疑問、そして不安といった、様々な要素が混じっているように思える。

「これは一体、どういうことダ?」

 その問いは、先程の白い光についてだろうか? 優は抱えた二人に目をやり、口元を綻ばせてから、こう答えた。

「それに関しては、後でちゃんと説明するわ。とりあえず―――今は、『あれ』を始末しないと」

 優は狼たちから、その向こうへ視線を移す。そこには、今まで戦ってきた相手―――『原始の聖剣使い』が、力なく倒れていた。しかし、その仮面の隙間からは、微かな吐息が漏れている。つまり、彼はまだ生きているらしい。

「まったく、この子達らしいというか、ね。殺されかけたっていうのに、その相手を生かしちゃうんだから。―――でも、今回ばっかりは捨て置けないわ。きっちり、殺さないと」

 あれほどまでに殺生を嫌っていた優が、そんな台詞を口にする。それ程までに、この存在は、『原始の聖剣使い』は危険なのだ。さすがに、一人の犠牲も出さずに解決、という訳にもいくまい。

「それについてだが、奴の始末は俺たちに任せてもらおうか」

「あら、あなたたち、生きてたの?」

 振り返れば、先程ギブアップした『聖剣使い』の少年―――エンディングと、同じく『聖剣使い』の少女―――神宮寺舞が、重い体を引き摺るようにして、優たちの元へやって来た。どうでもいいが、今回は同じ方向から出てくるんだな。毎回毎回、挟むように登場していたくせに。

「そんなことより、あいつの始末よ。あんた、どうせ殺せないんでしょ?」

「ええ、そうね。殺さなくて済むなら、それに越したことはないわ」

 神宮寺舞の言葉に、優は素直に頷く。やはり、優に殺人は荷が重過ぎるみたいだ。

「そう言うだろうと思っていた。安心しろ、留めは俺たちが刺す」

「そういうわけだから、その子達の手当て、早くしてあげたら?」

 『聖剣使い』二人はそう言い残すと、『原始の聖剣使い』の元へと歩いていった。優はそれを見送ると、一片に向けて、こう言った。

「さ、そろそろ帰りましょ」



「……さて、やるか」

「そうね」

 エンディングと神宮寺舞は、地面にひれ伏す『原始の聖剣使い』を見下ろし、それぞれの『聖剣』を取り出した。

「ARCANA I―――SWORD」

「『エタニティリング』」

 エンディングの手には一本の剣が現れ、神宮寺舞の手刀は仄かな銀色の輝きを纏いだす。そして、二人同時に、手にした刃を振り上げた。

「じゃあ、ね」

「さらばだ」

 せめてもの、別れの言葉を残して。

 二人の『聖剣使い』は、同族の首に、刃を振り下ろした。



  ◇



 ……それから暫く後。


「ふぅ……とりあえず、これで大丈夫ね」

 優は袖で額の汗を拭うと、一息吐いて座り込む。その前では、狼と闇代の二人が並んで一つの布団に入り、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。優は先程まで彼らの治療を行っていたのだが、何故布団が一つなのかについては、突っ込まれても答えられない。気になるなら優に訊いて下さい。

「それで、美也ちゃん……で、よかったのよね? あなたはどうなの? 怪我してない?」

「あの、えっと……大丈夫、です」

 負傷していないか問われた美也は、狼たちを見守るような位置に正座していた。彼女も結構なダメージを負ったはずなのだが、さすがというか、手当てを必要とするような傷は一つもない。僅かな掠り傷も、既に瘡蓋が出来ている。

「そう、よかった。―――じゃあ、ちゃんと自己紹介しないとね」

 優は居住まいを正しつつ、美也に向き直った。

「私は牧野優。狼の保護者よ。みんなは『お優さん』って呼んでくれるけど、あなたは好きなように呼んで頂戴」

「どうも、ご丁寧に……。私の名前は山下美也で、狼君とは中学時代に同じ部活でした」

 恐縮しつつ頭を下げる美也に、優は微笑みながら、こう言った。

「お互い色々思うところはあるでしょうけど、詳しい話はこの子達が起きるまで待って頂戴ね。そしたら、全部話しましょ」

 その『全部』の内容を知ってか、美也は無言で頷くのだった。



  ◇



 ……数分後。


「んっ……」

「うぅ……」

 狼と闇代が、ほぼ同時に目を開けた。その目線は宙を彷徨い、やがて、互いに交錯することとなる。

「闇代……」

「狼君……」

 顔を合わせる二人の距離は、数センチもなかった。同じ布団に入っているので、鼻が触れ合うほど近くに相手の顔がある。

「んっ……」

 闇代は、目を閉じて、唇をちょこんと突き出す。それを見た狼は、微笑みながら、右手を彼女の頬に添える。そして―――

「何勝手に入ってきてんだ!?」

「あだっ!」

 闇代の柔らかい頬を、思いっきり捻り上げたのだった。

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