この休み中にラストまで書いてしまいたい
……その頃、一片は。
「がぁっ……!」
「ぅぁ……!」
狼の体が痙攣して反り返り、その上に覆い被さっていた闇代も跳ね飛ぶ。けれども、お互いに相手の体を抱き締めて、離れていくようなことはない。最早、生命を維持する方法はそれしかないのではないかとさえ思えてくるほどに強く、きつく、抱き合う二人。
「くっ……」
そんな彼らを、一片はただ眺めることしかできないでいた。
「ぁぁっ、ぅる、ふ、く……!」
「やみ、よ……っ!」
力の込められた指が、狼の、闇代の背中に食い込んで。しかしその痛みすら、自分の存在を主張する声になっている。痛みによって、朧げな相手の意識に、自分をアピールしているのだ。
(一体、あいつは何を考えているんダ……?)
この悲痛な状況を放置した挙句、手を出さず静観することを指示した魔女に、一片は不信感を抱かずにはいられなかった。
……戦場に戻って、優たちは。
「『コネクト・アーク』、行くよ」
美也は相棒である『聖剣』を構え、『原始の聖剣使い』と向き直る。対する『原始の聖剣使い』は、片側の刃が切断された双頭剣を投げ捨て、新たな武器を呼び出しに掛かる。
「第五十三の封印因子、姿を現せ」
疾風と共に現れたのは、トリガーのついた直線的な刀。そう、嵐を象徴する凶刃だ。
「二度と立ち上がれぬように、完膚なきまで叩き潰してやろう」
一気に決着をつけるつもりなのか、『原始の聖剣使い』は刀のトリガーに指を掛け、容赦なく引いた。
「「……っ!?」」
『聖剣』によって発生した突風が、優と美也に強く吹きつける。それだけでなく、周囲に落ちているアスファルトの欠片や瓦礫なども飛んできた。風を纏っている美也はともかく、今の優はその直撃に耐えられそうにない。
「黄炎……!」
優の刀を包むように黄色の炎が現れ、『原始の聖剣使い』目掛けて放たれる。けれどもそれは、吹き荒れる無慈悲な嵐を前にして、虚しく霧散してしまった。
「ははっ、そろそろ限界なのだろう? いい加減楽になるといい」
『原始の聖剣使い』の嘲笑う声が、風に乗ってはっきりと聞こえてくる。それでも優は諦めずに、身動きの取り辛いにも拘らず、飛んでくる瓦礫を刀で両断し、直撃を回避していく。
「美也ちゃん、大丈夫……!?」
それどころか、自分だけでなく美也の心配までしていた。美也はそれに小さく頷きながら、目を瞑る。どうやら集中力を高めて、『コネクト・アーク』の刃を高速回転させているらしい。
「円舞葬送!」
掛け声と共に、『コネクト・アーク』が大きく振り払われた。黄金色の刃は空を切り裂き、一瞬だけ、辺りに渦巻く暴風を相殺する。
「青炎……!」
その僅かな隙を見逃さず、群青色の炎を放つ優。炎は風の裂け目を縫うように進んでいき、『原始の聖剣使い』の握る刀に激突した。
「なんと……!?」
高温の炎が、引き金つきの刀の身を瞬時に融かしてしまう。発生源が壊れたためか、吹き荒れる風は信じられないほど急速に弱まって、ぴたりと止んでしまった。
「一度突破された武器が、二度も通じるわけないやろ?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる優だったが、かなり疲労困憊している様子だ。それと余計かもしれないが、今回突破できたのは美也の協力があったからだ。
「ふむ、それも一理あるな」
優の言葉に頷く『原始の聖剣使い』。刀身が融け切れた刀を投げ捨て、右手を前方へ突き出した。
「第百六の封印因子、姿を現せ」
だが、呼び出された武器が姿を見せる気配はない。もしかしたら、またもや見えない兵器の類なのだろうか?
「……えらい、嘗めた真似してくれたやないの」
優には、『原始の聖剣使い』の武器が何か分かったようだ。額から冷や汗を垂らして、周囲を見回している。
「美也ちゃん、絶対にそこを動かんといてな。―――ここいら一帯、地雷原になっとる」
「じ、地雷……!?」
何故にそんなことが分かんの……? あ、突っ込み禁止ですか。さいですか。と思っていたら、優が自分から説明してくれた。
「地面に疎らな熱源がある。それが武器なら、十中八九地雷やろうな」
なるほど、熱源感知ができるのか。単なる勘ではなかったわけだな。熱源感知の時点で色々非常識だけど、優のことなので寧ろ納得。
「美也ちゃんって、遠距離攻撃できたっけ?」
「一応、やろうと思えば……」
「そう。じゃあやって」
いくら実質移動不能状態とはいえ、近接型の武器に遠距離攻撃を強要しなくても……。無茶じゃないのか?
「『コネクト・アーク』、『アークモード』」
美也が『コネクト・アーク』を左手に持ち替えると、そのリングの一部、持ち手と反対にある箇所に小さな亀裂が走った。亀裂は段々広がって、刃が真っ二つになってしまう。そう、今まで『O』の字だったのが、『C』字に変形したのだ。更に刃が広がっていき、やがて形状は『U』のようになってしまう。その後に持ち手の部分も変形して、先の開いた『A』に近いフォルムが出来上がった。
美也はそれを弓のように構えると、刃の断面から伸びる細い糸に指を引っ掛けた。……ってか、変形できんのかよ。
「なるほど、弓やな。―――んじゃ、久々にシューティングゲームでもするか」
美也の『聖剣』が変形したことを確認すると、優は再び、剣先で空中に輪を描き始めた。