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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
126/132

レポート面倒……だって、レポート書いてると小説書けないんだよ? 地獄じゃん


  ◆


 ……時間は少し戻って、『原始の聖剣使い』が自称最強の『聖剣』を呼び出した頃。


「うっ……!」

 膝を突き、体力の回復に努めていた優が、不意に呻き声を上げ始めた。しかし苦しげな様子はなく、だが焦燥を隠さない顔で、ゆっくりと立ち上がる。

「これって……とんでもない、猛毒じゃないっ!」

 周囲の大気に撒き散らされた恐ろしい毒を感じ、優は慌てて狼たちのほうを振り返った。彼らは優と違って、反則的な生命力はない。故に、この場にいる者達の中でも、毒に対して特に弱いといっても過言ではない。

「うぐっ……!」

「ぁぁ……!」

 案の定というべきか、狼と闇代の二人が、抱き合うようにしながら、もがき苦しんでいた。けれども、そこから一歩離れた位置にいる一片には変わった様子はない。多分、彼は風の加護を身に纏っているから、空気中に漂う毒素を吸わずに済むのだろう。

「狼! 闇代ちゃん!」

 そんな光景を見て、優は二人の元へすっ飛んで行った。近くで見てみると、彼らの容体がとても深刻だと分かってくる。呼吸は浅くて激しいし、目は虚ろで、口からはだらしなく涎を垂らしている。ただ、仰向けの狼と、彼に覆い被さった闇代。二人は互いを求め合うかのように、相手の背に両腕を回していた。それはまるで、今にもあの世へ行きそうな状態なのに、互いの体にしがみつくことで必死に現世にしがみついているようにさえ見えた。

「思ったより軽症だけど……それでも命の危険があるわね。早く処置を―――?」

 この毒は、普通の人間なら文字通り瞬殺してしまえる威力を秘めている。それを前にして未だに生きているのだから、確かに軽症なのだろう。それでも、一刻の猶予もないのは明白である。すぐにでも治療しようとした優だったが、ふと何かに気づいて、その手を止めた。

「これってまさか―――」

 目の前には、のた打ち回る狼と闇代。しかし彼らの周囲には、白くてもわぁんとした何かが、霧のように漂っていた。さながらヴェールのように、守護霊のように、二人を守るようにして、ふわふわと浮かんでいるのだ。

「……」

 それを見た優は何もせずに立ち上がって、傍にいた一片のほうへ歩いていく。

「どうしたのダ? 治療するのではなかったのか?」

 それを見ていていた一片が、不安げな表情で問いかける。だけど優はそれに答えずに、こう言った。

「瞳君、今すぐ二人から離れて。それから、絶対に風の加護を解かないで。ここら辺一体に毒素が撒かれているから。あと、戦闘の余波で石とかが飛んでくるかもだから、二人に当たらないように撃ち落して。―――そして、それ以外は何もしないで」

「それは構わないが……何故二人を治さない?」

 解せない様子の一片に、優は言葉を重ねる。

「もし治したとしても、このままいけば全滅は免れない。けど、もしかしたら逆転できるかもしれないの。というか、他に手がないわ。……だから、お願い。協力して」

 真剣な顔で頼んでくる優に、一片は不満げな態度ではあったが、渋々頷いたのだった。

「じゃあ、お願いね」

 そして優は、駆け足で戦場へ、『原始の聖剣使い』の元へと戻るのだった



  ◇



「さぁて。私もいい加減、死ぬ気で頑張らないと」

 優は刀を『原始の聖剣使い』に突きつけると、両目を閉じて、言葉を紡いだ。

「最後の天来、光臨せよ」

 それによって、握った刃は一瞬で白く染まり、今度は淡い光を放ち始める。

「……ちゅーわけで、ちぃと痛い目見てもらうでぇ?」

 そして開かれた瞳は、紅蓮の輝きを持って、『原始の聖剣使い』を見据えていた。口調も変わったことに気づいたのか、『原始の聖剣使い』は首を傾げながら話しかけた。

「変わった喋り方だな」

「そりゃどうも。外人さんに言われんのも変な気分やけどな」

 そう言いながら、刀の切っ先を使って宙に小さな描いていく優。その軌跡には赤い光が灯り、紅の輪がいくつも生み出されていく。

「さてと、いっくでぇ!」

 そして、輪が十数個に達した辺りで刀を振り上げた。

「炎天―――燃え盛る炎の如く!」

 叫び、刀を勢いよく振り下ろすと、輪が一斉に『原始の聖剣使い』目掛けて飛んでいく。それはさながら、夜空に落ちる流星のようだった。

「第二十七の封印因子、姿を現せ」

 対する『原始の聖剣使い』は、即座にあの双頭剣を呼び出し、それを回転させて攻撃を防いだ。優は、弾かれた輪が砕けて辺りに火花を散らしていく様をちらりとも見ようとせずに、次の攻撃へと移る。

「一回防いだからって、調子に乗ったらあかんよ!」

 刀を水平に構え直すと、刀身が紅の炎に包まれた。

「赤炎!」

 そのまま刃を振り抜くと、赤色の火の玉が『原始の聖剣使い』に向けて放たれる。しかしそれも、回転する双頭剣の前に潰えた。

「はぁっ……!」

 と思ったのも束の間、『原始の聖剣使い』に背後から迫る少女、美也の影が。『コネクト・アーク』を振り上げ、彼を切り裂かんとしている。

「ふんっ……!」

「えっ……!?」

 だがそれも、振り返った『原始の聖剣使い』に受け止められてしまう。受け止めた片側の刃は高速回転するリングによって切断されるが、『原始の聖剣使い』はその反動を利用して、残ったほうの刃を美也へ向けてきた。

「くっ……!」

 剣先が美也の左脇腹を狙うが、彼女の能力に阻まれて傷をつけるには至らない。が、それでも、美也を吹き飛ばすには十分な衝撃だった。

「美也ちゃん! あれと距離を詰めたらあかん! 遠距離から牽制して!」

 咄嗟に受身を取りながら着地した美也に、優が叫んだ。美也は頷くと、『コネクト・アーク』を構え直して、立ち上がる。

「『コネクト・アーク』、行くよ」

 相棒の重さを、腕に感じながら。

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