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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
124/132

やっとラストまでの目処がついた……けど、まだまだ掛かりそうな予感


 ……狼たちは。


「狼君っ……!」

 闇代と美也がほぼ同時に、狼へ駆け寄った。しかし狼はそれに反応する素振りを見せない。出血が酷くて、意識が朦朧としているのかもしれない。

「待ってて、今治すから……!」

 闇代は握っていた霊刀を放り出して、狼の左手を掴んだ。彼女の小さな掌が狼の傷口を包み込むと、血の流れが段々緩やかになっていき、やがて完全に出血が止まった。恐らく、闇代が霊術で止血したのだろう。彼女はそうやって、彼の傷を片っ端から塞いでいった。

「大丈夫……?」

「……なんとか、な」

 痛みと出血が止まって、どうにか返事が出来るようになった狼。だが、依然としてぐったりしたまま。傷を塞いでも、血を失ったことによるダメージが癒えないのだ。

「狼君……」

 そんな彼の顔を、美也が悔しそうな表情で覗き込んでいた。彼女には、闇代のような治癒能力はない。だから狼の傷を治せなくて、大切な人が傷ついているのに何も出来ない、無力な自分が許せないのだろう。

「そういえば、美也さん、それって……?」

 とりあえず手当てを終えたからか、闇代の目が美也の手元に移った。つまり、彼女の握っている『聖剣』に。美也は一瞬躊躇う素振りを見せたが、もう誤魔化せないと悟ったのか、意外にあっさりと口を開いた。

「うん、闇代ちゃんが想像している通りだと思う。……これは『聖剣』っていって、私はあの人たちと同じ、『聖剣使い』」

 半ば予想していた通りなのか、闇代や一片、狼は思ったよりも驚く様子を見せない。ただ狼は何か言いたげだったが、体力が回復していないのか、口を開くことはなかった。

「とにかく、闇代ちゃんは狼君を連れて離脱して。あとは私と、あの人たちで何とかするから」

 美也はそう告げると、再び戦場へ戻ろるために歩き出した。

「待って」

 そんな彼女を闇代が呼び止める。しかし美也は振り返らず、足も止めないで、こう応えた。

「……狼君を、頼むね」

 と。



「ふんっ……!」

 『原始の聖剣使い』の振るった鎌が、飛び掛る二頭のライオンを両断する。潰れて地面に落ちるそれには目もくれず、『原始の聖剣使い』は獅子の主たる少年エンディングに切り掛かった。

「はぁっ!」

 だが、彼の行く手を遮る者がいた。光り輝く手刀の少女、神宮寺舞だ。構えた左腕で、巨大な鎌を受け止める。

「ぐっ……!」

「ふふっ……!」

 手刀と鎌、二つの刃が交錯し火花を散らす。しかし、神宮寺舞のほうがやや圧され気味であった。

「掛かれ!」

 すると、二人の後ろから四匹に増えた猛獣が襲い掛かってきた。

「……ふむ」

 『原始の聖剣使い』が飛び退くと、獅子達は彼を追って方向を変える。またも飛び掛り、切り捨てられ、分裂した上で蘇生する。それを繰り返しながら、徐々に数を増やしていった。

「……この国では、こういう状況をなんと言うのだったかな?」

「四面楚歌。或いは八方塞、絶体絶命という言葉も当てはまりそうだ」

 気づけば、『原始の聖剣使い』を、数十頭ものライオンが取り囲んでいた。それらは唸ることもせず、呼吸すらなく、ただただ目の前の獲物を食い殺さんと構えていた。

「非常に厄介だな。まとめて潰そうにも、そうすれば数が倍に増えるだけ。……だが」

 『原始の聖剣使い』は手にした鎌を地面に突き刺し、空いた右腕を掲げて、新たな武器を呼び出しに掛かった。

「させるかっ!」

 エンディングが一斉に獅子達を操り、『原始の聖剣使い』を襲わせる。夥しい数の獣が『原始の聖剣使い』に飛び掛って、彼の姿が完全に見えなくなってしまった。

「第百七の封印因子、姿を現せ」

 だが、それも一瞬。刹那の間もなく、大量の猛獣たちが、焼け石に浴びせた水のように蒸発していった。

「こうやって焼き払えば、存外すっきりするものだな」

 そして、当然の如く立っている『原始の聖剣使い』。その右腕には、小型の大砲が取り付けられていた。グリップを握り、砲身を腕に固定したそれは、俗にいうバズーカ砲と思われる。その口から、ちりちりと小さな火が舞うように飛び出ている。それから推測するに、先程放ったのは火炎放射か何かだろうか。

「ちっ、銃火器か……」

 斬撃には滅法強い獅子達も、さすがに炎が相手では成す術もなかったのだろう。エンディングが焦りを感じ始めた。

「さて、手間取らせてくれた礼をしなくてはな」

 『原始の聖剣使い』のバズーカ砲が、エンディングに向けられる。彼は即座に手元の棍棒を放棄。五芳星の描かれたカードを取り出して、前方に放った。

「ARCANA I―――PENTACLES」

 すると、札から巨大な五芳星が飛び出してきた。先程、防御に使ったのと同じ札なのだろう。

「そんなもので防げると思うな……!」

 しかしそれを嘲笑うかのように、『原始の聖剣使い』はバズーカ砲のトリガーに指を掛ける。

「エンディング……!」

 神宮寺舞が叫び声を上げながら『原始の聖剣使い』に切り掛かるが、この距離ではまず間に合わない。この瞬間にも、トリガーは半分ほど引かれてしまっていのだ。

「死ね」

 そして、バズーカ砲が火を噴いた。

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