いい加減くたばってくれよ……
「ぁっ……!」
優は突然体を襲った衝撃に耐え切れず、刀を地面に突き刺してそれを杖代わりにすることを余儀なくされた。ダメージが酷くて、両足だけでは体を支えられないのだ。体のあちこちには深い傷が出来ており、酷いところでは骨が見えてしまっている。四肢の切断こそ免れたものの、かなりの重傷だった。
「ぐっ……!」
エンディングは双剣を捨て、巨大な五芳星を前方に展開していた。それが盾の役割を果たしたのか、彼は比較的軽傷だ。
「きゃあ……っ!」
神宮寺舞は地面に伏せ、体を襲う苦痛に耐えていた。ダメージのせいか、手刀は元に戻ってしまっている。ただし、怪我は殆ど擦り傷程度で、優に比べると大分軽い。
「うっ……!」
美也は咄嗟に腕をクロスさせて防いでいた。自前の能力も発動していたのか、腕以外には傷が認められない。腕の傷も、近くで注視しなければ分からないほどに小さかった。
「ちっ……」
「う、狼君……!」
狼は、獣人化の解けた右腕で、肉の抉れた左手の甲を押さえる。彼の後ろでは、闇代と一片が、呆然とした様子で立ち尽くしていた。二人の周りに落ちている狼の武器が闇代たちを守っていたのか、彼らが特にダメージを負った形跡はない。しかし狼は左腕、右脇腹、右側頭部から出血している。特に左腕は酷く、肌が血で真っ赤になっていて、手の甲からは大量の血液がどくどくと流れ出していた。
総合すると、闇代と一片、美也はほぼ無傷、エンディングは軽傷、神宮寺舞は中ダメージで、狼と優が最も重傷だった。
「ふむ……虫の割りにしぶといな。普通の人間ならまず死ぬ威力であったというのに」
そして、彼らにここまでのダメージを与えた『原始の聖剣使い』は、台詞ほどの力を出したようには見えない様子で佇んでいた。―――あの時、彼は鎌からエネルギー波のようなものを周囲に放ち、優たちを一斉に攻撃したのだ。一瞬の出来事だったので、描写することも叶わなかった。
「あんな、の……反則、じゃない」
優はどうにか力を振り絞り、傷口の修復を行う。さすが腕を即座に復元できるだけあって、傷自体は一秒も経たない内に塞がってしまった。ただ、さすがに痛みまでは治まっていない様子。
「舞、大丈夫か?」
「平気、よ……まだ、戦える」
神宮寺舞はエンディングに気遣われながらも、立ち上がって左手を構える。腕が再び光で包まれ、手刀が剣に変わっていった。
「そうか。―――それなら、俺も限界まで戦おう」
そんな彼女に触発されたのか、エンディングは何かを覚悟したように、二枚のカードを取り出す。一枚はライオンと女性の描かれた札―――力のカード。もう一枚は一本の棍棒の絵―――ワンドのエースだ。
「ARCANA VIII―――STRENGTH」
そう唱えると、力の札が急激な膨張を始めた。エンディングがそれを投げ捨てると、カードはやがて黄金色の毛並みを得て、一頭の獣と化した。―――そう、カードに描かれていたものと思しき、ライオンに。
「ARCANA I―――WAND」
そしてもう一枚は縦に膨らみ、絵と同じようなデザインの棍棒に変わる。エンディングはそれを握り、神宮寺舞の隣に立つ。
「魔女よ、ここは俺たちで時間を稼ぐ。その間、回復に努めろ」
その言葉と共に、呼び出したライオンが『原始の聖剣使い』に飛び掛った。
「無駄な足掻きそのものだな」
しかしそれも、『原始の聖剣使い』の振るう刃に切り伏せられてしまう。頭から全身を真っ二つにされ、力なく地面に崩れ落ちた。
「……馬鹿を言え。結界の維持で既に大アルカナを使っているというのに、維持と制御の手間を省みずに呼び出した札だぞ? その程度でくたばるわけがない」
だが、ライオンの残骸は一度ドロドロに溶けて、再度形を作り直す。そうして現れたのは、先程と同じ姿・大きさのライオン二頭。つまり、『原始の聖剣使い』に切られて、分裂したのだ。
「ふぅむ? 分裂とは面白いな」
まるでプラナリアのような猛獣を前に、『原始の聖剣使い』は焦ることもせず、ただ鎌を振り上げるのみだった。