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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
122/132

だらだらの戦闘はいつまで続くのやら

「ARCANA II―――SWORD」

 エンディングは二本の剣が描かれたカードを取り出すと、それを真上に投げ捨てる。すると、代わりに細い剣―――カードに書かれていたようなデザインのもの―――が二振り、落ちてきた。

「たまにはチャンバラも悪くないな」

 彼はそれを掴み取ると、軽く振るって構えを取る。しかし、どうにも剣の扱いに慣れているようには見えない。大丈夫だろうか?

「まったく、男はそういうの好きよね」

 神宮寺舞は溜息を吐きながら、左手の手刀を構え直す。そうすると突然、彼女の左腕が、仄かな銀色の輝きに包まれた。淡い光を纏った腕は、まるでそれが一つの剣であるかのように錯覚してしまうほどに鋭い印象を与えてくる。

「私とエンディングは魔女の援護に回るから、あなたは自分のお友達でも守ってなさいよね」

 そして神宮寺舞は、前を向いたまま美也に呼びかけた。美也は静かに頷くと、視線を『原始の聖剣使い』に戻す。

「―――とりあえず、魔女を殺すのが第一だな」

 『原始の聖剣使い』が、巨大な鎌を振り上げる。指名を受けた優は、来る攻撃に備えて全神経を集中させた。

「……死ね」

「え」

 しかし、それを察知することは出来なかった。鋭利な鎌の切っ先が、優の左二の腕を容赦なく抉り、貫き、その先の胴体まで穿つ。

「……っ!」

 眼前には『原始の聖剣使い』の姿が。その距離は数メートルもない。やろうと思えば一瞬で切り伏せられる間合いだが、左腕が潰され、貫通した刃が胴体にまで達しているこの状態ではどうにもならない。

「痛い……じゃないの、よっ!」

 だからこそ、傷口から噴き出した血を操り、相手の武器を拘束しにかかった。血液が刃の表面を覆い、柄の部分まで侵食しようとする。とはいえ、それでどうにかなるとは到底思えないが。

「「はぁっ!」」

 それと同時、『原始の聖剣使い』の両側から、エンディングと神宮寺舞が飛び掛った。それぞれの『聖剣』を振り上げ、『原始の聖剣使い』を切りつけんと迫る。

「……ふふっ」

 しかし『原始の聖剣使い』は避ける素振りを見せない。優が血で武器を拘束しているからではない。それ以前に、回避行動自体を放棄しているように見える。

「なっ……!」

「えっ……?」

 それもそのはず。二人の『聖剣使い』が放った一撃は、『原始の聖剣使い』の表皮に触れた瞬間、磁石が反発するかの如く弾かれてしまったのだ。……こうなると分かっていれば、回避など馬鹿馬鹿しいだけだろう。

「そんなことって……」

 その様子を間近で見ていた優には、それが何を意味するのかすぐに分かった。『原始の聖剣使い』が何故最強と呼ばれたのか、その理由だ。それは、絶対的な破壊力があるからではない。寧ろ、彼にはそこそこ破壊力しかない。それは、これだけの時間を掛けながらも優たちを中々倒せないでいることからも窺える。しかし、人間が対峙するには十分すぎる力に加え、今見せた強靭な耐久力がある。それ故に、人間はおろか、魔女である優や、同類である二人の『聖剣使い』ですら歯が立たないのだ。

「マインド・ウェイヴ!」

 照る照る坊主型の武器―――『砕ける旋律』ブレイクが、狼の手によって放たれる。カーブを描きながら『原始の聖剣使い』の背後を取ると、そのまま真下の地面に叩き付けた。物理攻撃が駄目なら、魔術攻撃なら届くかもしれない。

「ぐっ……!」

「きゃっ……!」

「うっ……!」

 けれども、そんな期待は虚しく散ってしまう。発生した衝撃に、『聖剣使い』二人は吹き飛ばされ、優も苦悶の表情を浮かべてそれを耐えている。

「……ふむ?」

 だが、肝心の『原始の聖剣使い』は涼しい顔をしていた。恐らく、まったく効いていない。これでは、優たちは巻き込まれただけで、骨折り損だ。

「……なるほど、仲間割れか。ご苦労なことだな」

「くっ……」

 その言葉に、狼が悔しそうに唇を噛んだ。けれど、後悔していても始まらない。そう思考を切り替えようとするのだが、いかんせん焦ってうまくいかない。

「うっ、さい……!」

 そんな我が子を庇うように、優は刀を右手だけで構え直して、その剣先を『原始の聖剣使い』の喉に突きつけた。

「……どうした? 刺さぬのか?」

「くっ……」

 挑発される優だったが、それ以上刃を押し込むことは出来なかった。それは優が人を殺せない性分だから、ではない。

「よく言うわね、そんな厚い皮してるくせに……」

 そう、『原始の聖剣使い』の喉元が、やたらと硬いのだ。まるで岩石のような頑丈さに、突きつけた刀が今にも押し返されそうだった。この分だと、全身がこんな感じなのだと思っていいだろう。

「物理攻撃が効かず魔術も駄目。どうしろって言うのよ……?」

 優はぼやきながら、距離を取ろうと後方に飛んだ。その際、鎌の刺さった二の腕が切り裂かれるが、構っている暇はない。更に後ろへ飛んでから、優は自由になった左手を、刀を握る右手に添える。

「そろそろ遊びにも飽きてきた。―――終わらせるぞ」

 『原始の聖剣使い』が鎌を振り上げて、付着した優の血液を払い、拘束を解いて。

 ―――直後、辺りを紅が染め上げた。

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