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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
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更新ペースの維持が最早奇跡


「風天!」

 『原始の聖剣使い』が攻勢に出る前にと放たれた、優の先制攻撃。刃から疾風が発生し、『原始の聖剣使い』を吹き飛ばさんと襲い掛かる。

「団扇の風など恐れるに足らんわっ!」

 しかしそれも、『原始の聖剣使い』が振った刀の前に、虚しく霧散し消えてしまった。だがそれでも、優には僅かなチャンスが生まれた。―――ほんの少しだけ、言葉を紡ぐ猶予が。

「破滅するとき、影名を語る」

 そう唱えると共に、優の手にする刀が、その身を黒く染めていく。同時に、どす黒い衝動が優の心を蝕んでいった。

「風、天……!」

 湧き上がる真っ黒なものをどうにか抑え、再び風を放つ優。しかし『原始の聖剣使い』は、再びそれを弾く。

「なんて、力ですか……」

 そんな台詞と共に、優は思わず荒い息を漏らした。けれど、刀身はまだ黒いまま。優は未だに、刀が生み出す殺意を堪えているのだ。

「ライト・アレグロ!」

「無垢―炎氷の舞!」

 その後ろから狼と闇代か追撃するが、狼の武器は軌道を逸らされ、闇代の攻撃は『原始の聖剣使い』が振るう刀の太刀風で掻き消されてしまう。

「闇代の無垢が通じないってことは、単なる風の加護じゃねぇってことか……!」

 狼の予想は、恐らく当たっている。闇代の無垢は一片の纏う風の加護すら諸共せずに相手を凍らせる。それが効かないのは、先程氷漬けにされたことを考慮するに、『原始の聖剣使い』が冷気系の攻撃に対して特に注意して対策しているのではないだろうか。

「ならば俺が―――」

 一片は、空の鞘を銃の先端に取り付けると、『原始の聖剣使い』に向けて引き金を引いた。大地を砕き霊を滅する、退魔師特有の霊体破壊攻撃だ。

「うぉっ! まだまだやるものなのだな……」

 地面を陥没させる威力を秘めた一撃に、『原始の聖剣使い』はやや怯んだものの、難なく受け止めてしまう。

「くっ……どんだけ頑丈なんですか?」

「絶望したか?」

 息を切らして呟く優を、嘲り笑う『原始の聖剣使い』。けれども優は、彼の言葉を、首を振って全力で否定する。

「『僕』と『彼女』が敵わなかっただけで諦めるなんて、馬鹿げているにも程があります」

「ふむ。よく分からんが、往生際が悪いらしいな」

 『原始の聖剣使い』はやれやれといった様子で、握る刀の引き金に人差し指をそっと当てた。

「まあいい。まだ足掻けるというのなら―――」

 そしてその刀を振り上げると、

「虫けららしく、無様に足掻いてみせろ!」

 ゆったりと振り下ろしながら、指を添えた引き金を、その動作に合わせて引く。

 直後、辺りを嵐が襲った。否、嵐と見まごう程に猛烈な暴風が、『原始の聖剣使い』を中心として発生したのだ。

「ぐっ……!」

 まるで大波に飲まれているかと思えるほどの風に、優は刀を地面に突き刺し、どうにか飛ばされないようにふんばる。

「うぉっ……!」

「きゃっ……!」

「……っ!」

 狼、闇代、一片の三人も、爪や霊刀や鞘を突き立てて、なんとか地面にしがみついていた。

「はははっ! まるでナメクジのようだなぁ!」

 吹き荒れる風に、『原始の聖剣使い』の笑い声が共鳴する。それに呼応するように、また、それを耐え凌ぐ優たちを嘲笑うかのように、嵐がより激しさを増していく。

「こうなったら……」

 何を血迷ったか、優は地面に刺していた刀を引っこ抜き、即座に構え直した。優の体を縫い付けていた楔が外れ、暴風によって宙に巻き上げられてしまう。

「後は、頼みますよ……」

 風に乗って上空へと舞い上がる途中、優はそう呟きながら、そっと目を閉じた。

「……うん」

 再び開かれた目には、先程とは違い、黄色く染まった瞳。その視線の先には、飛ばされすぎて遠くなってしまった『原始の聖剣使い』の姿。

「……最後の天来、光臨せよ」

 発せられたその言葉と共に。

 ―――彗星を思わせる一筋の光が、優の体から放たれた。



「なっ……!」

 『原始の聖剣使い』は、驚いた様子で空を見上げていた。その目線は、何も捉えていない。いや、正確には、そこにあったものは既に動いていて。それでも彼は、未だに目を動かすことさえ出来ないでいた。辺りを襲っていた嵐はとうに止み、握っていたトリガーつきの刀も、刃が真っ二つに折れてしまっていた。

「ふぅ……この段階にするのは数十年振りだから、ちょっと疲れちゃったよ」

 優は、『原始の聖剣使い』の十メートルほど前方の地面に立っていた。―――白い刃を持った刀を携えて。

「もしかして、何が起こったのか分からなかったの?」

 優の言葉も、『原始の聖剣使い』の耳には届いていない。先程優が吹き飛ばされ、勝利を確信していた『原始の聖剣使い』だが、優の放った光の一撃が彼の刀を打ち砕いた。それ故なのか、今は放心状態となっている。

「な、何だったんだよ、いまは……?」

 同じく茫然自失していた狼が、そこでようやく口を開いた。優は振り返ると、微笑みかけるように説明を始めた。

「あれはね、この子に光の粒とか、電子とかを集めて一気に撃ったの。あたしって元々そういうの使うのが専門だし」

 この人さらっと、素粒子使うの専門とか言いましたけど。……もう、一々突っ込んでいられないな。

「……ふ。ふふっ」

 突然、『原始の聖剣使い』の口から、そんな乾いた声が漏れ出してきた。

「ふふっ……はは、はははははははは」

 それは最初小さかったが、次第に音量を上げて、優たちの耳にも届くようになる。

「ははははははははっ!」

 『原始の聖剣使い』は錯乱したように声を上げ、手元に残った刀の柄も捨てて、ただ笑い続けた。……なんか、笑ってばっかりだな、こいつ。

「ははははははははっ! ―――そうか、そうだなぁ!」

 と思った途端に静かになって、両手を真横に突き出し、しきりに頷いている。

「第九十九、百の封印因子、姿を現せ」

 唱えたのは、武器を呼び出す口上。それに応えるように、彼の両腕が、爆ぜるように燃え上がった。

「……っ!」

 まだ彼が諦めていないと分かり、刀を構えなおす優。だがそれは、少々遅すぎた。

「―――死ね」

「……!?」

 次の瞬間には、『原始の聖剣使い』の刃が、優の腹を貫いていた。

「がっ……!」

 優の体を突き刺すのは、刃渡り二メートル前後の長剣。玉虫色に輝くそれは、柄の部分に鎖がつけられ、その鎖の先は、もう一つの―――『原始の聖剣使い』の、もう片方の手で握られた、同じデザインの剣に繋がっていた。

「そして、失せろ」

 『原始の聖剣使い』が右腕を振るう。すると、優の体を貫通していた剣が、その脇腹を切り裂いて自由になる。

「あぁっ……!」

 そこでようやく、悲鳴らしい悲鳴を出した優。体の力が一気に抜け、そのまま地面へ倒れ込む。それを見下ろすのは、一瞬で傍らにまでやって来ていた、『原始の聖剣使い』。

「……ふむ」

 その視線が、優の後方へと移動する。その先にいるのは、狼、闇代、一片の三人。どうやら彼らは、呆然としているのか、状況がうまく飲み込めていない様子。

(……っ!)

 狼が認識できたのは、それまでであった。次の瞬間には『原始の聖剣使い』の姿がなく、刹那の間もなく、狼の眼前に現れ―――

「―――死ね」

 先刻の優と同じように、長剣を狼に突き刺し―――

「……狼君!」

 ―――刺そうとしたが、それは、黄金色をした何かに阻まれた。

「……ほぅ」

 『原始の聖剣使い』が零したのは、歓喜ではなく、驚嘆でもなく、意外。そんなニュアンスの息だった。

「お前……」

 狼は、自分と『原始の聖剣使い』との間に割って入った人物を見て。ただ一言、それしか口に出来なかった。

「……どうにか、間に合った」

 不気味に輝く凶刃を塞き止めたのは。金の光を放つ、金属製のリング。そして、それを握るのは―――

「私の後輩に、手出しなんて、させない!」

 『聖剣』を手にした、狼の先輩、山下美也だった。

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