この人誰? ―――あの人だよ
……時を同じくして、下校途中の紗佐は。
「はぁ~」
紗佐は溜息を吐いていた。理由は簡単にして単純明快。今日も授業についていけなかったのだ。数学も、英語も。この間のテストは仲間―――主に狼―――に助けられたが、いつも彼らを頼るわけにはいかない。とは言うものの……。
「何で皆、あんな難しいことが分かるのかな……」
そう、紗佐だけなのだ。クラスには柄の悪そうな者達も沢山いるのだが、その彼らよりも勉強が出来ないのだ。テストの点数だけならまだしも、理解度なども含めると紗佐はおそらくクラスで最下位だ。
「はぁ~」
また溜息。
「さっきからはぁはぁと、うるさい」
不意に、声が掛けられた。紗佐が振り返ると、そこには少年が佇んでいた。歳は紗佐と同じくらい。着ている上着のサイズが大きいのか、袖からは指先しか出ていない。
「ご、ごめんなさい……」
俯く紗佐。対して少年は、顔を綻ばせた。何かを、思い出したような風だった。
「それはそうとお前、」
少年の声に、紗佐は顔を上げた。少年の声が、妙に真剣さを帯びていたからだ。
「ただで飯の食える場所、知らないか?」
もっとも質問の内容は、真剣さなど微塵もないのだが。
◇
紗佐は結局、少年を自宅に招いた。本当ならばそこまでする必要はないのだが、生憎と紗佐にはただ飯を食える場所など知る由もない。故に、せめて食事でも、と思ったようだ。
「悪いな。見ず知らずの奴のために食事まで用意してもらって」
「気にしないで下さい」
紗佐はエプロン姿で調理をしていた。慣れた手つきで食材を刻んでいく。フライパンに油を引いて、食材を炒める。
「あまり美味しくないかもしれませんけど……」
出来た料理は炒飯。別に米が金色だったりはぜす、家で適当に作ったようなものだ。
「……うまい」
「本当、ですか……?」
「ああ」
少年は炒飯を頬張る。そして、あっという間に平らげた。
「助かった。正直、食えれば何でもよかったんダガ……。まさか、こんなにうまいとは」
「あ、ありがとう、ございます……」
照れる紗佐。普段の学校生活では貶されることのほうが多いから、余計にだろうか。
「じゃ、俺はこれで」
少年は出て行こうとする。
「もう、いいんですか……?」
「ああ。世話になった」
そう言い残して、出て行った。