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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
112/132

体が勝手にやったんです!


  ◆


 ……少し前。


「で、あんたらは結局何者なんだよ?」

 六人パーティーで移動中、狼(職業『魔術師、時々獣人』)が新入り二人(共に職業『聖剣使い』)に尋ねた。

「職業『聖剣使い』だ」

「いや、『聖剣使い』とかいうのは聞いたから」

 それより、職業とか言ってるところに突っ込もうよ。『聖剣使い』って職業なのかよ? とか。ゲームのジョブとしてはありかもだけど。

「因みに、俺の『聖剣』は『ダークタロット』。この通り、ただのタロットだよ」

 エンディングは、懐から一枚のタロットカードを取り出して、言った。そこには、一本の剣が描かれている。……何者かと聞かれて得物を見せてくるのか、『聖剣使い』は?

「ただの、って……。そんなんで戦えるのかよ?」

「安心しろ。こいつは収集型といって、接触した『聖剣』の種類によって使えるタロットが解放されるタイプでな。既に半分以上解放している」

「だから?」

「つまり、半分は使える、ということだ」

 答えになってない気がする……。狼もそう思ったようだが、それを口にはしない。しかし、向こうは勝手に喋ってくれる。ご苦労なことだ。

「もっと言えば、これは『ダークタロット』の一枚、小アルカナの1『ソード』だ」

「けど、確か『ダークタロット』って、札の意味とか関係ないんでしょ?」

「まあな」

 ないのかよ。タロットの意味がないじゃないか。てか神宮寺舞、いきなり話に首を突っ込まないでくれよ。誰の台詞か分からなくなるだろ。

「これは絵のまんま、剣を一本呼び出す札だ。正直、今回の戦いでは使わないだろうな」

 しかも使わないのか……。じゃあ、何で今、そんなの出したんだよ?

「で、私の『聖剣』はこれね」

 もう一人の職業『聖剣使い』神宮寺舞は左手の甲を、正確には左薬指に嵌る指輪を、狼に見せた。銀っぽい指輪の外周には、ダイヤモンドが途切れることなく嵌め込まれている。

「『エタニティリング』っていって、指先から光剣を出す『聖剣』よ」

「ほんとに剣なんだな……」

「まあね。一応、応用は利くんだけど。基本はただの剣でしかないわ」

 要するに、エンディングは色々できる奇術師タイプ、神宮寺舞は通常攻撃一辺倒の剣士ということか。RPG風に表現すると。

「それと恐らく、街中での戦闘になるだろうな、このままだと」

 それぞれの説明が終わった後、エンディングが唐突に言った。

「無論、ある程度の配慮はするつもりだが……。それでも、周囲への被害は覚悟するべきだと思うが」

 それはまるで、彼らのすぐ後ろを歩く優(職業『魔女』)に告げられているかのようだった。しかし優は首を振って、こう答えた。

「被害なんて、意地でも出しませんから」

「なるほど。頼もしいことを言ってくれる。……ところで」

 エンディングは感心したように頷いていたが、ふと何かを思い出したかのように問いかけてきた。

「そういえば、今何時だ?」

「ちょっと待って下さい」

 聞かれて、優は腕時計に視線を落とした。どうでもいいが、何気に古めかしい男物つけてる。何年ものだろうか?

「正午ぴったりですね」

 時計の針は、三本(時針、分針、秒針)とも十二時を指していた。ぴったり正午だ。

「……」

 その答えに、エンディングは気まずそうな表情を浮かべ、押し黙る。

「どうかしました?」

「……その、だな」

 訝る優に、彼は前方を指差して言った。そこは確か、商店街の端の方だ。

「『あれ』の出現地点はあそこなのだがな……あと、数分で来るんだ」

「はい……?」

「だから、あと数分で、『あれ』が来るんだ」

「何でもっと早く言わないのよ!?」

 硬直する優達に、エンディングがそう繰り返すと、神宮寺舞が怒鳴るように突っ込んだ。……って、そっちでも連携が取れてなかったのか。

「仕方ないだろう。俺は時計を持っていない」

「だったら時間ぐらいちゃんと言いなさいっての!」

 そのまま『聖剣使い』二人は口論を始めてしまった。しかし優達は顔を見合わせて、お互いに頷きあう。そしてそのまま、『聖剣使い』たちを置いて走り出した。

 その後、二人の『聖剣使い』が置いてけ堀に気づくのは、それから少し経ってからだった。



「あ、あれは……!?」

 闇代の声で、他の三人も顔を上げた。空を見れば、そこには何故か、昼間なのに星が輝いていた。いや、それは星というより、一筋の流星と言うべきが。何かが、強烈な輝きを放って、流れ星のように落下してきているのだ。

「どうやってここまで来るのか疑問でしたが……まさか空からとは」

 そう呟くのは優。唇を噛んで、非常に悔しがっている様子。

「とにかく、あれを何とかしねぇと……」

「とりあえず、狼と闇代ちゃんは先に向かって下さい。狼は足だけ獣人化して、闇代ちゃんは霊術ありならずっと早いですから」

 そう言われて、狼と闇代は顔を見合わせた。闇代の霊術はともかく、狼の獣人化は、誰かに見られると面倒なことになる。それを恐れての行動だろうか。

「ったく、背に腹は変えられないか……」

 しかし、狼はそう言って、自己の意識を足に集中させた。運動の最中であるため既に激しく脈打つ両足が、痙攣を起こしたかのように震えると、その表面が一瞬で隆起しだした。それがあまりに急だったためか、彼の履いていた靴、そしてこれも穿いていたズボンが瞬時に引き千切れ、無残な布切れとなって地面に取り残されてしまう。一方、足の表皮からは黒色の毛が生えてきて、あっという間に足全体を真っ黒に染める。足の指先には鋭い爪が光り、地をしっかりと掴んで、彼の走りをサポートしている。足だけの獣人化は、無事に完了したようだ。

「まったく、買い換えたばっかの靴なのに、早々に壊させやがって……」

 っておい、さっきの台詞は靴のことか? 新品の靴だけど仕方ないって意味か? などと突っ込む間を与えないほど、獣人化した狼のスピードは上がっていた。

「行こう、狼君」

 霊術を起動した闇代が、狼と並走を始める。狼は頷くと、彼女と共に、商店街の端に向けて爆走していった。



「……!?」

 まるで爆破テロでもあったかのような轟音に、狼は思わず足を止めた。それと同時に、強烈な爆風が吹き付けてきて、彼は危うく体のバランスを崩すところだった。

「遅かったか……」

 前方には、亀裂の入った地面と、立ち込める砂埃。その中心には、薄っすらと人影が見えた。そしてその脇には、よく見知った少女の姿が―――

「美也……!?」

 それを認識したときには既に、狼は疾走を再開していた。電光石火の如く美也に迫ると、いつも闇代が彼にしているように、勢いそのままに彼女へ飛び掛った。

「きゃっ……!」

 あまりのスピードに、数メートルほど飛ばされて、地面に背を打ちつけたのか小さく悲鳴を上げる美也。反射的に体を起こそうとするが、狼が押し倒しているような状態なので無理だった。

「……ったく、冷や冷やさせやがって」

 狼は、安堵の溜息と共にそう呟く。安心したためか、その表情は若干穏やかだ。

「え……?」

 対して美也は、何が起こったのか分からないという感じにそう漏らす。狼はそっと彼女から離れると、体の向きを百八十度変えて、

「現れていきなり何しやがるこの野郎」

 既に晴れた煙の向こうに立つ、白い仮面を被った男に対して、そう言い放ったのだった。

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