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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
111/132

三色同刻


 ……その頃、狼たちはどうしているのかと言えばだが。


「で、結局どうするんだよ?」

 結局あれから(愛云々を除いて)一つも解決策が見つからず、仕方がないので、商店街の見回りをしている狼、優、闇代、一片の四人。その中にて、狼は焦りすぎて最早呆れていると言わんばかりに、優に尋ねた。それに対して優は、険しい表情でそれに答えた。

「とりあえず、今はこうやって、ここいらをうろうろするしかないですね。もし運がよければ、また彼らに会えるでしょうし」

「その『彼ら』というのは、俺たちのことか?」

「「「「!?」」」」

 突如聞こえてきた声に、四人は一斉に振り返った。

「だとしたら、本当に運がいいな、お前ら」

 彼らの後方にいたのは、燻し銀の髪と紺色の瞳を持つ少年、エンディングだった。毎度毎度、唐突な登場をしてくるものだな、まったく……。

「といっても、よく考えたら大切なことは何も言ってなかったことに気づいたから、こっちも探してたんだけどね」

「「「「!?」」」」

 更に振り返ると、今度はポニテの少女、神宮寺舞がいた。……ってか、何でこうも毎回、相方の反対方向から現れるんだろうか?

「とりあえず、出現場所だけでも伝えておく必要があるな」

「てか、そうしないと協力なんてしてもらえないでしょ?」

 相変わらず、話し相手を挟んで喋る『聖剣使い』の二人。優たちが首を痛めなければいいが。

「まあとりあえず、俺たちについてくるといい」

「時間まで大分あるし、適当にお喋りしながらいきましょう」

 そんな流れで、四人パーティーは六人パーティーになりましたとさ。



  ◇


 ……正午を少し過ぎた頃、日本上空にて。


「ほう、ここが日本という国か」

 『原始の聖剣使い』が、そう呟いた―――気がした。というのも、その背中にしがみつく郁葉には、吹き荒れる風に掻き消されて、彼の言葉がまったく聞き取れないのだ。まあ、ここは高度数千メートルな上に、彼らはかなりの速度で移動しているのだから、寧ろその環境で生きている時点で凄いだろう。

「少々遠かった上に連れがいて、大分遅くなってしまったな」

 とはいえ、旅客機に比べればよっぽど早いが。僅か半日で、地球を半周近くしてるし。

「さてと、今から降りるぞ」

 一応、背負っている郁葉も気遣うが、風の音が邪魔で、絶対に聞こえていない。しかしそれには気づかず、そのまま下にある島―――日本列島へ突っ込んでいく。そう、まるで獲物を捕らえる時、川に飛び込むカワセミのように。

 そうすれば当然、体にかなりの風圧が掛かる。『原始の聖剣使い』本人は当然として、その背に掴まる郁葉にも、想像を絶する量の風が襲い掛かってきた。

「ぐおぉっ……!」

 そこら辺のテーマパークでは味わえない絶叫マシーン(安全装置なし)を嫌というほど堪能しながら、郁葉は『原始の聖剣使い』と共に、衝撃的な帰国を果たすのだった。



 ……その頃、その下にある町では。


「伯父さん……どこ?」

 美也は、伯父の姿を求めて町中を彷徨い歩いていた。当てもなく、ただ商店街の外周をうろついている。

「伯父さん……」

 着の身着のまま、暗い表情で歩き回る彼女に、道行く人々が次々と振り返る。しかし、何事かと思いながらも、結局そのまま通り過ぎてしまう。やはり冷たい日本人なのか、それとも美也が、とても近寄り難い雰囲気を放っているからか。多分後者だろう。

 やがて美也は、商店街の端にある喫茶店の手前まで辿り着いた。……確かここは、彼女の伯父がいる場所だったはずだが。

「……ここ、かな?」

 ……恐るべし、女の勘。ぴったり正解です。賞金あげたいくらい。

 という訳で、美也がセンス・オブ・フィメイル(つまり女の勘)を活用して入店を決めたのだが―――

「……何、この音?」

 突如、上空から微かな重低音が響いてきた。それは徐々に大きくなっていき、それに連れて、辺りの風が段々と強くなってきた。

「あ、あれ……!」

 ふと空を見上げれば、まだ昼間にも関わらず、そこには一筋の星が輝いていた。かと思えば、それは次第に明るさを、大きさを増していく。それが月くらいになる頃には、大きな轟音を伴って、更には強烈な暴風を纏って、地上に近づいてきていた。

「きゃっ……!」

 まるで流星のような輝きは、比喩ではなく、今にもここに落下してきそうだった。それが描く軌跡から、推測される落下地点は恐らく―――美也の左側にある、広い交差点。

「……!」

 それに彼女が気づいたときにはもう、それは彼女の頭上にまで迫っていて。

 次の瞬間には、地面に突っ込んでいて。

 隕石でも落ちてきたかのような衝撃に、壮絶な爆風が辺りに、美也の体に吹き付ける。さすがに彼女も数メートルほど後退させられたが、体勢を崩さなかったのは、咄嗟に発動した自身の能力が故か。

 しかしその爆発は、他の全てを、通行人や周囲の建物を飲み込み、外へ外へと押しやっていく。地面はひび割れ、蜘蛛の巣のように亀裂が走り、地盤沈下でも起こったかのように窪んでいった。

「な、何なの……!?」

 驚きと戸惑いに顔を上げれば、衝突のときに舞ったと思われる砂塵の向こうに、蹲っている人影が見えた。それはむくりと起き上がると、彼女のほうへ振り返り、徐に手を伸ばしてきた。

「ひぃっ……!」

 その動きに不吉な何かを感じ、美也は反射的に飛び退いて、その手から逃れようとする。

「……ほぅ、日本人とやらは意外に優秀らしいな」

 すると砂煙の向こうから、そんな声が聞こえてきた。その直後、またも風が吹いた。とはいえ、今度はそれほど強くなく、未だに宙を舞う砂煙が晴れていくだけだった。

「何せ、我に対して即座に危機感を覚えたようなのだからな」

 煙の向こうから姿を現したのは、巨体の男。金糸の刺繍と煌びやかな宝石があしらわれた絹の衣を身に纏い、緑がかった髪の下から真っ白な仮面を覗かせた、とても奇妙な出で立ちの人物だった。

「とはいえ、我に敵うことなどないだろうが」

 だがその奇天烈な見た目以上に、そこから放たれる気配、威圧感が、美也の心を凍りつかせた。まるで、今ここで息をすることさえ罪であると言われているかのような、重圧ともとれるプレッシャー。彼女は今まさに、その重みに押し潰され、竦みあがって動けなくなってしまったのだ。

「というわけで、死ね」

 手が、再び伸ばされる。さすがの美也も今度ばかりは、その手から逃れることは出来そうになかった。

 直後、真横からの衝撃を受けて、美也の体が数メートルも吹っ飛んだ。

「きゃっ……!」

 地に背を打ちつけ、小さく悲鳴を上げる美也。反射的に体を起こそうとするが、何かが体の上に乗っかっていて、それが出来なかった。

「……ったく、冷や冷やさせやがって」

 その何かが、突然そんな、溜息ともとれる声を漏らした。

「え……?」

 美也は一瞬、自分の耳を疑った。何故ならその声は、絶対に間違えることなどない、しかしこの場にいるわけがない、想い人のものなのだから。

 その重みと温もりが、そっと離れていく。その代わりに、彼女の視界に飛び込んできたのは―――

「現れていきなり何しやがるこの野郎」

 まるで美也を庇うように、巨体の男との間に立つ、彼女の後輩―――向坂狼の後ろ姿であった。

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