運命。即ちご都合主義
※今回は文章量の割りにページが多いので、一度に読もうとすると疲れるかもしれません。
ここは夜中の公園。今は誰もいない。いや、まったくいない訳ではない。人の目には『視えない』何者か達が、公園の中央でたむろしている。いや、たむろとは少し違う。何かに引き寄せられている。その何かは、円形の幾何学模様の中心に置かれた、石像だ。俗にお地蔵さんと呼ばれるものであろう。
「……想像以上ダナ。この石像に、もといお地蔵さんに霊を呼び寄せる力があったとは」
その声に『視えざる』者達が、声の主の言葉を借りれば霊が、振り返る。少年が公園に入ってくるところだった。少年の左手には短めの鞘が、右手には小型の拳銃が、それぞれ握られている。
「さてと。早速ダガ、消えてもらうぞ」
少年は霊達に銃を向けると、引き金を引いた。音もなく放たれた凶弾が、霊の一人を貫く。霊は呻き、苦しみ、そして消えていった。……その魂が蘇ることは、二度とないだろう。
それを見た、他の霊達が血相を変えて逃げ出そうとする。だが、続けて放たれた銃弾によって、次々と撃ち抜かれてしまった。
「全部で十二体か。まあまあダナ」
少年は消え行く霊達を見届けると、石像を拾った。
「そろそろ、出てきたらどうダ?」
少年が、ぽつりと呟いた。それに応えるように、少年の背後の茂みから、小さな少女が姿を現した。金糸のような長い髪をツインテールにして結わえた彼女は、小柄な体躯と幼さが残る顔立ちから、少年より少し若いくらい(中一か中二くらいだろうか?)に見える。
「見つけたよ」
その口から聞こえる声はとても愛らしく、しかし状況のせいか張り詰めていた。
「だったら何ダ? さっきの霊の敵討ちか?」
少年が聞き返す。しかし少女は首を横に振った。
「別に。今のは悪霊だったし、あのままだと人的被害も出てた筈だから」
「なら、何ダ?」
「理由はないよ。でも、わたし達は必ず戦う運命にあるから」
繰り返される問いに答えるように、少女は構えた。重心は低めに、両手は力を抜いて垂れさせ、目は真っ直ぐ少年に向けて。
「それもそうダナ。理由なんて、些細なことダ」
少年も構えた。こちらは重心を高めに、視線を少女に固定して。
戦いの火蓋は、切って落とされた。
……日付が変わって次の日。
「お前ら、また来るのかよ……」
狼は頭を押さえながら呟いた。今は下校中。帰る方向が同じの狼、氷室、縄文寺が共に歩いている。
「当たり前じゃん」
「ご飯美味しいし」
「結局それか」
どうやら、夕食を頂く腹積もりらしい。まあ、前に来たとき、うまい飯をご馳走してもらったからだろう。
「俺だってな、帰ったら店を手伝わなきゃいけないんだぞ」
「いいじゃん。毎日あのご飯が食べれるんだし」
「遅いときは深夜までだぞ」
「夜遅くまで起きてていいんだ」
「どこまで前向きなんだよ……」
何を言っても無駄だと悟った狼。溜息混じりにぼやいている。
「ったく、どうなっても……、ん?」
しかし突然、狼は急に立ち止まった。
「のわぁ!」
「痛っ!」
そしてその背中に氷室がぶつかり、更にその背中に縄文寺がぶつかった。通行の邪魔にならないよう、縦に並んでいたのが仇となったらしい。
「いてて……、いきなり立ち止まるなよ……」
「何があったのさ……?」
「人が倒れてる」
ぽつりと呟く狼の指先に、黒い物体が、否黒い布に覆われた人が倒れていた。布から覗いている顔は少女のものだ。金髪の少女。歳は、狼より少し下くらいだろうか。……これは、昨日の少女か?
「死んでなきゃいいな」
「縁起でもないこと言うなよ」
「生きてて欲しいと思ったら駄目かよ」
言いながら、狼は少女を抱きかかえ、再び歩き出した。
「とりあえず、家に連れてくか」
◇
……狼たちは、居酒屋『虹化粧』の住居部分、その居間にいた。畳の上に布団が敷かれ、先ほどの少女が横たわっている。
「外傷はありません。明日には目を覚ますでしょう」
ここの家主である優が、救急箱を閉じながらそう言った。たった今まで、少女の介抱をしていたのだ。
「それにしても、何で道端で寝てたんだ?」
「いや、倒れてたんだと思うんだけど」
「どっちでも一緒だ」
まあ、確かにな。すると、救急箱を片付けた優は、狼たちにこう切り出した。
「それでなんですが。この様子だと暫く起きないでしょうから、目を覚ますまで私が見ておきます」
「頼む」
「頼まれました。それはそうと皆さん、お夕飯食べていきます?」
住居部分の台所(店ではなく、私生活用)には既に、人数分の食事が用意してあった。予め用意してあったのだろうか?
「勿論」
「喜んで」
「結局それか」
やれやれといった感じで溜息を吐く狼。まあ、諦めたほうがいいだろう。




