こっちはコンタクトレンズ(レンズいらない)
「……狼、ちゃんと魔術が使えてるみたいですね。獣人化なしでも、闇代ちゃんと互角に戦えてますし」
狼と闇代の戦いを見ていた優は、そんな感想を抱いていた。まあ、狼はつい最近まで一般人だったのだから、ちゃんと戦えるかと不安に思うのも無理はない。
「闇代ちゃんも相変わらず強いですし、このまま行けば何とかなるかもしれません」
「それはどうかな?」
「!?」
背後から何の前触れもなく聞こえてきた声に、優は飛び退くようにして振り返った。
「俺から見れば、あれはまだまだ未熟だ。例えるなら、母鳥から産まれる前の卵のようだな」
そこにいたのは、燻し銀の髪と黒っぽい紺色の瞳を持つ少年。まるで最初からそこにいたかのように、違和感なく突っ立っていた。
「……誰ですか、あなた?」
「そうよ、ちゃんと自己紹介くらいはしないと」
「!?」
またしても、後ろから声が。振り返れば、そこにいたのはポニテの少女。……ってかこいつら、何故揃いも揃って真後ろから登場するんだ? さっきもそうだったよな?
「俺の名前はエンディング。『聖剣使い』だ」
「!」
少年の口から漏れたその単語に、優は驚くように目を見開いた。そして少女も、同じように続ける。
「私は神宮寺舞。同じく『聖剣使い』よ」
「……今日はどうやら、驚きの大安売り市でも開催されているみたいです」
あまりに驚きすぎて、最早皮肉しか出てこない様子の優。しかし、この『聖剣使い』二人は気にした風もなく続けた。
「とりあえず、お前はこの町に住む魔女、であってるか?」
「ええ。それから、あの子達は私の弟子、とでも思ってください」
「なるほど。しかし、その割にはしょぼいな、お前の弟子とやらは」
自分の子供たち(闇代も優にとっては我が子同然)が貶されて、何か言い返してやりたい優だったが、彼の言葉は尤もなので、口を噤むしかなかった。
「ほんと、あんなんで大丈夫かしら? 『あれ』はそんなに弱くないと思うけど」
「『あれ』、ですか……?」
優には、彼らの言う『あれ』が何なのか、大方の予想がついていた。何せ、先程聞いたばかりの『聖剣使い』が、突然目の前に現れたのだ。そのとき知った情報と結び付けないほうがおかしい。
「ほう、どうやら心当たりがあるらしい。さすがは魔女、と言ったところか」
エンディングは、優の様子から、何らかの事情は知っていると察してくれたみたいだ。そのためか、特に前置きもなく、『あれ』の名を口にした。
「『あれ』とは、『原始の聖剣使い』だ」
「『原始の聖剣使い』……」
それが何なのかは分からないが、ただでさえ御伽噺級の『聖剣使い』の中でも、更に特別な存在だと思われる。
「奴は、数ある『聖剣使い』の中でも特に古い。それこそ、『原始』の頃から生きているだろうな。最早誰も名を知らぬからか、俺たちの間ではそう呼ばれている」
「因みに、私でまだ百年足らずだけど、『あれ』は多分数千年生きてるわ」
てか今、さらっと驚愕の実年齢を晒しませんでしたか……?
「当時、俺たちの同胞が封印したらしくてな。それで未だに生き永らえているようだ」
「ともかく、面倒な相手なのは確かよ。『聖剣使い』の中でも、かなりの手練れらしいから」
「……とりあえず、私を挟んで喋るのは止めてください」
うん、それは思った。けれども、二人はそれを気に留める様子もなく、そのまま続けた。
「奴の『聖剣』は、俺のものと同じ収集型。つまり、多数の攻撃手段を備えている。対策が取り難いのが厄介だ」
「私の『聖剣』は単なる剣だから、そういう手合いには向かないし……。実質エンディングとあんたの保有戦力でどうにかするしかないわ」
好き勝手に、しかも聞きなれない単語を平気で遣って喋る自称『聖剣使い』。てか、ほんと人の話をまったく聞かないな。
「まあ、奴が現れるのは明日の昼頃だ。それまでは精々、準備でもしていればいい」
「そういうことだから、じゃあね」
そう言い残して、少年と少女はどこかへ去っていった。
「……嵐みたいな人たちですね」
結局、何がしたかったのか分からなかったが、それでも優は、いくつかの手掛かりを掴むことができた。
「現れるのは明日の昼、多数の攻撃手段、そしてかなりの手練れ……これは、大分困ったことになりましたね」
どうやら、懸念していたことが、実際に起きてしまうらしい。それも、明日の昼頃。急にも程がある。
「とにかく、可能な限り手を打たなければ……」
さて、どうしたものか。