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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
105/132

最早決闘はお約束


 ……その頃、帰宅した狼たちはといえば。


「どうなってんだよ……?」

 最早お馴染みとなった空き地にて、狼は闇代と対峙していた。これは、俗にいう決闘だ。

「いっくよー!」

 闇代は霊刀を構えて、笑顔で呼びかけている。っていうか、ちゃんと使えるんだ、霊刀。前に『もう使えないかも』的なこと言ってたけど、問題ないらしい。

「ああもう、好きにしてくれ」

 狼は投げやりに答えると、その手に武器を携えた。小型の鎌を象った、『刈り取る命』サイズだ。

 何故こうなっているのかというと、狼たちが帰宅した時に、優が突然こう言い出したからだ。『今から特訓です』と。そしてその優は、空き地の入り口で二人を見守っている。

「ふふっ」

 闇代は嬉々としながら、二本の霊刀を鞘から抜き放つ。一対の日本刀が宙に浮いて、彼女の両脇までやって来た。

「そういえば、この子を狼君にちゃんと見せるのって、初めてだよね?」

「は?」

 そして闇代は、手元に残った鞘の片方を、もう一方の鯉口に、小尻のほうから入れていく。そして、もう一本ある霊刀の名前を呼んだ。

「御鎖那」

 その鞘が、先のほうから白い光を放ち、その光がやがて鞘全体を覆うと、それは一本の刀となっていた。闇代は銀色の刃を輝かせる霊刀―――御鎖那を順手に持ち替え、その鋭い刃先を狼に向けた。

「これが狼君を助けた、わたしの新しい霊刀だよ」

「なるほど。こいつに助けられたわけか、俺は」

 向こうは飛行型霊刀二本+一本。それと霊術によって強化された体術。対して狼は小型の武器五つと不完全な獣人化、そして習いたての魔術。これだけでは何ともいえないが、パワーで言えば闇代が圧倒的に有利だ。さて、狼は一体どう戦うのか。

「それじゃあ、行くね」

 そう言い終えるや否や、闇代の姿が掻き消える。そして次の瞬間には、狼の眼前にまで迫っていた。

「……っ!」

 狼は咄嗟に後方へ飛び退く。それに一歩遅れて、彼の頬を闇代の霊刀が掠める。

(おいこれ、避けてなかったら切られてたぞ……!)

 狼はぞっとしながらも、更に後ろへジャンプ。数瞬後、その前方に二本の刀が飛び込んでくる。これも、躱していなければ直撃のルートである。

 それで終わりかと思えば、闇代は続けざまに駆け出して、狼に向けて霊刀を振り翳す。狼はそれを、両手で挟んで止める。所謂白刃取りだ。

「……っ! えげつないにも程があるだろ……」

 刃を受け止めながら、狼がそんな言葉を漏らす。

「だって狼君、前より明らかに強いもん……!」

 対する闇代は、口を動かすのが精一杯という感じで答えている。その台詞は、彼を信頼しているが故に出たのだろうか。

 そんな暫しの硬直も、ほんの数秒しか続かなかった。

 狼の両脇から二つの霊刀が飛来。狼は刀から手を離し、バックステップで攻撃を回避すると、手元の武器を闇代に向けて放った。

「くっ……」

 無論、それを避けるのは闇代にとって容易い。だが、白刃取りを解かれたことによって、狼に切りかかろうとしていた彼女は前のめりになっていた。故に、体勢の崩れた状態でこの攻撃を躱さなければならない。

 闇代は体を左に捻って武器を躱し、体を起こそうと地面に右手を突いた。その一瞬で、狼は次の手を放った。

「アレグロ……!」

 彼の右袖から飛び出した矢尻―――『疾風の雷花』アレグロが、闇代の体を支える右腕に絡みついた。……これで闇代は、間合いが自由に取りにくくなった。

 闇代は体を起こすと、乱れた息を整えながら話しかけてくる。

「……んもぅ、そういうプレイが好きなら、言ってくれればいいのに」

「言ってろ」

 狼は呟きながら、更に二つの武器を用意する。照る照る坊主型の鈍器―――『砕ける旋律』ブレイクと、三角錐の形をした金属塊―――『貫く頭蓋』ランスだ。

「でも、それならこっちも、手加減できないかも。―――激しく、するね」

 闇代は起き上がると、手に持つ霊刀―――御鎖那を、狼に向けて突きつけた。

「破撃決殺!」

 彼女の掛け声に呼応するように、刃先から不可視の刃が放たれて、狼に襲い掛かる。しかし狼は焦ることもなく、構えていた武器を二つとも放った。

「マインド―――」

 その片方は姿なき刃と擦れ違い、闇代の少し手前にある地面に向かって落ちていく。もう片方は狼の前で盾のように静止して、透明な斬撃から、彼を守ろうとする。

「―――ウェイヴ!」

 盾となった武器―――『貫く頭蓋』ランスは、僅かに発光して、攻撃を防いだことをアピールしている。それと同時にもう一つ―――『砕ける旋律』ブレイクが、地面に勢いよく叩きつけられた。

「……っ!?」

 たったそれだけの動作にも拘らず、まるでトラックに突撃されたかのように吹き飛ぶ闇代。突然の衝撃に驚く間もなく、背後から別の気配がやって来る。

「ウィンド―――」

 それは、先程闇代が躱した武器、『刈り取る命』サイズだった。放った後回収されていなかったそれは、闇代の真後ろで静かに浮遊し、吹っ飛んでくる彼女に向かって、留めの魔術を打ち込まんとしていた。

「―――サイズ!」

 叫び声と共に、サイズの刃から幾多もの風が放たれる。一片が使う風の斬撃に似た空気の刃が、闇代の背中に吸い込まれて、彼女の背を切りつけた。

「きゃっ……!」

 霊術で身を守っていたからか、狼が手加減したのか、闇代が負傷した様子はない。だが、相当のダメージを負ったようで、苦痛に表情を歪ませながら地面を転がる。

「うぅ……」

 そして、最早彼女には、立ち上がる気力すら残されていなかった。

「これで、俺の勝ちだな?」

 狼は勝ち誇ることもなく、使った武器を回収しながらそう言った。―――今回の決闘は、彼の勝利で終わった。

「負けたぁ~……」

 闇代は、今にも泣き出しそうな声を上げて、狼の手を借り、ゆっくりと起き上がった。

「ちとやりすぎた気もしたが……大丈夫そうだな」

「大丈夫じゃな~い……」

 まあ、見るからにボロボロだし。本人が言うように、実際は大丈夫ではないのだろう。

「ていうかさっきの、もしかして魔術……?」

「ん? ああ、『マインド・ウェイヴ』か? あれは何かを叩いたときに、脳を揺さぶる衝撃波を放つ魔術だよ。衝撃波って言っても、物質波や霊質波じゃないから、食らってもあんまり分からんと思うけど」

 脳に直接ダメージを与える魔術、というのは中々に恐ろしい……。

「あれが決まると、体が反射的に吹っ飛ぶんだよな、何でか知らんけど。それに他の行動取れなくなるから、その隙に背後からの一撃で仕留める、って作戦が組める。うまく使うと結構強いんだよな、これ」

「っていうか、そんなの気軽に使わないでよ。もしもわたしが馬鹿になっちゃったらどうするの?」

「安心しろ。お前は既に馬鹿だ」

「馬鹿って言わないで!」

 いやまあ、普通は怒るって、そんなこと言われたら。

「ってのは冗談としても、問題ないから安心しろ」

「何でそんなこと分かるの?」

「一片に試したから」

「試したのっ!?」

 一片を実験台にしていたのか……。

「一発くらいだと軽い脳震盪程度のダメージだから大したことないみたいだぜ。尤も、あいつは食らい過ぎて、数日寝込んだけど」

「そんなにっ!?」

 だから最近姿が見えないのか、あの子。脳震盪を起こすのが嫌だから、狼から距離を取っているみたいだ。……ってか、仲間を実験台にするなよ。

「……狼君。その技、暫く使用禁止ね」

「何でだ?」

 ことの重大さを今一理解していない狼であった。

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