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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
104/132

幼児退行


  ◇


 ……あれから数分ほどで、私は家に辿り着いた。『家』と言っても、ここは両親の暮らす実家ではなく、伯父さんと暮らしているアパートだ。ここの二階に、伯父さんと住む部屋がある。

 階段を上って二階まで行くと、部屋の前に辿り着く。いつもは鍵を使って入るけど、今日は既に開いていた。多分、伯父さんが帰っているのだろう。

「……ただいま」

「おかえり」

 部屋に入ると、奥のほうから伯父さんの声がした。やっぱり、先に帰ってたみたい。

 私はゆっくりとした足取りで、伯父さんの元へ向かう。廊下の扉を開けてリビングに入ると、伯父さんがソファーに座っていた。伯父さんは私に気づいて振り返ると、少し戸惑ったような声を上げた。

「どうしたの……? 何かあった……?」

 どうやら伯父さんは、私の様子がおかしいことに、一目で気づいたらしい。

「伯父さん……」

 そんな伯父さんの反応に、私は、心の奥から溢れてくる何かを抑え切れなくなっていた。

「ぅ……」

 それが、悲しみなのか、恐怖なのか、安堵なのか、喜びなのか、それは分からない。けど、確かに『それ』が溢れ出て、私の感情を暴れさせる。

「うぇぇーーん……!」

「み、美也……!?」

 だから私は、思わず伯父さんに抱きついていた。そしてそのまま、伯父さんの胸に顔を埋めて、子供みたいに泣きじゃくる。気力が尽き果てるまで、わんわん泣き続けたのだった。



  ◇



「落ち着いた?」

「……うん」

 数分ほど経って、私はようやく泣き止んだ。泣き過ぎて、瞼が少し腫れている。

「一体、どうしたんだい? 突然泣き出したりして」

 伯父さんの、心配そうな声が、私の心を揺さぶった。―――けど、伯父さんに話すわけにはいかない。だって、あの人たちは明らかに普通じゃなかった。多分、私と『同じ側』に住んでいる人たち。つまり、『人間じゃない』人たちなんだ。なまじゲーム脳で非常識なことを信じやすい伯父さんには、あまり関わらせたくない。

「ううん、大丈夫。ちょっと帰りに転んで、それで泣いちゃっただけ」

 実際、あの人たちに何かをされたわけじゃない。スマートフォンもストラップも返してもらったし、転んだのも自分だ。だけど伯父さんはまだ心配なのか、納得してくれそうになかった。

「本当に? 暴漢に襲われたとかじゃなくて?」

「当たり前だよ。私がどれだけ強いか、伯父さん、よく分かってるでしょ?」

「……うん、そうだね」

 私には、この化け物じみた力がある。だから、伯父さんはそれを引き合いに出せば、嫌でも納得してくれるはずだ。……伯父さんに嘘を吐くのは心苦しいけど、これも伯父さんのためだと自分に言い聞かせて、どうにか平然を装う。

「じゃあ、私、着替えてくるね」

「う、うん……」

 私は伯父さんから離れて、リビングの隣にある和室(私の自室)へ入る。襖を閉めると、途端に不安が込み上げてきた。

「……しっかりしないと、私」

 小さく呟いて、私は、着替えを取り出すために押入れを開けた。



「……美也、大丈夫かな?」

 その頃、美也の伯父は、彼女のことを案じていた。帰ってきたと思ったら突然泣きついてきたのだから、心配するなと言うほうが無茶だ。

「やっぱり、明日にするべきじゃなかったかな……?」

 本来ならこれからそれについて話す予定だったが、美也があの状態ではそれも躊躇われる。

「……うん。やっぱり、美也は今回、家にいてもらおう」

 伯父はそう結論付けると、予定の変更をメールで知らせた。相手は勿論、美也の両親だ。

「よし、それじゃあご飯の用意でもするかな」

 そして、美也のために夕食の支度をするのだった。

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