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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
102/132

SHIT!


 ……その頃、日本では。


「ねえ、今更で悪いんだけど……何で日本に来たの? 奴ら、今は日本にいないんでしょ?」

 そう問いかけるのは、艶やかで長い黒髪を後ろで縛ってポニーテールにした少女。古ぼけたセーラー服を身に纏い、そこから覗く左手の薬指には、外周にダイヤモンドが途切れることなく嵌め込まれた指輪―――エタニティリングがつけられていた。他に持ち物らしきものはないので、正しく着の身着のままと言ったところだろうか。

「今回は完全に後手に回ったからな。今から行っても遅いだろうから、奴らの行きそうな場所へ先回りするしかない。まあ、具体的な位置まで分かってるから、そのほうがいいだろうて」

 それに答えるのは、燻し銀の髪を生やした少年。黒に近い紺の瞳を気怠そうに開いた彼は、ボロ布のような服を着て、右手の人差し指と中指で、一枚のカードを挟んでいる。そのカードには、剣の絵が描かれている。こちらも、他に何かを持っている様子はない。

 因みに、彼らがいるのはとある空港のバスターミナル。人の多い場所ながら、これほどまでに異様な格好の彼らを、行きかう人々は気にも留めない。まるで、その目に映ってすらいないかのように。

「幸い、その場所には魔女もいるらしい。『最強』に対抗しうる戦力だからな。協力を仰ぐのが一番のはずだ」

「ふーん。その魔女、ほんとに戦えるの?」

「さあ、案外平和ボケしてるかもな」

 そんな話をしながら、彼らはバスを待ち続けたのだった。



  ◇



 ……はてさて、狼たちはもう放課後だろうか。


「狼くーん! 一緒に帰ろっ」

 狼の教室に、鞄を持った美也がやって来る。

「断る」

 しかしそれを、狼は一蹴してしまう。

「が、がーん……! うぅ、ロリコン魂全開の狼君は、ないすばでぃなお姉さんとは同じ空気も吸いたくないんだね……」

「それは否定するのが面倒なくらい違うと言ってるし、そもそも自分の体格を自分で褒めてもあほらしいだけだぞ」

 まあ、否定はしないけど。それでも平均の少し上くらいだけどな。ボン、キュッ、ボン、には程遠い。

「さ、狼君、一緒に帰ろ」

 そうこうしている間に、闇代が帰り支度を済ませて、狼の隣にやって来た。

「ああ」

 闇代と狼は同居しているので、帰り道が同じだ。故に、この流れはとても自然である。しかし、美也はそんなことなど知らないので(まあ、あまり関係ないが)、大袈裟ではなく本気で驚いた。

「えぇっ! 狼君は、私と一緒に帰ってくれないの!? 少し前までは一緒に帰ってくれたのに……やっぱりロリ一筋なんだね」

「とか言って、結局ついて来るんだろ?」

「うん」

 おいおい……。

 てな感じで、狼、闇代、美也の三人が揃って帰宅することとなった。



  ◇


「え、闇代ちゃん、狼君と同棲してるの……?」

「うん」

 今し方、闇代が狼と一緒に暮らしていると打ち明けたところだ。これにはさすがに、美也も頬を引き攣らせている。

「同棲じゃなくて同居な。こいつの実家が遠いから、うちに下宿してるだけだ」

 透かさず狼が訂正する。そうしておかないと、また変な妄想をし兼ねないからな。

「じゃあ、夜になると―――(自主規制)―――とか、するの……?」

「とりあえず、発言内容を何とかしてくれ……」

 何ともなりません。諦めてください。何せ、ポストを赤から虹色に変えるほうが簡単なくらいだ。

「冗談だってば~。狼君、中学時代に私が何言っても全然なびかなかったし。いくらロリに目覚めても、そんなに節操なしじゃないよねぇ~」

 全く以ってその通り。さすが、よく分かっていらっしゃる。

「ったく。あんたはほんと、ふざけてるのかどうかが分かりにくいからな」

「え? 私は常時真剣だよ?」

「……ついでに、嘘を吐いてるのかどうかもな」

 そりゃまあ、散々茶化した挙句、全部『冗談』の一言で誤魔化された上でのその発言では、そう言いたくなるのも無理ない。

「大丈夫。私が狼君大好きなのは本当だから♪」

「止めてくれ。頭痛がする……」

 日々闇代の(時々優の)愛情表現に悩まされているためか、最早彼は、好意に対して拒否反応まで出るようになったらしい。好意や愛情も、度が過ぎれば毒となるのだろうか。

「ぶぅ~。狼君、美也さんと話してばっかり……」

 闇代が、頬を膨らませながら呟いた。やきもちだろうか? まあ確かに、彼女にとっては面白くないだろうが。このくらいは大目に見ようよ。

「お前とはほぼ常時話してるだろ」

「それでもやっぱり嫉妬しちゃうの」

 繊細な乙女の気持ちなんだから、察してあげなさいよ、狼君も。

 すると、美也のポケットに入ってる携帯電話が震えだした。

「っと、メールだ」

 着信に気づいた美也は、右手を制服のポケットに突っ込むと、黒光りするスマートフォンを取り出した。それと同時に、取り付けられた弧状のストラップが、鈍い金色の光を放ちながら揺れる。

「そのストラップ、まだ付けてるのか」

「あ、うん。っていうか、覚えてたんだ、狼君」

「伯父さんに貰ったって言ったのはあんただろ」

 六年前の誕生日に貰ったプレゼントを、後生大事に身に着けているのだろう。

「ほんと、記憶力いいよね、狼君」

「そうでもないけどな。それより、メールは?」

 おっと、危うく忘れるところだった。美也は画面に目線を戻した。

「えっと……え?」

「どうした?」

 美也の表情が一瞬曇ったが、狼の声に、すぐ元の顔に戻って、首を横に振った。

「ううん、寄り道しないで早く帰って来なさいって」

「そっか。まあ、丁度分かれ道だしな」

 彼らの前方にはT字路があった。右へ行けば『虹化粧』、つまりは狼たちの家が。左へ行けば、美也の自宅。彼らはここで、必然的に別れることとなる。

「うん……じゃあ、またね、狼君。それから闇代ちゃんも」

「ああ」

「狼君は絶対に渡さないからねっ!」

 互いに手を振って、美也は狼たちと別れた。

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