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空に想いを…  作者:
First Story ~Yuki~
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「……海……ごめんね……」



 ――PM六時。


 この時間に食べる食事を、なんと言うだろうか?


 夕飯、ないし、ちょっと早めの夕飯。


 これが、世間一般の認識だろう。



 そう。決して『昼食』の時間ではない。



 しかし、海達近藤一家は、まさしく今、その昼食をとっていた。

 夕食にもなるのは間違いがないので、その量は、いつもより多い。



 そして三人がいるのは、近藤家ではない。


 近藤家ご愛用の、和風レストラン工藤の一席だ。



 このような状況から、説明するまでもないと思うが、雫の料理は盛大に失敗した。


 何度も、何度も食材を炭化させ、火災を起こしかけ。


 輝の必死の説得も聞かず、ただ、愛息子のために料理という名の儀式を繰り返した。



 彼女自身、自分の料理の腕を理解していたため、失敗してもいいように(失敗するのを前提として)食材を大量に買い込んできていた。



 そうして始まった、ある意味不幸の連鎖は、一時間前、これ以上母の手が傷つくことを嫌がった海の「もういいよ、母さん」という一言で、ようやく結末を迎えられたのだ。

 ちなみに、その時に出来上がっていたのは炭化した丸い形の『元』肉だった。


 もっと早く止めればよかった、と思う人もいるだろうが、それは、無理なことだった。


 手料理に憧れる心と、母を止めるべきだという心の二つの葛藤と、海もずっと戦っていたのだから。



 そうして海の一言で終末を迎えた儀式の後処理を輝がし(鍋や器材はもう使い物にならなかったので処分するだけだった)それが落ち着いたので彼ら一家は昼食兼夕食をとるために、工藤へとやって来たのだ。




 料理を注文し、それらが出てくるまで、彼らの間に会話はなかった。


 海と輝は彼女になんと声をかけたらいいかわからなかったし、雫は自己嫌悪へと陥っていたから。


 それは料理が出てきてからも続き。


 そして今、三分の二ほどの料理をたいらげたところで、ようやく彼女はそう、口にした。


 海は慌てて首を横に振る。



「母さん謝らないで!母さんはなにも悪くない。むしろ、俺のために頑張ってくれたんだ。だから、えと……ありがとう。母さん」

「海……!でも……」

「……母さん。親父。お願いがあるんだ」



 雫の言葉を遮り、海は箸を置き背筋を伸ばす。



 人の裏側ばかりを見てきて一般教養がほとんどなかった海に、雫と輝はこの一週間、それを教え続けた。



 挨拶や、目上の人への礼儀。思いやりに我慢。そして、自分の意見を言うこと。


 知識に飢えていた海はそれらを、まるでスポンジが水を吸うかのごとく吸収し、自分のものへとしていき。



 そして今、それは一つの形となり現れようとしていた。



「俺、料理を習いたい」



 海の言葉に、輝と雫は顔を見合わせる。

 そんな彼らがなにかを口にする前に、海は続ける。



「俺、ずっと考えてたんだ。母さんと親父になにか恩が返せないか、って」

「海。僕達は……」

「わかってるよ」



 輝の言葉に、海は笑顔で顔を横に振る。



「親父も母さんも、俺に恩返し(そんなこと)をさせるために引き取ったんじゃないって。ただ、俺がなにかしたいんだ」

「海……」



 名前を呟いた雫に、海は笑顔を向ける。


 それは、到底七歳児が浮かべるような、幼いものではなかった。



「俺はお金もない。働くことも出来ない。だけど、ずっとなにかをしたくて。二人にありがとうを返したくて」



 海は笑顔を雫に向ける。



「そんな時、母さんを傷つけてしまうかもしれないけれど、母さんが料理を出来ないことを知った。今までずっと外食だった理由を知れた。それを知った時、俺、思ったんだ。『ああ、ようやく俺にも出来ることが出来た』って」

「海……」



 傷つき人生を絶望した海。


 人を信じず、常に一人でいた海。


 孤独と辛さを知った海。



 人に癒され、希望を見つけた海。


 人を信じるようになり、家族を得た海。


 人の温もりと幸せを知った海。




 そうやって、様々な経験をし、雫達から様々な教えを得た海は、七歳にして、もう、『大人』へと変わり始めていた。



 雫と輝に笑顔を向け、言う。



「俺、二人に俺が作ったものを食べて欲しいんだ。上手く出来る保証なんてないけど、でも、少しでも『ありがとう』を返したいんだ」

『……』



 輝と雫は顔を見合わせる。


 確かに息子の作る料理を食べてみたいが、だからといって彼の時間を奪いたくない。

 それが二人の正直な感想だった。



 だが、とも思う。


 せっかく海が自分の意見を言ってくれているのだ。それを無下にしてもいいのだろうか、と。



 悩む二人に、真剣な眼差しを向ける海。



 しばらく続くと思われた均衡は、第三者の介入であっさりと覆ることになる。



「料理を習いたいのだったらー、うちで教えましょうかー?」

「――っ!?圭ちゃん!?」



 いつからそこにいたのか、近藤家が食事をしているテーブルのすぐ横。そこに、いつもと変わらないのほほんとした笑顔を浮かべた工藤圭が立っていた。

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