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「さあ海!着いたよ!僕の手を取りたまえ!」
「うるさい。邪魔だからそこをどけ」
この日も海の毒舌は軽快だった。
車の後部席のドアを開け、海に手を差し出した輝をたった一言で撃墜し(ドアのすぐ近くに四つん這いになり、へこんでいる輝を見ると言わなきゃよかったと後悔するが)一人で車から飛び降りる。
――そして息をのんだ。
車から飛び降り、顔をあげた瞬間に飛び込んでくる、朝の光に照らされた見たことのない建造物達。
上下左右に走るジェットコースターのレール。
園内の中央に位置する、大きな観覧車。
天高く伸びる、垂直落下するアトラクションの柱。
絶叫系のアトラクションから聞こえてくる、大きな悲鳴。
駐車場まで聞こえてくる笑い声。
それらを見て、聞いて。
想像を超える現実に、海は目を大きく見開き、口を開けた。
それを見た雫と輝(自力で立ち直った)は顔を見合わせて笑い合う。
雫は海の横にしゃがみ、横から手を伸ばし海の鼻をキュッとつまむ。
馴染みになりつつあったその刺激に、海は意識を戻し雫を見る。
雫は海の鼻から手を離し、アルカイックスマイルを浮かべながら立ち上がり、彼に手を差し出す。
「海。行きましょう。今日は思い切り楽しみましょう」
反対側から、輝も手を出す。
「そうだよ海。今日はとことん遊ぶんだからね!」
笑顔の二人。
嫌みのない、心から自分と一緒に楽しみたいと思っている、そんな笑顔。
海は顔を伏せる。
暖かい気持ちが溢れ、涙が溢れそうになったから。
そんな海から目を離さず、笑顔と手を向け続ける二人。
海は大きく深呼吸を繰り返し自分を落ち着かせてから、二人の手をそっと握る。
輝も雫も、嬉しそうに笑った。
「さあ海!行くぞー!」
「ええ。行きましょう。海」
「……うん」
手を握り、歩き出す輝に雫。
手を引かれ、歩き出す海。
夫妻の顔に浮かぶ笑顔。その眼差しは愛おしい息子に向けられていて。
海はそんな夫妻の視線に一切気づかず、未知の、しかし楽しそうな世界に意識を奪われていた。
雫も輝も、とても嬉しくなった。
海の顔に、笑顔が浮かんでいたから。
「……ところで、海の身長で、全てのアトラクションに乗れるのかしら?」
「…………あ」
ふと思いついた雫の問いに、輝は答えることが出来なかった。
場所だけ選んで、そういう細かいところを調べ忘れたのだ。
「……」
乗れなかったら、海が満足出来なかったらわかっているだろうな、そんな意味を込めた雫の凍てつく視線を受け、輝は自分の命運を天に願った。
「っしゃーーっ!!」
最初のアトラクション乗り場前で、輝がそうガッツポーズしたのは、また別のお話し。




