11
近藤家二階にある輝達の寝室。
壁際に佇むダブルベッドの中央を占拠し、眠る海。
自分の体を抱くようにして、体を丸めて。
その様はまるで外敵から身を守るように見えて。
輝は海の頭を優しく撫でる。
トリートメントまでしっかりとされた髪は、とても柔らかく、指の間を綺麗な黒髪が流れる。
「ん……」
頭を撫でられ海は小さく声を漏らすが、目を覚ますことはなかった。
「よく寝ているみたいだね」
「ええ。きっと疲れたのよ」
輝に同意し、頷く雫。
疲れた理由、入浴時のことを思い出して、彼女は小さく笑った。
雫達の想像通り、一緒に入浴することを告げたら海はとても抵抗した。
騒いで暴れて。
けど、それでも別々に入るようなことはしたくなかったので、雫が輝に言い、海を抱き上げて無理矢理浴室まで連れて行ったのだ。
海の抵抗は浴室に入ってからも続いて。
だが雫と輝には切り札があった。
海の身長では、浴槽に座って入ることが出来ない。
そのため、輝が海を抱き一緒に浴槽に入ると海は怯え、おとなしくなったのだ。
ちょっと卑怯だったかな、と雫は思うが、そうしないと一緒に入れなかったのだから仕方ない。彼女はそう結論づけていた。
そうやって一緒に風呂に入り、一緒に頭と体を洗い。
買ってきた下着とパジャマを着せて、歯を磨いて。
そうやって三人で手を繋いで寝室まで一緒に行くころには、すでに海はとても眠そうで。
そんな海だが、雫達の寝室にあるダブルベッドを見て目をむいていた。
ここまで大きいベッドを、彼は見たことがなかったのだ。
一緒に寝ることを告げるとまた暴れるかな、などと雫が考えているうちに輝が海を抱いてベッドに横にさせ。
ベッドの柔らかさに驚いていた海だったが、暴れ疲れていたせいもあり、すぐに夢の世界へと落ちていった。
海の頭を撫でながら、輝は言う。
「こうして眠っているのに、まだどこか警戒しているね……」
「……院長先生のお話しだと、眠っているこの子に触ろうとするとすぐに目を覚ますらしいわ。今は疲れてよく眠っているけど、きっとそういう能力を身につけないといけないくらい、過酷な環境に置かれていたのよ……」
「……悲しいね」
そう言った輝の顔は本当に悲しそうで。
そんな夫の姿に雫は微笑み、海の頭を撫でている輝の手に自分の手を重ねた。
顔をあげた輝の目を見ながら、雫は言う。
「心に傷を負わせる人もいれば、その傷を癒す人もいるわ。だから、海が今まで負った傷を癒せるくらい、私達が愛せばいいの。そうやってこの子に安心して自由に生きれる毎日をあげればいいの。時間はかかるだろうけど、大丈夫。だって、もうすでにこの子は家族なんですから」
「……そうだね」
輝は優しい笑顔を浮かべ、もう一度海の頭を撫でる。
「この子が毎日楽しく、笑ってすごせるような、そんな家族になっていこう」
「ええ。そうね」
わが子を見やり微笑む夫妻。彼らの瞳は優しさで満ち溢れていた。