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運命の人と幸せな記憶  作者: 霜月聖


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1/1

いつも通りの朝

運命なんて信じてなかった。

君に出会うまでは。

ずっと君を想ってた。君の隣にいることが生きる意味とさえ思った。

永遠に愛してる。


__________


いつも通りの朝、朝食を用意しコーヒーを淹れる。

頭に寝癖を付けてあくびをしながら起きてきたあなたに「おはよう」と声をかける。

目玉焼きを載せたトーストを食べるあなたを見ながらお弁当を包んだ。

「行ってらっしゃい」と声をかけ、カバンを渡す。

代り映えのない毎日。


私、渋谷 美咲はこんな日々に飽き飽きしていた。

夫の幸太郎とは付き合って8年、結婚して3年になる。

付き合った当初は記念日の旅行のプランを一緒に考えたり、不器用ながら誕生日にサプライズをしてくれたりと楽しい日々を過ごしていた。

しかし、月日が経つにつれて記念日や誕生日は少し贅沢をして良い日程度のものになってしまった。

大きな不満はないがどうしても物足りなさを感じてしまう。


「美咲、それは贅沢すぎ。」


親友である三浦 彩芽と久しぶりに会い、この事を相談するとそう一刀両断されてしまった。


「でもさ、彩芽。この人と一生一緒にいたいと思って結婚したんだしいつまでも仲良くしたいって思うのは普通じゃない?」

「それが贅沢だって。世の中浮気やら嫁姑問題やらで離婚する夫婦も少なくないじゃん。その点、幸太郎さんは誠実だし専業主婦してる美咲に甘えすぎずに家事もしてくれる。実家も遠方で義母ともほとんど会わなんでしょ?別に仲が悪いわけじゃないんだしこれ以上求めるのは酷でしょ。」


そう言われてしまうと確かに自分が求めすぎなような気もする。

しかし、恋人時代の幸せな日々を経験しているからこそ現状と比較してしまうのだ。


「そんな不満ばっかり言って、、、。

ほんと美咲は昔から夢見がちだよね。お姫様扱いされてないと嫌だなんてばかみたい。」

「そんな言い方っ、、!」


でも、だって、と言い訳を探していると彩芽が苛立ったようにため息交じりにそうつぶやいた。

さすがにカチンときて言い返そうとするが、思った以上に強く睨まれ言葉に詰まる。


「私だって暇じゃないの。愚痴にかこつけた幸せ自慢ならよそでやって。」


そう吐き捨てて彩芽は席を立ち、足早に店を出て行った。

残された私は彩芽を追いかけることもせず、ぼんやりと彩芽に言われたことを反芻していた。



________


家に帰り、彩芽に謝罪のメッセージを送ろうとするがなんと謝っていいものかわからず、そうこうしているうちに幸太郎が帰ってきてしまった。

夕飯を食べながら幸太郎に今日あったことを相談しようとするが、喧嘩の発端が自分が幸太郎の愚痴を言ったから始まったためそれもできない。


「ねえ、幸太郎。来月結婚記念日でしょう?2人でどこか旅行にでも行かない?」


結局気分を変えようと無難な話題を振った。


「ああ、そういえばそうだね。どこか行きたいところある?お金は気にしなくていいからいい旅館にでも泊まろうか。気になるところあったら教えて。予約しておくよ。」


いつもこうだ。誕生日も記念日も、欲しいものも行きたいところも、私の意思を尊重しているようで私のために考えるということをしない。今だってスマホで動画を見ながら会話をしている。私のために使う時間がそれほど惜しいのか。お金さえしっかり払えば私が喜ぶと思っているのだろうか。


、、、落ち着こう。嫌なことがあった日にはとことん思考が後ろ向きになる。幸太郎に悪気があるわけではないのだからここで感情に任せて怒るのはまるでヒステリーを起こしているように映るだろう。


「、、、ありがとう。考えておくね。」


それだけ言って食器を片付けるために立ち上がった。


________


家事を片付け、ゆっくりお風呂に入り、布団に入ってもまだ気分は晴れないままだ。

幸太郎は隣で安らかに寝息を立てている。

イライラした時はいつも幸せなだったことを思い出すようにしている。

初めて幸太郎とデートした時、告白されて付き合った日、プロポーズされた日、結婚式を挙げた日、、、

幸せな思い出はたくさんある。それでも時間がたてば経つほど記憶は色あせてしまう。

プロポーズのときに「運命だ」って言われたけどあとはどんな話をしたんだっけ。何を食べて、どこを歩いたのか、幸太郎はどんな表情をしていたのか。

普段は気にならないのに今日はそんな小さな幸せのかけらが消えて行ってしまう事がひどく悲しく感じた。


「ずっと、ずっと、幸せだったことをはっきりと覚えていられたらいいのに。」


それならば、昔に比べて愛されていないかもという不安もなくなるのに。


そんなことを考えながら、やってきた眠気に抗わず目を閉じた。


________


夢を見た。


幸太郎と初めて会った日の夢。


大学時代の友人と飲みに行って、二次会で行ったバーに幸太郎はいた。

私の友人と幸太郎の友人が知り合いで一緒に飲むことになったが、お酒も入っているワイワイとした雰囲気に人見知りの私はなじめず隅のほうでちびちびとカクテルを飲んでいた。

そんな私に幸太郎は声をかけてくれた。

「お酒、何が好き?俺もお代わり頼むから一緒に頼んでくるよ。」

最初はチャラい人かと思った。そんなことはないとすぐに分かった。

にぎやかな店内で私の声を聞き逃さないようにしているのに、密着してくることはない。

話し声はさほど大きくないのに太陽のように笑う顔が印象的だった。

友人たちは「今日撮った写真送るよ~」と一緒に飲んでいた全員と連絡先を交換していたが、私は幸太郎とだけ交換した。

幸太郎も他の女の子と連絡先を交換していないことがなんだか嬉しかった。


________


いつも通りの朝、朝食を用意しコーヒーを淹れる。

頭に寝癖を付けてあくびをしながら起きてきたあなたに「おはよう」と声をかける。

目玉焼きを載せたトーストを食べるあなたを見ながらお弁当を包んだ。

「行ってらっしゃい」と声をかけ、カバンを渡す。


「美咲、なんか今日は楽しそうだね。」


玄関で幸太郎が言った。


「そう?特に何もないけど、、。しいて言えばいい夢を見た気がするわ。どんな夢かは覚えてないんだけどね。」


なんだそれ、と笑って、行ってきますという幸太郎を見送った。


本当に、どんな夢だったっけ。


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