第4話 人間だけが選ばれる世界
第4話です。
今回はバトルは控えめで、
この世界の差別構造と歪みをはっきり描いています。
主人公が「なぜ許せないのか」が、
少しずつ言語化されていく回です。
部屋を出る許可が下りたのは、その日の夕刻だった。
「監視付きだがな」
そう言った聖騎士の声は、露骨に硬い。
俺の両脇に二人、数歩後ろにさらに二人。
護衛というより、完全に見張りだ。
(まあ、いい)
外の空気を吸えるだけマシだ。
神殿を出ると、王都の街並みが広がっていた。
白い石畳、整った建物、行き交う人々。
平和だ。整いすぎている。
「……あ」
通りの端で、声がした。
視線を向けると、荷車を引く一団がいる。
人間ではない。
耳が、違う。
頭の上に、獣のものらしい耳が生えている。
尻尾を隠そうとする仕草も、見て取れた。
獣人族。
数人の子どもと、痩せた大人。
服は古く、歩き方も疲れている。
「そっちは通るな」
聖騎士の一人が、低く言った。
「神殿前だ。獣は迂回しろ」
獣人の男が、深く頭を下げる。
「……すみません。すぐに」
「“すみません”じゃない」
聖騎士の声が強くなる。
「祝福を受けられぬ者が、神の前を歩くな」
子どもが、びくりと肩を震わせた。
母親らしい女が、その前に立つ。
「ごめんなさい……」
謝る理由なんて、どこにもないのに。
俺は、その様子を黙って見ていた。
(人間そっくりだな)
耳と尻尾があるだけで、顔立ちも体つきも、ほとんど人だ。
言葉も通じる。恐怖も、羞恥も、同じだ。
「……なあ」
俺は聖騎士に声をかけた。
「なんで、そんな言い方する?」
聖騎士が、露骨に顔をしかめる。
「異端は口を慎め。
彼らは人間ではない」
「だから?」
「七神の祝福を受けられない。
選ばれていない存在だ」
選ばれていない。
その言葉が、妙に引っかかった。
獣人の女が、俺を見た。
怯えた目だ。
だが、その奥に、諦めが混じっている。
「……大丈夫です」
彼女は俺に向かって、そう言った。
「慣れていますから」
慣れている。
差別に。
排除に。
自分が下だと扱われることに。
胸の奥が、嫌な音を立てた。
(これが、神に管理された世界か)
祝福を受けられるのは、人間だけ。
それ以外は、便利な労働力か、兵器か、見えない存在。
祈っても、届かない。
届かないから、価値がない。
——ふざけるな。
「……なあ」
俺は、獣人の男に声をかけた。
「ここじゃ、普通に生きられないのか?」
男は、一瞬言葉に詰まり、苦笑した。
「人間の町では、無理ですね。
仕事も限られますし……」
「じゃあ、どこに行く」
「辺境か……禁断の森、ですか」
禁断の森。
神の祝福が届かない土地。
追放者と無祝福民が流れ着く場所。
(なるほど)
「……行け」
俺は、聖騎士に言った。
「こいつら、通してやれ」
「は?」
聖騎士が俺を見る。
「何様のつもりだ。
異端が命令するな」
「命令じゃない」
俺は一歩、前に出た。
「忠告だ」
空気が、ぴり、と張り詰める。
聖騎士は一瞬、剣に手をかけかけて、やめた。
昨日の光景が、脳裏をよぎったのだろう。
「……行け」
不満そうに、吐き捨てる。
獣人たちは、信じられないものを見るように俺を見た。
「……ありがとう、ございます」
男が、深く頭を下げる。
俺は、答えなかった。
感謝されることをした覚えはない。
当たり前のことをしただけだ。
彼らが去ったあと、聖騎士が低く言った。
「情に流れるな。
世界は、選別で成り立っている」
「そうか」
俺は、空を見上げた。
「なら、この世界は——
最初から、腐ってる」
聖騎士は、何も言わなかった。
その沈黙が、答えだった。
(……神なんて、いらない)
少なくとも、
人を選別する神は。
第4話、ありがとうございました。
ここで
人間族だけが祝福を受けられること
獣人族がどのように扱われているか
主人公が“何に怒っているのか”
を描いています。
主人公は正義の味方ではありません。
ですが、
理不尽を当たり前として受け入れる世界を、
本能的に拒絶しています。
次話では、
この獣人族の中から
物語の重要人物が登場します。
次話も、よろしくお願いします。




