第1話 異世界召喚――そして異端認定
はじめまして。
本作を読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は
「神に選ばれなかった者が、神にされていく話」です。
勇者でも、救世主でもなく、
ただ戦うことでしか生きられない主人公が、
神と祈りで管理された異世界に放り込まれたらどうなるのか。
第1話では、
世界観・宗教・主人公の価値観がぶつかる
“最初の違和感”を描いています。
少しでも引っかかるものがあれば、
ぜひこのまま続きを読んでいただけると嬉しいです。
白い光が、視界を塗り潰した。
耳の奥で、低く重い詠唱が鳴っている。宗教歌みたいな、でももっと機械的で、祈りというより「手順」だ。
次の瞬間、足裏に冷たい石の感触が戻った。
——円形の祭壇。床には金色の紋様。周囲を取り囲む白装束の人間たち。高い天井、ステンドグラス、香の匂い。教会。神殿。どっちでもいいが、要するに「儀式の舞台」だ。
俺はゆっくりと首を回す。
視線の先に、玉座のような椅子。そこに座る中年の男が、息を呑んだ顔でこちらを見ている。王冠。豪奢な外套。ああ、これが国王か。
その脇に立つ若い男。整った顔に、磨かれた鎧。視線がまっすぐで、妙に自信に満ちている。——皇太子ってところだろう。
そして、その少し後ろ。祈るように胸の前で手を組んだ少女。柔らかい金髪、淡い光をまとって見えるほどの雰囲気。王女、だな。
最後に、祭壇の最前列。白と金の法衣をまとった男がいた。痩せていて、笑っているのに目が笑っていない。肩書きは分かる。
(大神官。……こいつが主催者)
男は両手を広げ、朗々と告げた。
「ようこそ。七神の導きにより、勇者よ。あなたは選ばれました」
——勇者。
よくある話だ。異世界召喚。救済。魔王。世界の危機。
俺は、まぶたを一度だけ閉じて、鼻で息を吐いた。
(で、ここは強いのがいる世界か?)
胸の奥が、うずく。生ぬるい日常に飽きて、ずっと欲していた感覚。喉が渇くみたいに、戦いが欲しい。
だが、空気は静かだった。殺気がない。敵の気配がない。あるのは、こちらを「期待」で見つめる視線と、神聖ぶった緊張感だけ。
「勇者様……!」
白装束の一人が、感極まったように叫ぶ。
「七神の祝福が、世界を救うのです……!」
「祝福?」
俺はその言葉を反芻してから、大神官を見る。
「まず確認。俺は、何をすればいい?」
大神官の笑みが深くなる。
「魔王を討ち、世界を救ってください。あなたには七神より祝福が授けられます。祈り、契約し、神の奇跡を——」
「いらない」
言った瞬間、空気が固まった。
誰かが息を止め、誰かが小さく呻く。王女が目を見開き、国王が硬直する。皇太子の眉がぴくりと動いた。
大神官の笑みだけが、崩れない。
「……勇者よ。祝福は、あなたの使命を果たすために必要です」
「必要かどうかは、俺が決める」
俺は肩をすくめ、祭壇の紋様を見下ろした。
(祈れば強くなる? 神が力をくれる? ……そんなの、つまらない)
強さってのは、奪い取るものだ。噛みついて、殴って、血を流して、それでも立って、ようやく手に入るものだろ。
「俺は祈らない。神にも頼らない」
皇太子が一歩前に出た。声は若いのに、王族の重みを帯びている。
「貴様……自分がどこに立っているか分かっているのか。ここは七神の御前だ」
「だから?」
俺は皇太子を見た。
(こいつ、強いのか?)
期待した。少しだけ。けれど、漂う気配は整っているだけで、尖りがない。守られて育った剣だ。折れないように、欠けないように、綺麗に磨かれた。
——違う。俺が欲しいのは、綺麗な強さじゃない。
「お前、俺と戦える?」
口にした瞬間、どよめきが走った。
「勇者様が、皇太子殿下に……?」
「不敬だ!」
「神前で決闘など——!」
国王が、低い声で制した。
「……落ち着け。客人だ」
客人。そう、俺は招かれた。勝手に呼ばれた。なら、こちらも好きにする。
俺は玉座の方へ顎を向ける。
「国王。強い敵はどこだ。魔王でも、神でもいい。生きるか死ぬかのやつがいい」
国王の顔に、困惑と恐怖とが滲んだ。王女は唇を震わせ、祈る手を強く握りしめる。
「あなたは……世界を救うために——」
王女が、小さく言った。
俺はその声を聞いて、少しだけ思った。
(この子は、信じてるんだな。神も、祝福も、正しさも)
でも俺は、正しさのために生きてない。
生きてる実感が欲しい。戦いが欲しい。負けるかもしれない恐怖が欲しい。それがないなら、ここに来た意味がない。
そのとき、祭壇の脇でずっと黙っていた男が、ふっと眼鏡を押し上げた。
白銀の髪。片眼が、宝石のように淡く光っている。宮廷魔導士か。
「……興味深い」
その男が、呟いた。
「祝福への同調が、まったく見えない。祈りの回路も、接続がない。にもかかわらず——」
男は俺を“測る”ように見た。視線が皮膚を刺す。嫌いじゃない。こいつは少しだけ「分かってる側」だ。
大神官が、ゆっくりと手を上げた。
「勇者よ。あなたは今、七神への契約を拒んだ」
笑みはそのまま。だが、声の温度が落ちる。
「祈りを拒む者は、祝福を拒む者は、秩序を拒む者です」
神殿の奥から、重い音がした。槍の石突きが床を打つ音。白装束の影から、武装した聖騎士たちが現れる。視線が、敵意に変わる。
(やっとだ)
胸の奥が、熱くなる。待ってた空気。戦場の匂い。
皇太子が剣に手をかけた。国王が立ち上がりかけ、王女が息を呑む。
そして大神官が、はっきりと言い放った。
「——この者を、異端と認定します」
その瞬間、神殿の空気が“殺すための形”に変わった。
俺は、笑った。
「……いいね。ようやく、話が早い」
第1話、最後まで読んでいただきありがとうございました。
ここまでで
主人公は「勇者」ではない
祈らない
神を前提にしていない
という点だけは、はっきりさせています。
この先、
なぜ彼が異端として扱われるのか、
なぜそれでも人を救ってしまうのか、
そしてなぜ「八柱目」と呼ばれることになるのかが、
少しずつ明らかになっていきます。
次話からは
戦闘狂としての本性と
この世界の歪みが、よりはっきり描かれていきます。
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次話も、よろしくお願いします。




