表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/160

第93話 :「《勇者編》佐倉さんだけじゃない、勇敢なる戦士たちとの共闘が、危機を打ち破る」

 この上級魔法は、本で読んだことはございますが、実際に習得したものではありません。いえ……正確に申しますと、すべての上級魔法を私一人で使うことはできないのです。ですが、あのスキルを少しだけ借りれば、必ず発動できるはずなのです。


 ただ……そのためには、心を決める時間が必要でした。気持ちを沈めて「決心の状態」に入らなければ、(消えない信念)は発動いたしません。けれど仲間が危機に陥ったときは、その状態により速く到達できるのです。


 梨花さんは賢者であり、複数の上級魔法をきちんと学んでいらっしゃいます。ですが彼女にも詠唱の準備時間が必要でした。


 私は、真白さんが必死に私たちを守ってくださる姿を見ておりました。オークキングの圧倒的な一撃に押され、その衝撃だけで彼女は傷を負ってしまうほど。


 そして……血を吐きながらも、それでも笑みさえ浮かべて立ち続け、私たちを護り抜こうとする真白さんの姿を見て……胸が締めつけられるほどに痛くなりました。


 だめです、こんなのは……!

 なぜ私は仲間が傷つく姿をただ見ているのでしょうか。

 違います、こんなのは間違っております!


 私は彼女の傍らで戦わなければならないのです!

 目の前で仲間が傷つくなど、絶対に許せません。孤独に戦わせるなんて、私には耐えられないのです!

 私の魔法がついに起動しようとした、その瞬間――。


「すみません、勇者さま! 一体のハイオークを取り逃がしました!」


 しまった……! こちらに迫ってきてしまいました……!ですが、今は私も梨花さんも魔法の詠唱中……!ほんの数秒の差で、私たちは危うくなってしまうところでした。


 その時――佐倉さんが駆けつけてくださいました!


「くっ、澪さんたちの邪魔をするんじゃないわよ! 止まりなさいっ!」


 彼女は試験管を投げつけ、その中身がハイオークに命中しました。


 砕け散った硝子から溢れた緑色の液体が敵を覆い、その動きを鈍らせていきます。足が粘りつくように地面へ縫いとめられ、敵は必死にそれを掻き取ろうとしながらも、確実に動きが遅くなっていきました。


 佐倉さんは間髪入れずに追撃されました。


「くらいなさい! 今度こそ動けなくしてやるんだから!」


 投げられた筒状の器具が地面に叩きつけられた瞬間、黒い煙が噴き出しました。ハイオークはその煙の中で咳き込み、涙まで流し始めております。


「ふふん、催涙スプレーのようなものよ。いくら異常耐性が高い魔物でも、この煙は耐えられないでしょう? 澪さん、今のうちに!」


 ……本当に、私は幸せ者です。

 こんなにも頼れる仲間に囲まれているのですから。

 だからこそ、私は絶対に皆さまを守り抜いてみせます!


 私の鋼剣に水の奔流が幾重にも巻きつき、刀身を覆いました。準備は整いました。


「澪さん、こちらも準備完了です! 一緒にいきましょう!(ツインフュージョン魔法)」


 梨花さんの杖には螺旋状の風が渦巻き、その先端に魔力が収束していきます。私はその杖の上に自らの剣を重ね、前に使ったことのある水の螺旋を射出する魔法を重ね合わせました。二つの魔法が一つに融け合っていきます――!


「(スパイラルアクアシュート)!」

「(スパイラルトルネードシュート)!」


 水の奔流と暴風の竜巻が融合し、巨大なドリルと化してオークキングへと迫りました。真白さんが素早く退避し、その直後に魔法は直撃。


 オークキングは斧を両手で握り、必死に防御しようとしました。ですが……私たちの魔法は、そう簡単に止められるものではございません!


「なめないでください……っ!! はぁぁぁあああっ!」


 梨花さんがさらに魔力を注ぎ込み、風の渦が鋭さを増していきます。その圧力は葉を切り裂くどころか、大地さえ抉るほどに苛烈でした。


 数秒後――オークキングの斧は粉々に砕け散り、その腕も押し開かれてしまいました。そして、私たちの魔法はついに鎧を穿ち、胸元へと突き進んでいったのです。


 ……ですが、その直後。私たちの魔力は尽き、私もまた「決心の状態」から外れてしまいました。(消えない信念)の効果も解除され……。


 オークキングは、嘲笑うような目でこちらを見下ろしました。まるで「結局は届かなかった」と言わんばかりに――。


 ……いいえ、私たちは負けてなどいません。これは、私の計算のうちですから。


「真白さん! 胸部の装甲が剥がれて、肌が見えています! 今です、一緒に行こう!!(アクアソード)!」


「了解だ! 一気に終わらせるぞ!!(光の剣)!」


 私と真白さんの剣は、それぞれ水と光の輝きに包まれました。属性を纏った刃を構え、二人同時に突撃します。


 しかし、その決定的な瞬間——煙の中から、あのハイオークがもがき出てきてしまったのです。粘液には囚われたままですが、その腕だけはなお自由に動いていました。


「グォォォォォォッ!!」


 雄叫びと共に、手にした戦斧を振りかぶり——そして、こちらへ投げ放ってきました!


「……っ!」


 しまった……! 今の私たちの背後は完全に無防備。しかも、その戦斧の速度は凄まじく、ほんの一瞬の逡巡の間に、もう目前まで迫っていました。


 防御するべきでしょうか? でも、それではせっかくの好機を捨てることになります。……どうすれば……どうすれば打開できるのですか!?


 ほんの一秒足らずの間に、私の頭の中では無数の記憶が駆け巡っていました。まるで走馬灯のように。初めてです……本当に、世界がスローモーションになったかのように見えたのは。必死に考えます。この危機にどう立ち向かうべきか。


 ——そのとき、視界の端に、縛られた獣人の尻尾が映りました。


 私は振り返らず、前を向き直しました。オークキングに全てをぶつけるために。背後の危機は、仲間を信じて託します。


 戦斧が空気を裂く音が耳を打ちます。鋭い軌跡を描きながら、迫りくる……!しかし——衝突の直前、轟音が響き渡りました。


「ハッハッハ! 勇者様、遅れてすまねえ! だが心配はいらねえぞ! アンタたちの背中は、この俺ジョンに任せな!! ハイオーク一匹二匹程度、負けるわけがねえ! さあ行くぞ、皆!」


 ジョンさんが、その巨斧で投擲された戦斧を弾き飛ばしてくれたのです! 轟音と共に武器は遠くへ吹き飛び、そして彼と仲間たちがハイオークへ立ち向かっていきました。


「……ジョンさん……ありがとうございます!」


 私は心で感謝を叫びながら、真白さんとともに最後の一撃へと駆け出します。真白さんは私の背に続き、突きの構えでスキルを放つ準備をしています。


 私は——両腕を交差して防御するオークキングに向かって、今の自分が放てる最強の斬撃を叩き込みました。


「すべてを断ち切れ!!(一刀両断)!」


 水の刃が私の剣の鋭さをさらに高めます。そして、仲間たちが与えてくれた無数の傷跡をなぞるように、私の斬撃は確かにその両腕を断ち切ったのです!刃を振り抜いた私は、すぐに横へと滑り込みます。


「ギィィィィィィッ!!」


 断末魔を上げるオークキングに、真白さんが追撃を叩き込みました。


「無駄だ! ここで終われ!!(爆発一撃)!」


 真白さんの剣が胸を貫き、その瞬間——内部から爆発が起こり、轟音と共に巨体が光の柱に包まれました。


「グオォォォォォォォッ……!!」


 絶叫を残し、オークキングはゆっくりと倒れ込んでいきます。そして、動かなくなりました。


「……やりました……! これで、勝利です!」


 胸いっぱいに息を吸い込み、私は声を張り上げました。


「オークキング——討伐成功でした!!!」


皆さま、こんにちは。今回の戦闘描写もお楽しみいただけましたでしょうか。


今回は澪がこれまで使用してきたスキルの総合的なご紹介、そして真白たちの能力についての紹介を中心にいたしましたので、冒険者の皆の活躍はやや控えめになっております。


しかしながら、その分、澪が勇者としてどのような戦闘スタイルを持ち、仲間たちと力を合わせて肩を並べて戦う存在であるかを、より鮮明に描くことができたかと存じます。


今後さらに澪さんの活躍の場が増えてまいりますので、ぜひご期待くださいませ。


もし本作をお気に召していただけましたら、ご評価やブックマークをしていただけますと、私にとって大きな励みとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ