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第92話 :「《勇者編》佐倉さんがくれた勇気、戦いはよりスムーズになった!」

 十分な魔力量を吸収した私は、すぐさま莫大な魔力を食う魔剣を仕舞い、インベントリから魔鋼剣を取り出して装備いたしました。


 ――迅捷の鋼剣。効果は「剣の重量を軽減し、持ち主の力と速度を中程度に上昇させる」。


 特別なスキルはございませんが、私にとっては十分すぎるほど頼もしい力でした。真白さんと一緒に受けた短期の剣術訓練、そして覚醒後に身についた剣技は、今では一般の騎士と同等の水準にまで達しているのですから。


「皆さん、ジョンさんを助けに行きましょう!」


 私が提案すると、全員がうなずき、前線への支援を決意しました。


「ちょっと待ってください、澪さん!」


 その時、佐倉さんが馬車から飛び出し、数個の魔石を抱えて私のもとに駆け寄ってきました。


「これを持って行ってください。さっき倒した魔物の魔石を、緊急で加工したものです。《魔の爆弾》。今の私には、これくらいしかできませんが……」


 そうでした。彼女の職業は錬金術師。道具を生み出すことに特化した存在。そして、渡された《魔の爆弾》は――魔力を少し注ぎ込むだけで爆発を起こす、手榴弾のようなものに違いありません。


「ありがとうございます、佐倉さん。これで、さらに自信が持てます。ですから、どうか馬車に戻って隠れていてください。私たちが必ず魔物を片づけますので」


「……嫌です。私は、皆を助けたい。戦うことはできなくても、私にだって誇りがあります。もう、泣いているだけの自分には戻りたくないんです!」


 その身体は震え、脚も大きく揺れていましたが、彼女の瞳には確かな勇気が宿っておりました。私はその気持ちを受け取り、魔石を手にしたまま彼女の覚悟を認めることにしました。


「じゃ……分かりました。でも、佐倉さんは必ず後ろに下がってください。支援がしたいのなら、適切なタイミングで道具を投げてくだされば十分です。よろしいですね?」


「も、問題ありませんっ!投げるのは得意ですから!野球をやっていた時期もありましたし!」


 彼女の心強い返事を受け、私たちは急いで最前線へと駆けつけました。ですが――そこではジョンさんが既に深手を負っていて、敵の一撃を受け止めきれず、弾き飛ばされ隙を晒してしまったのです。


 オークキングが手にした巨斧を振り上げ、その腹部を狙って振り下ろそうとしていました。


 ――させません!


「梨香さん!この爆弾を強化してください!」


「はいっ、澪さん!(ファイアー・エンチャント!)」


 炎の属性を付与された爆弾は、手の中で激しく震え、熱を放ちます。その力を感じながら、私はオークキングの顔めがけて思い切り投げつけました。


 魔石は音を裂くように飛び――時速百五十キロを超える速さで直撃。直後、轟音とともに炎が炸裂しました。


「……しまった!ジョンさんまで巻き込んでしまう――!」


「任せて!(防御障壁!)」


 エミリアさんが瞬時に防御障壁を展開し、爆発の威力を受け止めます。ジョンさんは吹き飛ばされましたが、幸運にもオークキングとの距離が広がった形になりました。


「ご心配なく、淑女の皆さん!ジョンは私が受け止めました!……大丈夫か、ジョン!おい!何ぼーっとしてる!お前らの隊長早く治療を!」


 ジョンの後衛の仲間が駆け寄り治療を開始しましたが、戦況はなお厳しいまま。ジェームズさんが私のもとへ駆け寄り、短く問いかけます。


「澪殿、オークキングは私が引き受けます。あなたは――」


「いいえ。オークキングは私が戦います。ジェームズさんは、《ウェアウルフの誇り》の皆さんと共に他を抑えてください」


「しかし……!あれはBランクの魔物です。それにあの装備、もはやAランクと同等の力を――」


「大丈夫です。私は《勇者》です。ひとりではありません、皆さんがいます。ですから……私の事を信じて、任せてください!」


 私の決意を受け取ったジェームズさんは、しばし逡巡ののち、黙って頷き、仲間たちの元へと駆けて行きました。


「澪、前から何度も言っていた……そんなに格好つけないでくれね?」真白さんが片方の頬をぷくっと膨らませて、不機嫌そうに私を咎めてきます。


「ふふっ……ごめんなさい。皆さんをまた無理に巻き込んでしまいましたね。」


「まぁまぁ、そんなに怒らないでくださいな、真白さん。澪さんの性格は、もう分かっているでしょう? 今回はまだ突っ走っていませんし……それで、澪さん、何か作戦はございますか?」


 梨花さんが間に入ってくれて、真白さんを宥めます。……本当に、私のこういう性格、なかなか直せないものですね。


「……ひとつ考えがございます。《あの力》を少しだけ使おうかと。」


「えっ!? 澪、それは――あの危険なスキル、《消えない信念》のことか!? まだ完全に制御できていないんだよね! 身体が勝手に動いてしまう危険だって……だめだよ、絶対に!」


 エミリアさんが真剣に反対してきます。そうです……前にそのスキルを使って倒れてしまった時、エミリアさんをとても心配させてしまったのです。


「大丈夫です、今回はほんの一瞬だけです。たった一度、上級魔法を放てれば……きっと形勢を逆転できるはずです。」


「ちょ、ちょっと!じゃあ、私が時間稼ぎする!――おい、そこの醜いオークキング!相手はこっちだ(挑発)!」


 爆発で一時的に混乱していたオークキングが、獰猛な眼差しを取り戻して真白さんに向かってきます。真白さんは大盾を構え、防御の姿勢を取りながら挑発スキルで敵を引きつけてくださいました。


「ぐっ……はぁぁっ!」


 巨斧が何度も大盾に叩きつけられ、そのたびに真白さんの足元の地面がひび割れていきます……!


「エミリアさん、私を信じてください。今回は倒れませんから……真白さんの能力を強化してください。お願いします!」


 そう頼み、私は真白さんの背後一メートルの位置に下がり、梨花さんを呼び寄せます。梨花さんは少し不満そうに眉をひそめながらも、私の隣に並びました。


「もうっ! 澪、あとで絶対説教するからな!(自動回復)!」


 エミリアさんが真白さんに《自動回復》をかけてくださいます。これで十秒ごとに生命力が回復し、真白さんはより長く耐えることができるでしょう。


 そして――私と梨花さんは顔を見合わせ、短い打ち合わせの末、決めました。


「……この魔法で、勝負を決めましょう!」


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