第90話 :「《勇者編》王子と審判を失った世界、そして崩壊する男子との対話」
そして、鷹山凛さん。彼女はいつも凛々しく、まるで王子様のような雰囲気を纏っていらっしゃいました。
日々剣道に打ち込み、真っ直ぐでありながら決して押し付けがましくはなく、むしろ相手の尊厳を守りつつ自然と引き締めさせる――そんな不思議な力を持っていました。
あの時もそうでした。渡辺さんが女教師に人前で恥をかかされ、不登校になりかけたとき……。鷹山さんは彼の肩を軽く叩いて、こう仰いました。
「逃げたら、一生『逃げる奴』の烙印を背負うことになるよ」その一言で、渡辺さんは翌日には登校してきて、私たちに謝罪までしていました。
彼女は「男の子のプライド」という厄介なものをよく理解していて、それを尊重しながら導くことができる方でした。
だからこそ、鷹山さんは堂々とした性格、魅力的な容姿、そして高くしなやかな体躯を持つことで男子たちからも大人気でした。ですがその堂々たる存在感がかえって男子を萎縮させてしまい、告白など到底できない雰囲気を生んでいたのです。彼女は憧れの象徴であり、男子にとって「越えられない壁」でもありました。
もし鷹山さんが今回の争いに介入されていたなら、きっと事態はここまで悪化しなかったのではないでしょうか。
そして、みんなから「委員長」と呼ばれていた森本梓さん。
彼女は普段から多くを語らず、黙々とノートを取り、掃除や規律を整えていました。ですが、誰よりも公平で、誰の意見にも耳を傾ける人でした。
教室で口論が起きれば、まず女子たちの話を止め、次に男子を見てこう尋ねるのです。「では、皆さんのご意見は?」
彼女は決して偏らず、ふざけた態度も許さない。その真面目さがあったからこそ、男子も排除されたとは感じず、女子も男子の意見を無視することができませんでした。
私の頭の中には、あの時の情景がはっきり浮かびます。
教室に集まる私たち。議論が始まりかけると、藤原さんが窓際に腰を下ろし、星野さんが静かに人を諭し、鷹山さんが冷静に場を整え、森本さんが議題を整理して……。
藤原さんはその時、きっと冷ややかにこう言ったはずです。
「未来を決めるのが早すぎじゃねえか? 一つの国を見ただけだろ」
それに新田さんが苛立ちを隠せず返すのです。
「じゃあ、お前はどうしたいんだよ」
「もちろん全部見てから決めるべきだ。……この国の貴族たち、やけに積極的すぎると思わねえか? 俺たちを戦争の道具として見てる可能性だってある」
その一言で男子たちの表情は一変するでしょう。
なぜなら、それはあの藤原さんの言葉だから。普段は孤立し、好かれていない人の口から出たからこそ、余計に心に刺さるのです。彼らは決して「お前たちはただ初めて褒められて舞い上がってるだけだ」と見下されたくなかった。だからこそ考え、迷い、反発しながらもついていったのでしょう。
もちろん、残る人もいたかもしれません。ですが、今のように枝を無理に折られたように、私たちがバラバラになることはなかったはずです。
いつも無口な藤原さんの意見に、星野さんがそっと頷く。
「うん、それがいいと思う」
すると鷹山さんが凛々しく笑って言うのです。
「美月がそう言うなら、僕も賛成だ」
そのうえ二人は男子の心を掴んでいました。鷹山さんは自然に威厳を纏い、星野さんは男子の憧れ。彼女たちの決定に逆らう男子など、いなかったでしょう。
そして森本さんが記録を取りながら、きっぱりと。
「それでは流れを整理します。皆さん、役割分担を決めましょう」
そうして私たちのクラスの結論は導かれてきました。強引な押しつけではなく、媚びへつらいでもなく、自然に流れが形になるように。
最初にその流れを生み出していたのは――藤原瑛太さん。そして最後に方向を定める星野さんと鷹山さん。それを整理し全体に広げる森本さん。
あの四人を欠いた今、私たちは男女を繋ぐ橋を失い、それぞれが別々の道を歩むしかなくなってしまったのです。
私は唇を噛み、胸の奥がじんわりと痛みました。どうしてもっと真剣に皆と関わろうとしなかったのか。せめて藤原さんのように、自分の意志を貫いて周囲に影響を与えられる強さがあれば……。
だからこそ、私はこの異世界で藤原さんに倣います。
もう盲目的に多数派に流されることはしません。
必ず、自分の意志を貫き通してみせます。
皆さま、こんにちは。これまでお読みいただき、誠にありがとうございます。いかがでしたでしょうか。
僕自身、数多くの作品において「主人公がクラスの美少女たちから一斉に注目される」という展開に、やや唐突さを感じておりました。そこで今回の物語の主人公・瑛太にはいくつかの特質を加えております。
例えば、夢を決して簡単に諦めないこと、大切な人に対してはとても甘く接すること、そして女性の心を上手に慰められることなどです。そうした要素によって、美月たちが瑛太のそばにいることを心地よく思えるようにいたしました。
ただし、日本にいた頃の凛や梓は、まだ本当の意味で瑛太に惹かれていたわけではない――そんな物語になっております。
したがいまして、ここまでが澪の視点から見た瑛太たちの姿であり、これからは舞台を連邦へと移し、澪たちの選択に焦点を当ててまいります。(ちなみに余談ですが、最終的には澪も瑛太を想うようになります。その過程がどのように描かれるのか、ぜひご期待くださいませ!)
そして明日からは戦闘の章を更新いたします。次回は月曜日の夜21時に公開予定でございますので、どうぞ楽しみにお待ちいただければ幸いです。ブックマークやご評価をいただけますと、とても励みになります!




