第9話 :「回想の終わりに、待っていたのは集団リンチ。だが、この状況も打破してみせる」
《現在に戻る》
……結果として、あのバスは……トラックに衝突され、崖下へと転落した。
そして俺は――その後、きっと死んだんだと思う。
だが、目を覚ました。ルナリア女神の召喚によって。
目を開けた瞬間、そこにあったのは闇と、湿気、そして……骨。
俺は、本物のスケルトンの魔物になっていた。痛くもない。痒くもない。腹も減らない。
――ただ、言い表せない「違和感」と「圧迫感」だけが、意識を締め付けていた。
そうだ。この世界は……俺が目を覚ましたその瞬間から、まるで優しさなんて欠片もなかった。
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「うわっ、すみません、ちょっと! 頭蓋骨、噛まないでもらえます!?」
牙をむいて飛びかかってきたドッグ・デーモンをギリギリでかわし、俺はその頭に剣を振り下ろした。刃には、光と闇が絡み合うような紋様が浮かび上がっていた。
――たぶん、これは剣術スキルの効果だろう。
斬撃の瞬間、ダメージが強化され、敵へのダメージ量が増加する。
今の俺が使えるスキルはごくわずかで、特に戦闘系は心もとない。こんな準備不足の「突発戦闘」は、今の俺にとっては命取りだ。
「くそっ……今度こそ、本当に死ぬかも……!!」
そう思いながらも、俺は剣の柄を強く握った。
――まだ死ぬわけにはいかない。
探さなきゃいけない人がいる。果たすべき約束もある。
それに――まだ、帰れてないんだ。俺の家に。
腕を噛みちぎられるのを覚悟で、わざとスケルトンの腕を狼人族に噛ませ、その隙にナイフを喉元に突き刺した。
一匹仕留めたあと、すぐに距離を取る。俺はずっと、相手の動きを分析していた。なぜ分析するかって? 《森羅万象》には、まだ他の効果があるんだ。
《戦術演算補助: 「森羅万象」の情報解析と連動し、戦況と味方の能力に基づき、最適な戦術演算をリアルタイムで行う。現在は攻撃ルートの分析および視界への投影が可能。》
つまり、俺に今できることは、攻撃パターンの分析時間を稼ぐことだけだ。
……くそっ。もし魔法が使えれば、今このスキルをフル活用できたはずなのに!
《具現描写:魔力を通して魔法文字を具象化することができ、詠唱不要で魔法が発動可能。魔法陣の一種から派生したスキル。》
腕が一本ないだけで、感覚が狂う。回避の精度も落ちる。仕方ない、回復するしかないか……。
「《ヒール》!」
俺の体が聖なる光に包まれる。
HPが回復し、失われた腕も再生された――これで、まだ戦える。RPGゲームの常識なら、聖属性魔法はアンデッドに無効、あるいは弱点のはずだ。だけど、この世界は違うようだ。
俺が聖属性魔法を使える理由、それは俺が持っている二つのスキルにある。
《神聖魔法:女神より全ての知的生命体に授けられた力。女神への信仰を持つ者は、高位の神聖魔法を使用可能。》
《(ヒール):属性を持たない神聖回復魔法。正の生命体にも負の生命体にも効果がある初級魔法。》
……正の生命体と負の生命体って、多分、普通の生物と不死者のことだろうな。
だけど、普通の《ヒール》じゃ、腕まで再生できるなんて聞いたことがない。それが可能なのは――このスキルのおかげだ。
《(純真信仰):純粋かつ誠実な信仰心から発現する稀少スキル。神聖魔法の習得難易度と発動難易度を下げ、消費魔力量を軽減、精神力の回復速度を上昇させ、《神聖魔法》の回復量と性能を向上させる。》
女神様……本当に、ありがとうございます。あなたの加護がなければ、俺は今回の襲撃で重傷を負って探索を断念していたかもしれません。
《神聖魔法》を創ってくれて……ありがとう。
危ない!俺は前方へ転がり、なんとか敵の連携攻撃を避ける。卑怯だろ、こいつら……二匹も三匹も、一気に襲ってくるなんて!
……マズい。やっぱり今の俺には、即戦力になるような戦闘スキルが圧倒的に足りない……。
現在、俺を囲んでいる敵は――二十体。
ついに包囲網が完成しちまった。
……生き延びるには、この包囲を突破するしかない。
だったら……よりアグレッシブに動くしかねぇ!
三体の魔物が同時に襲いかかってくる。そのうちの一体の攻撃を紙一重でかわし――
「……今だッ!!」
俺は《黒曜石の短剣》を背後のオークの頭部に向かって投げた。
狙いは脳天。刃はブレることなく、見事にその巨大な頭蓋に突き刺さった!
――やった!
この集団の中で一番厄介なのがオークだった。こいつさえ落とせば、プレッシャーはぐっと下がる。
俺は初期装備だった《損傷したスケルトンの短剣》を取り出し、残りの魔物たちと対峙する。
次の行動は、もう決まっている。
――敵が一斉に襲いかかってくる瞬間を待ち、すべてを避け、隙を突く。
……そして、それを繰り返すだけ。
時間にして約十分。ようやく、奴らの行動パターンの解析が完了した。
よし……来た……!
視界には、敵の攻撃ルートが数秒先まで投影される。
魔物たちは、まるでその投影に吸い寄せられるように動き始めた。
たとえ表示時間が数秒でも、それで十分だ。俺はすべての攻撃を回避し――
「……そこだッ!!」
短剣を喉元へ叩き込む。
首元という急所を突けば、損傷武器でも致命傷になる。
あとは……この手を、何度も何度も繰り返すだけ。
そして――ついに、俺は全ての敵を斃しきった。