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第84話 :「間章:あの懐かしい聖剣に、マリアは大切な人を思い出す。」

 マリアは安堵の微笑みを浮かべていた。


 映像の中では、瑛太が楽しげに美月や梓の頭を撫でている。その背後からは凛が抱きつき、まるで瑛太の背中に自分の喜びを重ねるように微笑んでいた。凛は、自身の身体の一部に人間の肌が戻ったことを祝福しているのだろう。その姿は、どこか無邪気で、そして幸福そうだった。


 四人が楽しげに騒ぎ合う光景は、マリアにとって懐かしくも温かな記憶を呼び起こすものであった。その一方で、彼女の脳裏にはつい先ほどの戦いが甦る。


「……まさか、あの悪魔が《第二試練領域・幻夢の試練》に現れるとは思いませんでした。あの存在は、本来ならば第四試練にのみ出現するはずの敵……」


 マリアは眉をひそめ、静かに疑念を口にした。彼女はよく知っていた。この迷宮は《第一次世界最終決戦》の後に、女神(ルナリア)様自らの御手によって創られたもの。定められた秩序を持つ存在であれば、本来、決して自らの領域を越えることはないのだ。


「さらに……あの聖剣も。私は瑛太君に託した覚えはございません。どうして第一層の宝箱から現れたのでしょうか。しかも……このような形で目覚めを迎えるとは……」


 声は穏やかだが、胸の内には驚きと戸惑いが渦巻いていた。


「……やはり、これも運命なのでしょうか。それとも……特別な者だけが引き寄せる必然の奇跡なのですか?」


 マリアにとって、今回が初めての「世界を守護する主天使」としての役目だった。ゆえに、運命というものがいかに働くのか、未来を見通すことなど、彼女にはまだできなかった。


「なるほど……ルナリア様が好まれる『育成』とは、こういうものなのですね。予測不能な成長と、偶然が織り交ぜられた果てに生まれる希望……」


 介入せずとも、瑛太たちは確かな成果を見せていた。そのことに、マリアは心からの喜びを覚える。そして思い出すのだ――聖剣が目覚めた瞬間に、自らの心に甦ったかけがえのない友の面影を。


「聖剣は……まだ《覚醒》してはおりません。真に目覚めるには、揺るぎなき信念と精神が必要……。瑛太君が、いかにそれを成し遂げるのか……私は、静かに見守らせていただきます」


 その瞳に映るのは、かつて邪神との大戦を共に戦った仲間たちの姿だった。


 ――ただの王女であった少女が、やがて吸血鬼の女王となり、民を守るために世界を背負った尊き女王。彼女一人で、眷属の群れを率い、一つの軍団と等しい。その突出した才能は、「一人=一軍」という圧倒的な威圧感である。「(血の戦女神)—リリア・フォン・エヴァーナイト」


 ――あらゆる弱者を守護することを己の誓いとした、高潔なる聖騎士にしてハイエルフたちの最強の戦士。「(民を護る盾)—セラフィエル・ダルデンヌ」


 ――創世の時代すら超えて生きる叡智の存在。ドラゴン族の未来のために邪神へ挑んだ黄金龍。「(万魔を統べる叡智)—オーレリアン・ドラケンソウル」


 ――そして、マリアにとって最初の友にして、生涯における最愛の人。共に村を失い、共に旅立った幼馴染。比類なき剣技を誇る聖女、彼女は世界を深く愛し、常に信徒と共に戦場に立つ。彼女がいる戦場では、死者の数が最も少ない。なぜなら、彼女は剣で敵の攻撃を断ち切りながら、同時に神聖魔法で味方を癒すからだ。その存在は、最も人々を心から信服させる聖女である。「(聖剣の救済者)—ルリエ・センクレア」


 聖剣を見つめるたび、マリアは彼女を思い出す。ルリエが手にしていた聖剣と、今瑛太が持つ剣とが、あまりにもよく似ていたからだ。戦いの後、仲間の多くは命を落とした。


 例外はオーレリアンのみ。しかし、彼でさえ真に幸せな結末を迎えたとは言い難いだろう。本人は楽観的に、戦いの後の生活と向き合っている。


「もし……もしも、ルリエが戦後も生きていたなら。きっと、学校の教師になっていたはずです。だってルリエは子どもが大好きで……人に何かを教えることを、この上なく楽しんでいらっしゃいましたから」


 彼女はマリアにとって誇りであり、かけがえのない存在だった。短き人間としての生涯の中で、最も大切に思えた友。


 ――マリアはただ、懐かしむように微笑んでいた。けれども、そのときの彼女はまだ知らなかった。


 やがて訪れる運命の先に、彼女が生涯で最も大切にした存在と、再び相まみえる時が来ることを。


皆さま、こんにちは。


今回の更新は、第三章に登場するヒロインへの伏線、そして未来における瑛太の成長の可能性を示す伏線となっております。少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。


実は本日21時には特別編も更新予定でございます。こちらは世界観をまとめた特別な章となっております。そして、明日からはいよいよ澪の勇者編に本格的に戻ります!


澪が皆さまをこの世界の他の国々へと導き、その中で連邦という存在がさまざまな意味で既視感を覚えさせるかもしれませんが、いかなる類似も完全に偶然であり、本作は完全オリジナルでございますので、あくまで創作です、どうぞご安心くださいませ。


もしお気に召していただけましたら、ぜひ高評価やブックマークをお願いいたします。それが僕にとって最大の励みとなります。


本日もお読みいただき、誠にありがとうございました。それでは、今夜21時にまたお会いいたしましょう!

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