第79話 :「目覚めたら、見慣れない半円の天井でした。」
どれくらいの間、意識を失っていたのか分からないが──俺はようやく目を覚ました。
瞼を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは見慣れない半円形の物体。頭はやたらと柔らかい何かの上に乗っているらしく、この感触には覚えがあった。
「……あ、瑛太さん。やっと目を覚ましたね。」
半円形の上から、突然美月の顔が現れる。……え、まさかこれ、美月の膝枕じゃないか!?なるほどな、どうりでこの感触、やけに懐かしいはずだ。膝枕か。昼寝の時は、いつも妹がこうしてくれてたんだ。いや、違う。これはあまりの衝撃に俺は勢いよく体を起こしてしまい、美月も予想外の動きにのけ反った。
「もう、瑛太さん。そんな急に起き上がったら危ないだよ。危なかった、ぶつかるとこだったよ。……おはようございます」
「あ、ああ……えっと、その……悪い。ちょっとびっくりしたd。それと、おはよう、美月。その、なんで俺は君の膝の上で寝てたんだ? それに……なんで急に人間の姿に戻ってるんだ? ていうか、ここどこだよ。凛たちは?」
「まぁまぁ、落ち着いて。一つずつ答えますから、少し冷静になってね。」
俺は正座した美月に、慌てて自分が倒れた後のことを問いただす。
だが美月はにこにこと微笑みながら、俺を宥めるように視線を返してくるだけだった。少し落ち着きを取り戻した俺が周囲を見渡すと──凛と梓の姿があった。
凛はまだリザードマンのまま、梓も狐の姿のままだが……二人の表情はあまり愉快そうではない。どうして二人は怒っている?
そして俺が彼女たちの視線を追うと、美月が握った拳をくるりと回しながら言った。
「……みなさん、じゃんけんは神聖な勝負だからね?勝った人が瑛太さんに膝枕をしてあげるって、約束したじゃん、そんな目で見てないで。」
「分かってるけど……」
「自分があの時、チョキを出したことを心底後悔してる」
……ああ、つまり俺に膝枕をさせたかったってことか。……正直、それを争う理由がよく分からないんだが。
「じゃあ梓、君が(投影)で美月を人間にしたのか?」
「仕方ないじゃない。約束だもの。それに、そうでもしないと全員が膝枕できなくなるし、それだけは公平でしょ」
「……なんか、君たちがのんきそうで安心したよ。で、俺が倒れた後……何があった?」
「うーん……大したことじゃなかった。瑛太さんのそばを漂っていた剣が、そのまま瑛太さんの身体に吸い込まれて、そこで気を失ったんだ。だから私たちは瑛太さんを背負って階段を降りて……で、ここがその先の部屋だ。魔物もいないし、あなたが目覚めるまで休んでいたんだよ」
美月の説明を聞いて、俺は逆に困惑する……あの聖剣、俺に助けてほしいって言ってたよな? なのに勝手に俺の中に入った? どういうことだ、(森羅万象)?
《(誓約の聖剣)は既に主と同化しております。現在は肉体内部に滞在し、同化を深めています》
……おいおい、なんか物騒な響きだぞ。「同化」ってなんだ?
《同化:二つの異なる存在を一つに繋ぐ行為。同化により、両者は一体化します。一方が殺害された場合、もう一方の魂の奥底にて再構築され、再び蘇生が可能です》
……なんだそれ、思ったよりメリットがあるじゃないか。で、どうやって聖剣を使えばいいんだ?
《……不明。現在は(誓約の聖剣)を召喚できません》
……やっぱり未知か。しかも聖剣って勝手に俺を助けたんだよな? じゃあこいつに意思はあるのか?
……反応なし。どうやらスキル自身も分からないらしい。
……ダメだな。やっぱり俺、スキルに頼りすぎてる。もう少し自分でもやれるようにならないと……。
「瑛太さん、そろそろ頭の中も整理できたんじゃないか? じゃあ教えてくれないか、その……あなたのこと」
「……ああ、いいぜ。ただ……どこから話せばいいか分からない。お前ら、何から聞きたい?」
美月はそう言ってから凛と梓を見やり、二人はしばし視線を交わした後、興味のあることを聞いてきた。